お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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飼い主 2

2は高校時代前半。高校時代に起ったタッツミーの「あの出来事」とその前後の話が中心になります。今回のシーンはジノザキ長編の極初期に思いついたプロットで過去編の一番コアな部分。王子、達海、持田、モブ女、平泉、ジーノ両親、トレセン関係者、部活顧問、部の仲間などセリフない人も含めて大人数。ジノ→タツ、ジノ+モチ。

疲弊

 ジーノは中学で優秀な成績を収め、そのまま持ちあがりで全国的にも難関な有名進学高校に進学した。どこに行こうとか、何になろうとか、そういうものを思考することのないジーノは相変わらず父の薦める通りの道をそのまま素直に歩き続けていた。

   取りあえずボールに触れる時間が少しでも確保できればそれで良い
   タッツと同じミラクルをこうしてイメージしながらボールを蹴る
   この時間さえボクのものならそれで幸せ

 夕暮れのあの気持ちを体感しながらプレイをしたい。ジーノはいつもこんなほんのささやかな気持ちだけを胸に抱いて生きるだけだった。恋人とのいざこざの一件から持田との関係がズレ始め、今はミラクルの体感とは少し離れたプレイしかできなかったけれど。それでも表面上は平気な顔をしつつなんとなく毎日を過ごていた。そして相変わらず密やかに粛々と寂しい心を抱え続けていた。今のジーノの寂しさは、人を知ってしまう以前のものよりも深く悲しいものになってしまっていた。

   *  *  *

 そんな日々の中でトレセンスタッフ宛に入ったのが、協会からの問い合わせ。現在アンダー世代の中核の存在になっている持田に最も合う選手が、実は選抜メンバーに推薦されていないという噂を協会が聞きつけたのだ。その打診をキッカケに、ジーノの才能に注目していた者は喜び、参加態度が気に食わない人間は懸念を示し、推薦をどうするかに関して議論が絶えない状態になってしまう。

 スタッフ達はそれぞれの思惑でジーノに話をする。言うことはどちらの派閥も同じで、推薦を念頭に置いて真面目にやれ、というもの。だが、ジーノは誰に対しても参加できないという生意気な返事しかしなかった。当然そこに軋轢が生まれ、チーム内はぎくしゃくとした不協和音が生じ始めることになった。

 ジーノの断る事情を知りつつ、来てほしい一心の持田は親と代表のどっちが大事なんだと叱責した。でもジーノはそういう問題ではないと頑なになるばかり。結局スタッフ達は、この話の価値を理解しない本人といくら話をしても埒があかないと、ジーノに無断で両親に直接相談してみることにした。

 このスタッフの熱意によるたった一本の電話が、結果的にジーノを窮地に立たせる結果となってしまった。それまでのジーノの勝手な行動が父親にバレてしまったのだ。バレてしまったのは内緒だったトレセンの活動だけでなく、トレセン用に用意していた複数の洗濯女の存在もだった。父親は愛する自慢の息子が、実は親を騙すようなことを平気で行う性的にも乱れきった不良息子だったことを知って大いに激怒した。イタリア人ならともかく父親は日本人であり、その中でも特に堅物で潔癖なタイプだったのだ。

 ジーノのこれまでの生意気な態度の理由が父親の無理解であったことを知り、スタッフは才能あふれるジーノの不遇な環境に大いに同情した。今度は親身になって親の説得に当たったわけだが、結局同じことだった。サッカーに興味のない父親は馬鹿馬鹿しいとの一点張りで、押し問答を繰り返すばかりの堂々巡りにしかならなかった。

 ジーノはこの件で生まれて初めて盛大な親子喧嘩をする。それは遅かりし反抗期のようなものだった。

 家を飛び出してまだバレていない女の家に転がり込み、そこから学校やトレセンに通う日々を続ける。父親は病弱で優しいばかりの母親が懇願することもあって、学校やトレセンの練習場に直接乗り込んでトラブルを起こすことはなかった。だが、時々下校中のジーノを捕まえては連れ戻し説教を繰り返した。ジーノは意に介さず、すぐにまた家から逃げ出してはサッカーを続けていた。母親は父親と息子の双方の気持ちが理解できるので板挟みになり体調を崩し始めたが、親思いだったジーノはそれでも決して家に戻ろうとはしなかった。

   *  *  *

 達海の不調とともにETUがおかしくなっていったのは、ジーノが父親とのバトルで疲れがたまり始めた頃のことだった。

   ねぇタッツ、なんか変だよ?いつもと全然違う
   みんな動きがバラバラで選択もおかしいし、全体的にプレイがチグハグだよ?

   それに、なに?足、どうしたの?大丈夫なの?故障?不調?
   メディカルはチェックしてる?

   いいサッカーを見せてよタッツ、お願いだから

 この頃のジーノの支えはいつも以上にサッカーだけだった。だから、日帰りで行けそうなアウェイも含めて、全部スタジアムに出掛けて直接プレイをみるようにしていた。ある日なんだか調子の変な達海は案の定怪我を理由に離脱してしまった。離脱後もジーノはずっと観戦を続けていたのだが、達海のいないETUはびっくりするくらいにボロボロな試合をするばかり。ゴール裏からはいつも罵声が飛んでいた。

   通常なら平気な顔をして笑っていられるのに
   うるさくてうるさくてたまらない、こっちが叫びだしたいくらいだ

 負の言葉が苦手なジーノは行くたびに神経をすり減らした。疲労が蓄積していくに従い、この頃からジーノは簡単にできたことが少しずつ難しくなってきていた。

 どうやら今から離脱していた達海が出るらしい。てっきりしばらく無理だと思っていたのに、選手交代のナンバープレートがそれを知らせていた。ジーノは不安半分期待半分で祈る気持ちでピッチに立つ達海の姿を見つめる。だが、久しぶりに見た達海のプレイは、結果こそ出していたもののジーノの気持ちを晴らすものではなかった。

 それからしばらくして、ある日突然発表されたのが達海の海外移籍だった。ジーノは幼い頃からの心の支えが日本から離れるという寝耳に水の話に大きなショックを受けた。

 元来デリケートなジーノは次第に不安定で過敏になりすぎる状態になっていった。恋人との別れ、親との喧嘩。持田とのすれ違い、達海の海外移籍。色々なものがボロボロと失われていく生活の中で、元々イマイチな状態だったサッカーのプレイもドンドン乱れ始める。思い通りに出来ないサッカーは唯一の支えどころか苦痛以外の何物でもなく、ジーノは合わないプレイが増えることで持田とはとうとう一言も話が出来なくなった。

 持田もまた、調子が落ちていくジーノの状態に焦りと苛立ちを感じ、優しい言葉をかける余裕などなかった。過去のU17の大会の成績は前々回が決勝トーナメント進出、前回がグループリーグ敗退。今回はアジア予選通過すら危ぶまれる声もあり、10番を背負うエースの持田にはその一切の信頼と期待による重圧が掛かっていた。キャプテンとして国を背負う義務感や責任感の重さというのは、本当に限られた存在しか知りえないもの。ましてや持田は王様とはいっても10代そこそこの経験の浅い若者でしかない。喘ぎながらも弱音を吐けない疲弊した今の持田の口からは外罰的な叱責しか出ることがなかった。なかなか決着のつかないジーノの選抜入りの話と今現在のジーノの不調は持田にとってストレス以外の何物でもなく、ある意味仕方のない話でもあった。

 互いの心理を掌握し、響き合せるように増幅させる二人の関係。弱っていくほどに本当の言葉を失い、相手の負の部分ほどよく見えるようになる。苦しみと孤独を合わせ鏡にして、そのまま不調をも二人で増幅させてはまっさかさまに落ちていくのであった。