お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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飼い主 1

ジーノ過去編。やりたい放題妄想捏造閲覧注意。1は小学~中学時代。2は高校時代前半、3は高校時代後半~入団まで(予定)です。ジノ→タツ(尊敬)、ジノ+モチ(肉体関係有のお友達)の話がメイン。ゴトタツもちらっと。少しだけどとても重要なシーン。イジメ表現あり。王子、後藤、達海、持田、彼女、大人達、コーチ達、同級生、ジーノ両親など、大人数。ジーノはバイ設定で性的にフランク。ゲイ設定のモッチーも彼女と軽く。

小学時代~河川敷のミラクル

 昨日、いつもの人がちょっとだけ乱暴にジーノを扱ったので彼の心は沈んでいた。

 そんなことをされる時、いつもジーノを温めてくれる人肌はびっくりするくらいに冷たいものになる。その感覚がどうにもジーノを落ち着かせてくれないので、帰宅後気晴らしに河川敷に行ってみることにした。少し成長したジーノは、楽しい大人達の遊びを手に入れたこともあり、今ではあの特別なギフトを期待する気持ちは薄れていた。なので、あそこに行くのはもう随分久しぶりだった。

 思いっきりボールを蹴っていれば、その間だけはアレをしているときと同じように他のことを考えなくても済む。今日行くのはそのためなんだ、そう嘯いてボールを片手に走る。でもそう考えていたのは彼の中の大人びた理性の部分だけだった。心の奥底にある思いは全く違っていた。

   神様、
   今日は、今日だけは
   お願いですから
   あの二人に合わせてくれませんか?

   そうでないとボクはもう…

 やっぱりジーノはまだまだ子供だったので、こんな風に自分でも気付かないままに祈っていたのだった。

   *  *  *

 ジーノが河川敷にあるサッカーの練習場で弧を描く鋭いシュートを決めた時、遠くの方から声がした。

「おー、すんげーシュート決めるじゃん!お前小学生だろ?」

 びっくりして振り向くと、なんと声の主はETUの達海選手だった。なので、ジーノは二度驚いた。何度も夢見た特別なギフトが、今自分に話しかけてきている!ジーノはあちらがこちらを認識するなどということは全く想定できていなかった。サッカーをテレビで観戦するのと同じような感覚でいたからだ。見る人と見られる人を完全に区別をしていたので、まるでテレビドラマの登場人物が画面の中から自分に話しかけてきたような気持ちになった。なにが起っているのかわけがわからなかった。

 あまりの驚きに棒立ちになってしまったジーノを尻目に、達海と一緒にいた後藤がゴールの中に転がるボールを拾いに向かう。そして、達海はといえば一直線にテクテクとジーノのすぐ傍までやってきていた。

「あれ?日本語ダメ?」
「あ…、大丈夫です。」
「どっかのクラブチームの子?」
「いえ、ボクは…。○○小学校のサッカーチームでやってて…。」
「へー、今どきの子はすごいねぇ。小学校のだったら練習、週末とかちょこっとだけだろ?いやー、層が厚くなってきてんだな~。なー、後藤?」

 後藤は笑いながらこちらに歩いてきて、ポン、と達海にボールを投げて寄越した。

「ねぇ、一緒に遊ばない?」

 達海が少年そのままの明るい笑顔でジーノを誘う。思ってもみない現実に、ジーノは夢でもみているんじゃないかと思った。

    神様、これ、本当?

 達海がチョコンとジーノにボールを蹴って、ほら、パスパス、と言う。戸惑いながら蹴り返したら達海は少し後ろに下がってまたジーノにボールを戻す。何度もそれを繰り返し、距離はドンドン離れていった。達海の返すボールはまるで磁石がついているかのように必ずジーノの足元に戻ってきた。ジーノも同じように返したくて頑張るのだけれど、やっぱりダメで。離れていくにしたがって、ボールは右へ左へ、前へ後ろへ、あちらこちらに飛んでいく。それでも不思議と達海は元々そこにいたかのようにゆったりとボールを受けてジーノに普通に蹴り返していた。そのうちあんまり達海が遠くに行くので、全然ボールがそこまで届かなくなって、ジーノは肩で息をし始めた。

   遠いよ、タッツ、もう無理。届かない。

   ボクってなんてヘタッピなんだろう。
   こんなことなら、パスの練習
   もっと真面目に練習しとくんだった。

 ジーノは楽しくも意気消沈してしまい、すっかり困っていた。けれど、なんにも口に出すことができなかった。ジーノが一体どこでパスの練習を真面目にやれたのか。考えるまでもなく無理そうな発想だったからだ。

   *  *  *

 就学前からサッカーの盛んなイタリアで寸暇を惜しむくらいにボールを蹴っていたジーノはチームの中で圧倒的過ぎる実力を持っていた。だが、日本に来た彼はたった一人でサッカーをやっていた。

 ジーノのセンスについていけないトラップですら危うい受け手ばかりだったので、ジーノは練習はともかく大会になるとあまりパスをしない選手だった。パスを出せば敵にボールをとられる、イコール、負けること。そう考えていた。また、プレイをしているとイタリア語が出がちなので、奇異な目で見られるのがいやでなるべく指示など出さず、自分で完結するプレイを選択した。
 セルフィッシュなプレイスタイルを続けると監督には散々叱られる。ジーノは興奮して夢中になると前しか見えなくなっちゃう、今度から気を付けます、と愁傷な顔をしながら影で舌を出していた。毎回毎回子ども特有の未熟さをアピールして反省の弁を述べながらも、連携を取ろうとする際に生じる軋轢が嫌だったので言うことなんて一つも聞く気はなかった。
 大きな大会になればなるほど落とせない場面になった時には必ず、自分でボールを奪取して自分で切り込んで自分でゴールを決めた。常にそういうことをやっていてはチームから浮いてしまうことも知っていたので、全力を出すのは一時だけだった。そうすることで監督がジーノを怒鳴り散らすことはあまりなくなっていった。
 次第にジーノのことをチームや監督はラッキーボーイだと思うようになっていった。通常は並みの選手だが時々追い込まれてスイッチが入ると、とてつもない力の出せる勝負強い選手だと。ジーノ自身も、ラッキーだ、偶然だ、風のおかげだと笑った。なんだかんだ言いながらも、ジーノの引き寄せる幸運に任せていれば勝てる、そんなムードがこのチームにはあった。

 そんなこんなで。ジーノのパスはもうずっと死んでいたのだった。

 チームの練習内容にはパスも勿論ある。でもそれについてもキック力も精度もないへたっぴの相手のボールを、まるでボール拾いのように取って返すだけの状態だった。今の達海がしているのと同じように。めいっぱい蹴るなんて、シュート練の時くらいしかできなかった。でもそのシュート練についてもまた、みんなに合わせて距離が短く、ロングキックの練習はほとんどやる機会がないと言ってよかった。

   *  *  *

「いやー、キック力もすごいね?小学生でこれだけ蹴れる奴なんてそうそういない。うちの子達の中でもかなう奴はいないかもな。」

 うちの子等というはETUのジュニアのことのようだった。ジーノは嬉しかった。こんなに楽しいパス練習をしたのは初めてだったから。そしてコントロールがヘタッピだとしょんぼりしていたのに、大好きな達海選手にキック力は褒められたから。

 リフティングをしながら達海がこちらに戻ってくる。その後はコンビニの袋をぶら下げていた後藤も荷物を置いて、3人でそれこそいろんな遊びをした。少しずつリラックスし始めたジーノは、次第に、楽しくって楽しくって笑って笑って。思うようにいかなくって悔しくって悔しくって腹が立ってイライラして。学校生活の中でもうすっかり自分を殺すことに慣れ始めていたジーノは久しぶりに子どもらしい子どもとしてサッカーに夢中になっていた。

「さ、どうする?」
「考えろ、考えろ!」
「よし、それだ!いけ!」

 遊びの中で達海の発する言葉は大半がジーノの思考を伸ばす形のものだった。同級生に説明しても説明しても理解してもらえなかったジーノの中のプレイ上の常識は達海にはすべてが当たり前のように通じていた。そして、その上でジーノのわからない世界があることを示唆し、次々にその世界観を押し広げていった。まるで一個人の視野からすっかり逸脱してしまうかのような、サッカーの熱狂の渦にそのまま同化して溶け込んでいくような。それでいて五感が冴えわたり、なにもかもがクリアーでまるで未来のビジョンまで見通せるかのような。全く経験をしたことのないような興奮だった。

 孤独に苛まれていたジーノは、この出会いで初めて自分の傍に人の気配を感じた。そのことによって、単に楽しいだけのサッカーが、身を震わす情熱のサッカーに変化した。ああ、ボクはサッカーのことをなにも知らなかったんだ、ジーノは新しく知ったサッカーの魅力に完全に虜になっていった。

「バカー、後藤、どこ蹴ってんだよー」
「達海、お前子ども相手にちょっと大人げなさすぎだろ!」
「なんだよ!サッカーに大人も子どももねーだろ?」
「フフフ」
「あ!おい!ちょっと!待っ」
「わーい、後藤情けねー!小学生相手に完全に振り切られてやんの!」
「いや、今のは油断してただけで」
「言い訳、言い訳~」
「ボク、次も抜くよ?見てて!」
「調子に乗るなよ、俺はプロだぞ?本気になっちゃうぞ?」

 びっくりするような幸せな時間。いろんなことをやったけど、無我夢中で、もうひとつひとつ覚えていないような。それでいて、なにもかも鮮明にひとつひとつ記憶に心に刻みつけられているような。楽しい時間というものほど、あっという間に過ぎていく。

 以前みたように川面に夕日の赤い光が反射する。あの時はただの傍観者だったジーノは今日はあの2人と一緒になってボールとじゃれあっていた。

   あの光景を特別なギフトだと感じたのは、
   今のこの瞬間が来るのを
   予感していたからだったのかな?

 川面を照らす赤い光が徐々に薄れ、遠くの方から少しずつ漆黒の夜が近づいてくる。帰りの時間がやってきていた。名残惜しくて、最後にとジーノはインステップのコツを教えて?もっとボールが飛ぶようにしたい、と尋ねた。達海はそういうのはもう少し大きくなってからやったほうがいいよ、体ができていないうちは故障の元だからね、と言った。
 でも…と言ったら、子どものうちは如何にサッカーが楽しいか、それを体に染み込ませるのが一番大事だよ?お前はもっともっと楽しめばいい、そしたらうんと上手になるから大丈夫、と答えた。学校のサッカーがちっとも楽しくないので、ジーノは悲しくなった。

「最初はエゴの時代。自分だけでやることを楽しむ時代。次が連携が加わる時代。自分と他人で楽しむ時代。お前は賢いから、もう他人と楽しむことに飢え始めてんね。大丈夫、きっとすぐにそんな時期はやってくる。だからワクワクしながら待ってればいい。それまで充分自分でやることを楽しんどけばいいからね?あとできっと役立つよ。お前、将来決定力もあるようないいキッカーになるから一杯練習しとくんだよ?そんで、きっと…。」
「きっと?」
「きっと、キッカー以上にすげーパサーになれると思うよ。ホント、お前とサッカーするの、楽しかった。遊んでくれてありがとな。」

 そう言いながら達海はごそごそと後藤の持ってたコンビニの袋を漁ってパンを差し出した。見たこともない変なパン。

「腹減ってない?これあげる。」
「これ何?」
「あれ?やきそばパン知らね?」
「やきそばパン?」
「ハハハ、これさ、パンもやきそばも食べたい時にちょうどいいんだ。箸も皿もいらねーしもち運びにも便利。」
「えー?フフフ、何それ、おもしろい!」
「普通こんな二つ、合わせようなんて思うか?考えた奴って絶対変な奴だと思う。でも食べてみ?うまいから。やきそばだけでもパンだけでもこの味は出せねぇよ?二つ合わさって、想像できないようなミラクルが起きる。」

 頭をくしゃくしゃっと達海になでられ、やきそばパンを手渡される。

「ちょっと変わってるけどなんかお前みたいだ。決定力付きのキッカーでパサー。お前、それ、どう思う?ハハハ、ミラクルじゃね?」

 やきそばにパン?ゴールを決めるパサー?二つ合わさってミラクル?ジーノにとってはその言葉こそが衝撃的な、人生をも左右するミラクルだった。

「バイバーイ、また会ったらあそぼーぜー」
「う…うん!またね!」

 誰にも言えないジーノの心の中の秘密、そして悩み。それはどこにいても半分だけの存在、中途半端な自分だった。

   ボクはハーフ
   イタリアでは仲間だって言われるけどボクは日本国籍、日本人
   なのに日本にいたら周りに日本人じゃないって言われる

   ボクはずっと自分のことを
   親ですら同族ではない、どっちつかずの一人ぼっちだと思ってた

   ボクはミラクルなの?

   ボクはパンにもやきそばにもなりきれないけれど、
   二つ合わさってミラクルになれる?

 川面がキラキラ光って、芝生には立ち去る二人の長い長い影。ジーノは見えなくなるまでずっと二人を見送った。大事に大事に、やきそばパンを手に持ちながら。