飼い犬と飼い主 3
のん気なザッキーを前に、ジーノは終始、YOU!食べちゃいなよ!という声に悩まされて、食べようか食べまいかフラフラしつつ結局のところ…。ザッキーかなり据え膳化が進んできた入団1年目晩夏の頃のお話。ジーノの中にあるザッキーへの気持ちに少し変化が訪れます。すっかり気に入って戯れに軽く遊ぶおもちゃでは気が済まなくなってきました。ジーノがちらっとモブ女とやっちゃってます。ご注意。王子、赤崎、世良(名前だけ)、村越、モブ女。
腹ペコ王子
ここ最近のジーノは迷っていた。
どうしようかなぁ…
もういい加減、食べちゃおっかなぁ…
入団してきたルーキーに注目してからそれなりに時間が経った。今回の獲物は日頃の女性達とは違って同じ選手同士。なので否が応でも毎日長時間一緒に過ごしてしまう。今一番お気に入りのジーノのおもちゃは、ジーノの目の前をこれ見よがしにフラフラと、召し上がれとでも言わんばかりにうろついていた。
ジーノは中学時代からずっとトラブル回避の為に学校の子とは基本的には寝ないというポリシーの持ち主だった。多少の例外はあったものの、行動原理はほぼこのパターンに沿って暮らしてきた。だからなんだかんだ言いながらも、最終的には今回もいつもどおりちょっかいを出すだけでおしまいにしておくつもりだったのだ。なのに。
大体、この子が愚かすぎるのが問題なんだよ
ジーノは無神経に目の前で半裸の状態でチームメイトとワイワイしゃべっている赤崎を見てため息をついた。
入団してしばらく経って、赤崎はこの頃にはジーノが個人的に話しかけることにも、ジーノが色々ちょっかいを出されることにもすっかり慣れてきていた。そう、ジーノは今ではもう、ストレッチのどさくさに、頭の先からつま先まで、そして彼の快楽の源の局部に至るまで、なにもかも警戒心を持たせずに簡単に手が出せるようになってしまった。体調管理と称して、今日までもう数回は彼のアレを弄んだ。その時の姿が、ジーノの目にはくっきりと焼き付いていた。
全く、騙す方も騙す方だけど、
簡単に騙されるほうもどうかと思うんだよね
赤崎は、ジーノが思いつきで考えた様々な出鱈目な指導内容をすっかり信用して、簡単に全身を預けてしまう単純な男だった。一見すると、こんなにも傲慢で、人を人とも思わないような失礼な物言いをする若者。だがそれは、彼がびっくりするくらいに素直で真っ直ぐな性質の持ち主だったからだ。彼の行動、彼の言動はすべて率直なもので、相手への配慮はあまりないが、それよりもなによりも悪意こそ皆無だと言ってよかった。必要最低限の物しか必要としない、シンプルでクリアーな人生観の持ち主だった。こうした彼の気性から、赤崎のこれまでの生活が如何に健全で健やかなもので、また彼のその時々の選択が如何に潔いものだったかが伺い知ることが出来た。人は誰しも人生の壁にぶち当たる度に、重い鎧を、不必要な装飾を身に付けてしまいがちで、そんなものを何一つ身に付けずに生きてきた彼は、どこにでもいそうでいながら、実は非常に稀有な存在だった。並みの人間には怖くてとても出来ない強靭な精神の持ち主だった。
ジーノが手元の雑誌を半分も読み進んでしまったにもかかわらず、相変わらず赤崎は上半身裸のままで世良達とワイワイ騒いでいた。テンション高く楽しそうに笑う世良に対して、全然その話面白くないンスけど、なんて言いながら赤崎の口元には笑みがこぼれている。ポンポン言いたい放題の赤崎の言葉は、時に大きな衝突を招いたりもするが、悪意がないので誰もズルズル引きずることがなかった。こういうタイプが苦手な人間もいるだろうが、彼を本気で嫌う人間はそうはいないと思わせる、魅力のある男だった。
もう、ウロウロしてないで服着てよ
キミのきれいなその胸元の二つのスイッチ、
押したくなっちゃうでしょ?
楽しそうに話している彼らをジーノはずっと雑誌越しに眺めていたが、もうすぐ雑誌を読み終えるというほどの時間になってくると少し不愉快になってきていた。いっそ冗談めかして本気でみんなの前でうんとあれを嬲ってやろうかと、ジーノは思わず立ち上がって、また、ため息をついた。
どうせあの子はなんにもその意味を理解しないで
笑うか怒るかで簡単にボクを許してくれる
くだらない、そんなの、なんの意味もない
やっぱり強引に、
はっきりとあの子にわかるように
食い散らかしてメチャメチャにしてやりたい
もうやめてくれって、涙を流す顔が見たい
自分の欲望については上手にコントロールしてきたつもりだったのに、やっぱり制御しきれそうにない気がしてジーノは嫌になった。今回の獲物と自分の関係は、いつでも簡単に別れて離れられる距離感にない。どちらかが移籍するまではずっと一緒。その時期がいつになるのか考えるだけでも途方もない。デメリットしかない選択なのに、見れば見るほど今すぐにでも食べてしまいたくて。ミスターETUに興味を持った時はコントロールが楽勝だったのに、今は結構苦心していて、そんな自分のことをジーノは本当に不愉快に感じていた。
こういう我慢をこんなに強いられたのって初めてだ
もうやだ、いい加減疲れた
ジーノは若い頃から性的な部分においてはかなりフランクで、老若男女を問わず、求められたり欲しくなった相手とは結構気軽にベッドインしてきた。外出先でいくらでも本気で狩りに行く獲物を見つけることができる環境だったので、トラブルになりそうな近しい環境の中でわざわざそういうものを設定する必要がなかった。だから今回のようなことは一度も体験してこなかったのだ。赤崎はジーノが自分で探して見つけ出した獲物なのではなく、たまたま向こうから勝手にジーノの目の前にやってきたケース。自分の性的趣味にぴったりな子が、セクシャルな気持ちをジーノに全く持たないままに、毎日のほほんと恥ずかしげもなく不埒な姿で目の前をうろつく。無視しようにも、益々目が留まってしまって、ジーノは本当に困る状態になってしまったのだった。
着替えが多い職場ってこうなると厄介だよね
それにお風呂まで一緒に入っちゃうんだもの
ジーノは口を尖らせた。やる気を起せばいつでも相手の性的興味を自分に向けさせることができる自負があったので、すべては自分の気分次第。そんなものに一切を委ねられてはたまったもんではない、と独りごちた。このボクがあんな愚かな子のせいで理性と本能の葛藤に頭を悩ますことになるなんて本当に全くバカバカしい。と。
ジーノは、自宅の冷蔵庫に大好物が入っているにもかかわらず、外食を続けて美味しくもない食べ物を食べているかのような心境だった。手元にあれば食べてしまいたのが人情というもの。食べ物は賞味期限というものがあるわけで、腐らせてしまうのも勿体ない。そんな気持ちだった。
本当は…
向こうが食べてもらいたくて仕方がないってくらいの状態にさせておいて
でも実際に絶対手を出さないようにしていくつもりだったのに
どこをどう間違っちゃったのか…
ボクがこんだけ長い間他人に興味を維持してること自体珍しいんだよね
それ自体はホント喜ばしいことなんだけど、
寄りにも寄ってシチュエーションが悪すぎるよ
とっとと手を付けてすぐに飽きちゃった方が彼のためにもいい気がする
なんかこのままだとホントメチャメチャにしちゃいそう、相手アスリートなのに
ジーノは立ち上がったついでにもう帰ることにした。この分だと今日はこの調子でみんなダラダラと居残って、自主トレで赤崎と二人で過ごす時間もとれなさそうだと思ったから。
「ああ、もう帰るのか?」
「コッシー?うん、今日はなんだかもう疲れちゃった。」
「お前、疲れるほど今日真面目にやってなかったろう?」
からかうような口調にむかついたので、腹立ちまぎれに人差し指で、ポチ、と言って彼の乳首を押してやった。
「な!お前!なにすッ」
「Ciao」
真っ赤になって戸惑っている村越の反応にジーノはほんの少し気分が晴れて、スイッチを押した人差し指をクルクルと回しながらロッカールームを後にした。今日は仲間内で開かれる、危険で卑猥な秘密のパーティの日。さて、今日はあの子の代わりに食べるのは、どんな子になるのかな?ジーノは今晩の気軽な外食に気持ちを切り替えて車にエンジンをかけた。
