飼い犬と飼い主 1
入団前から、出会い、現在、未来にいたるまでの超捏造妄想物語。ガチゲイはモッチーのみ。ジーノはバイ。あとは全員基本的にノンケです。ジーノ特殊設定で記述が多くなりますが私的にはザッキーが主役でヒーローみたいな気持ちで書いてます。酷い流れが多いですがすべて終盤のハッピーエンドを盛り上げるためです。
出会い4
「キミって、結構いい体してるね?ちょっと触らせて?」
突然の声掛けに少々驚いた様子を見せた赤崎に、ちょっと直球過ぎたなぁと内心苦笑いを浮かべる。そうして表面上はなるべく警戒心を持たせないように神経を使って満面の笑みを向ける。
揺れる心の彼を一気につぶしてしまうのも楽しいものだけど
それでは味わう時間が一瞬だ
第一、この揺れは
ボクが準備して招いたものでもなんでもないし
それを思うとプライドも許さない
有無を言わせないようなジーノの笑顔とその言葉に、赤崎は少し顔を高揚させておずおずと「いいッスよ」と呟いた。どうやら彼の中のアスリート独特の自尊心をくすぐることができたようだ。
ジーノが触りたいと言った意味合いなど赤崎が思っているのとは全く違う。それでも素知らぬ顔をして、フフ、ありがと、と返事をする。
「キミ…名前なんていったっけ?」
「赤崎ッス」
「じゃぁ…そうだね…んー、ザッキーってとこかな?」
「あ、いえ、にごりません、ア・カ・サ・キです。」
「なんかサッキーって感じ変だからザッキーでいいよ。」
「え…でも。」
「ん?」
「いや…別に…」
憧れの選手が自分を認知して自分の名を呼ぶ。ニックネームまでつけようと。赤崎は胸が高鳴り些細な違いなどそんなに気にならないものになっていた。あとからこの呼び名がずっと定着してしまうことで自分の名前の誤読が世間一般に広がっていくことなど気づかずに。
「腹斜筋、よく鍛えられてる。いいね。あ、でもトレーナーにもう少し背筋をって言われなかった?キック力上げるのに、ついわかりやすいとこ中心にやっちゃいがちだけどバランスが大事だからね。」
ジーノが赤崎の体のあちこちをペタペタ触る。警戒されないように極力ナチュラルに。ちょっとからかいたい気持ちを抑えながら。ずっと触れたいのを我慢していた肌の質感を心行くまで堪能する。なんのケアもされていないようなのに、きめが細かく滑らか肌が吸付くようにジーノの指先にフィットする。
その陰にある硬質な筋肉の感触もまた素晴らしい。きれいな背筋は文句のつけようもなかったけれど、触りたいがために口から出まかせの言葉をつむぐ。
なのに、そうとは知らずに赤崎が懸命に鍛え方などを質問してくるので、あまりに愚かで可愛らしく感じた。
「あの…王子。」
「なに?」
「最近、なんていうか…。前みたいに人を使わずに自分で切り込むことが増えてきてますよね。」
「…そう?あんまり考えたことなかったかな、それは。」
素知らぬ顔で答えたものの、実際には考えたことがないどころではなかった。不調による自分の意思と肉体の反応のズレも原因の一つではあった。だが、それ以上にネックな問題が一つあった。
このチームでは誰もジーノの本当にやりたい意図を読む選手がいないこと。仕方がないので相手に合わせてパスを出しても受け手はそれをミスしてしまう。ジーノは入団当初の気持ちをすっかりなくして、とっくの昔に気持ちは腐り果てていた。
ジーノの退屈が適当なバックパスや熱のない適当なドリブルを選択させ、それが簡単にカットされて。ボールが相手に渡ると守備を放棄するジーノの周りから崩されることも少なくなかった。まさにそのことが現時点でのチームが低迷する原因の一つともなっていた。ジーノの高圧的な態度によりそのことに触れることができるのは監督か村越くらいしかいなかった。それでもそのことについて叱責されてもなんら心に響くこともなく、適当に受け流していられた。
だが、無神経にこの若い赤崎が指摘した態度にはムッとした。珍しくこの一言がジーノの神経を逆なでした。
この子、無神経だね
ボクにこんなことを言って
ただで済ませてあげられるとでも思っているのかい?
本当に愚かな子だ。
赤崎の揺れる心を収めるふりをして、からかうために近づいたつもりだった。それが今、逆に心を揺らされたことに気づいて苦笑した。どうも最近、ボクは本当に不調みたいだ。どうしようもない自分の状態にため息をつく。
「…あの。俺頑張るんで。」
「ん?」
「大丈夫、もう少し待っててください。俺、王子を理解する自信ありますから。」
「え…」
「…あの…名前もわからないルーキーが、突然偉そうなこと言ってるって思うでしょうけど。生意気なルーキーとしてでもいいから、俺のこと今日から覚えててくれると嬉しいッス。」
赤崎の中の熱風がジーノの体を吹き抜けていくのを感じて一瞬我を忘れてしまった。他人の生意気は神経に触る。神経に触ることはいつでもジーノの中の嗜虐性を刺激するものでしかなかった。嗜虐性と蹂躙の欲望に直結していた。
なのに今回は。なんだろう、この感じ。真っ直ぐに一直線の鋭利な刃物が突き刺すように自分を見ている。通常なら不愉快かつ嗜虐的欲望の対象そのもののそのあり方が、不思議にジーノの中の飢餓感を少し薄れさせていた。
ボクには実はM属性でもあるのかな?などとふざけてみたが、誤魔化しきることはできなかった。この気持ちはなんだろう。
…ちっぽけで愚かな若造の戯言だ
なのに、どうしてこんな気持ちになる?
強いて名前を付けるとなればこれは期待だ
この状況でボクが抱くには
全くふさわしくないバカで愚かしい感情だ
目の前にいる子はおもちゃにこそふさわしい、
脳みそのない、きれいなただの木偶人形じゃないか
「……」
「あ…あの…。」
赤崎は軽蔑されてもいいと意識的に生意気なその言葉を発していた。彼と話す機会などほとんどないという焦燥感のあまり、これを機会にどんな形でもいいから彼に認識してほしかったのだ。
それでも、意図的な行為であっても今のジーノの反応に動揺していた。どこも見ていないかのようなジーノの虚空を見つめるような目が怖かった。どう受け止められているのかもわからないような、想定外の反応だった。
でも、ジーノの内面で生じていたのは赤崎の思っていたような軽蔑の感情ではなく、戸惑いそのものだった。
赤崎が目の前にいながら、ジーノは自身の内面を観察していた。今後の行動指針が一気に多重化し、そのバリエーションが分岐していくつもの道筋が見える。どれを掴むべきなのか、なるべく冷静になって判断しなければ。何事にも鈍麻していたピッチ外でのゲームメイカーとしての感覚が久しぶりに活性化しているのを感じた。
これはナカナカ面白い現象だ
判断を急ぐ必要はない
ゆっくり対応すればしばらくの間は退屈せずに済む
ジーノは今自分に起っているその感覚を戸惑いながらも味わうように咀嚼していた。
「名前、覚えて欲しいの?なんていったっけ?」
「赤崎ッス。」
「そうそう、ザッキーだ。ボクに覚えて欲しいならそんな子どもじみたことを言うのは得策ではないね。」
「あ…すいません…。」
「キミはよくボクを見ているようだね。理解する自信があるというくらいに。ならわかるだろう?ボクがキミを覚えるならなにが一番効果的か。」
「…はい…。サッカー…ですよね。」
「いい子だ、わかってるじゃないか。いいプレイをすればおのずとボクの目はキミを見つけるだろう。そのやり方が一番効果的であり、キミにとっての願望に近づく第一歩だね。」
「え!」
「ん?」
「いぇ…」
赤崎は、自身の日頃の夢を、ジーノのパスでゴールを決める光景と願望を、まるで見透かされたように感じて思わず赤面した。優しくもなにもかも見渡すようなジーノの目線が、自分を一瞬にして丸裸にしてしまったかのようだった。
その赤面する赤崎をジーノは舐めるように見つめていた。想定通りの、わかりやすいワンパターンのありきたりな反応。強い言葉をかければ動揺し、優しい言葉をかければ有頂天。通常なら退屈にしか思えない彼の一挙手一投足がなぜか自分を満足させる。
本当に不思議な感覚だ
乗らないセックスをしている時よりも、
よっぽどこのほうが気持ちがいい
「じゃ、ボクはそろそろ用事があるから。」
「あ…ありがとうございました。」
ちらちらと指先を動かしながら、さよならの合図。そうしてジーノは部屋を立ち去った。
* * *
ロッカールームに戻り、帰り支度を始める。シャワーも着替えも済んでいたのでやることは鏡を見て髪と服の乱れがないかチェックする程度だった。
髪を手で梳こうとしてふと気付いた。指先がしっとりと濡れている。これはさっき触れた赤崎の湿度。トレーニングルームに向かったのはイライラの埋め合わせに触れたい欲望を少しだけ満たそうといっただけの話だった。だが今は指を擦らせて先ほどのあの感触を思い浮かべながら赤崎の目を思い出す。
そう、この熱風。
先ほどの不思議な感覚を再現する。新鮮なようで懐かしい、そんな心地よい感覚だ。今日はこれでもう十分だ、と思い、ジーノは携帯を取りだしてデートのキャンセルをした。誰とも肌を寄せ合わせずとも今晩はゆっくりと眠れそう、と自分でも気付かぬうちにほんの少し笑みがこぼれていた。
知らぬ顔をずっと続けるのは結構大変なので、早く彼が成長し、目覚ましい動きをすることに期待する。
早く成長して、もっとボクの傍においで?
そうして、いろんな遊びを一緒にやろうじゃない
ボクは飽き性だから、
あんまり遅いと待ちくたびれてしまうよ?
おもちゃがサッカー人形にかわっていく遊びはナカナカ楽しく、何度も彼から感じた熱風を再現する。ジーノの考えるプランの先の先には自分自身をも大きく変えていく出来事が待ち受けていたが、戯れに熱風の体感で遊ぶ今のジーノにはまだ気が付けるものではなかった。その感覚がなにであったかということを理解するのはもっともっとずっと先の話。
