お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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飼い犬と飼い主 4

幸せな飼い犬生活を過ごすジーノ。王子に思いを寄せ始めるザッキー。追うものと追われるものが逆転します。ジーノはより良い飼い主を目指し、ザッキーはかわいい後輩のポジションから抜け出したい。そんなザッキー入団1年目の12月まで。以降は徐々に悲惨になっていきます。昼メロ的に。王子、赤崎、世良(ちらっと)、後藤(ちらっと)、モブ女。

飼い主の気持ち

「なんでいつも俺にかまうんですか。」
「なに?なんか不満?」

 時々彼はこうしてボクに問う。こうして二人で過ごす時間の意味を、明快な意義を欲しがっている。そう、ボクは悪い遊びが大好きで、かつて彼の心を弄んだりしたからだ。ボクの仕掛けた罠に絡め取られて、ボクに興味を持ち、ボクの行動に好意以上のものを欲している。

「不満てわけじゃないんですけど…。」
「けど?」
「なんかこうしてる意味とかあるのかなと。」
「意味が欲しいのかい?」
「なんとなく…。」

 チームメイトに悪いゲームを仕掛けることは最初のうちは抵抗があったがあっという間に快楽となった。そして今では不要のものとなりつつある。なぜなら、思わぬ発見があったからだ。ボクはこの子とは悪い遊びなどしなくても、こうして眺めているだけでなぜだか十分楽しめる。キミの精神を丁寧にケアし、体の不調を早めに発見してメンテナンスを促す。これは今、一番ボクを夢中にさせている非常にエキサイティングな遊びだ。
 チーム内のパートナーになりうる人間を破綻させるのは得策ではないのだから、この遊び方を選択するのは悪くない。ボクはおもちゃで獲物のキミをかわいい愛玩動物にすり替えることに成功した。そう、このことに関してはかなり上手にやれた自信を持っている。

 でも、最初に仕掛けた罠が未だ彼の中にとげのように刺さっているようで。未だに彼は戸惑っている。とっくに終わらせた最初の遊び。こうやってボクに好意以上のものを欲する彼を見るとまたそういう遊びもしてみたくもなる。けれど、それはやはりやめた方がいいことなのだ。

「簡単さ、チーム内の先輩がかわいい後輩の面倒をみている。それ以外の何がある?」
「……」
「迷惑かい?」
「いえ、ただ、なんか腑に落ちなくて。こうしてメシとかも最近よくおごってもらってるし。」
「キミがその問いをボクにするということは、その関係性では納得できないというわけだよね。でも、それはキミの中の問題で、自身で処理すべき事柄だよ。意味付けが欲しいなら他人の迷惑にならない範囲で自由にすればいいさ。」

 ねぇ、これはボクからキミへの誠意だよ?キミはもういつでも釣り上げられる獲物。でもボクはそれをやらないだろう。もうキミはボクの獲物から降りていい。キミの中にあるトゲのようなボクの罠は、時が経てば簡単に消えていく。そうなっていくのをボクは心の底から願っている。なぜならキミはこの世で唯一のボクのかわいいペットなのだから。キミはその辺に転がっている使い捨てのおもちゃとはわけが違うかけがえのない存在になったのだよ?

 なのに、キミはそうして浮かない顔をする。キミには毒が回りすぎているようだ。でも大丈夫。一時的なものだから。なるべく早めにキミがそこから出られることが、ボクとキミと、そしてチームにとって最良の選択になる。

「そんな顔しないでくれないか?ボクはキミのことをとても大切に思っているよ?わかるだろう?御馳走するのも趣味みたいなもんさ。気にする必要はない。誰に対してもそうなんだから。」

 欲しい言葉が得られず、お預けを食らって落ち込んでいるキミを見ると、ボクは今まで感じたこともない妙な罪悪感を感じてしまう。キミがボクの獲物ならば、こういうキミの表情だって、充分満足させる出来事だったのに。キミはかわいいボクのペットだから、こんなときはキミがかわいそうで、耐えられなくて、ついキミの頭を撫でてしまう。キミはこんな悪人のボクに騙されて心を開きすぎているものだから、ボクにはそれが時々たまらなくなる。

「キミは練習中は本当に気丈なのに、こうしてプライベートになると途端に気弱になるんだね。そういうのも悪くないけれど…。他人に対して簡単に弱みを見せるのは得策ではないよ。」
「他人じゃないッスから。先輩と後輩でしょ。別に変じゃない。」

 キミの心はいつも真っ直ぐで情熱的だ。それがボクには耐えられない。道を曲げられてしまっていることに気付かずに懸命に真っ直ぐ走る。その不毛さを見るたびに、ボクはいつも話を逸らすしかなくなる。

「そのセリフ、クロエ達にも聞かせてやりたいものだけどね?フフフ」
「リスペクトできる人間しか先輩だなんて思ってませんから。」
「ふ~ん、それってボクのこと褒めてくれてるのかな?それは光栄だ。」
「……」

 赤面しているキミ。誑かしている自分のせいとはいえ、そうやって真っ直ぐな気持ちを表現されるといけないことなのについ喜んでしまう。ボクはキミにリスペクトされるほどの人間ではない。なにもかもが演出だ。そんなボクとキミとの不自然な関係性。なんだか時々、心苦しくてたまらない。

「プレイの幅を広げていくためには、もっと駆け引きが上手になったほうがいいけれど。キミはそうやって真っ直ぐのままのようが人としてはいい気はするね。ん~、これは難しい問題だ。キミはこの先どういう選択をしていくのかボク結構楽しみだったりして。」

 悪い心が顔を出す。その罠にかかったままあがいていてほしいような。いち早くそこから抜け出してボクの歯牙にかからぬところまで逃げ出して欲しいような。それをはっきり言わないのは明らかに悪意だ。彼は強いのでドンドン真っ直ぐ進む。怖いものなどない。その危なっかしさが見ていられない。それと同時に、逃げ口上のような駆け引きを必要としないその姿勢が、ある種の憧れと嫉妬を感じさせる。彼を見ると、思いもしない自分の様々な想念を発見する。一度に多重に同時発生するこの思いは、愉快でもあり、苦痛でもある。

「選択もなにも、やれることしかできねぇから。」

 ほら、そうやって。キミは真っ直ぐだ。曲げられてしまった道にも気付かずに、ただひたすら己の道だと粛々と前を見て歩いていく。人生はそれほど簡単なものではない。キミはこの世の中の残酷さをまだまだ知らない。今、まさにボクという残酷が目の前で服を着て歩いているよ?キミは前しか見ていないから、まだまだそれには気付かない。

「ま、そりゃそうだね。…その通りだ。誰しも思うように生きられるわけじゃない。」

 ボクはキミに誠実でありたい。かわいくて優秀な飼い犬にしかるべき、有能な飼い主でありたい。なのに、うまくいかないことばかり。自分がなにを望むのかもその時によってコロコロかわる。キミは真っ直ぐ歩くけど、これではボクは足踏みばかりだ。自分は一歩も動かないまま、その時の気分によって、キミの道を右にも左にも歪めてしまうことだけをする。キミの歩いている道はボクの手によって輪になって、いつまで経ってもゴールが見つからない。罠が外れることを願っていながら、それと同時に再び新しい罠をかけ続けるからだ。

 食事が終わり、帰宅する時間。ザッキーは自転車で練習に行っているので車で送ってグランドまで逆戻り。到着しても彼がナカナカ車から降りようとしない。別れが忍びないのはボクも同じ。ちょっとしたラッキーな時間。

「どうしたの?なにか忘れ物かい?」
「はぁ…」
「なに?お店戻ろうか?」

 このまま二人でもう少しドライブを。なにも話もなくていい。ただそこで座って一緒に車を走らせる。ボクはその時間が心地よい。そう、悪い遊びなどボクにはもう不要なんだ。でも、これもまた悪い遊びのひとつなのか。

「意味付けの話なんですけど。大切イコール好意って考えること。他人に迷惑が掛からない範囲の自由に入りますか。」
「…忘れ物って、それ?」
「はい。」

目を伏せて俯いたままボクの反応を待っている。言葉を欲しがるキミの姿に、ボクは再び罠をかけるのをやめられない。

「…いいんじゃないかな?あながち間違いではないのだし。好意がなければ善意も起きないものだろう?」

 ギリギリのラインにある言葉を選択する。これは罠をかけたいボクとかけたくないボクの葛藤の線引き。それによってキミは生殺しになる。どうとでも取れる言葉を投げることで、結局は彼はボクに翻弄されてしまう。ボクの中の矛盾に付き合せて、グルグル堂々巡りを繰り返しているキミを見ると、やっぱりボクはたまらなくなる。運転席から手を伸ばして、また頭をクシャクシャと撫でてしまう。なにを思ってやるのかもわからない。慰めなのか、同情なのか、それとも新しい彼への翻弄なのか。この時間はあまり楽しいものではない。だから今日はこれでおしまいにしておこう。またこういう葛藤のない状態で、楽しい時間を二人で過ごせるのが一番いい。キミは獲物ではなく飼い犬で、ボクは狩人ではなく飼い主なんだ。ボクらに一番ふさわしい姿に戻って、また普通に笑いあいたい。

 彼がさよならの挨拶をして車を降りる。ボクは笑って走り去る。自分の想いの不毛さに、どうしようもない行き止まり感に、足取り重く帰路につくしかなかった。