飼い犬と飼い主 4
幸せな飼い犬生活を過ごすジーノ。王子に思いを寄せ始めるザッキー。追うものと追われるものが逆転します。ジーノはより良い飼い主を目指し、ザッキーはかわいい後輩のポジションから抜け出したい。そんなザッキー入団1年目の12月まで。以降は徐々に悲惨になっていきます。昼メロ的に。王子、赤崎、世良(ちらっと)、後藤(ちらっと)、モブ女。
愛犬の為に
彼女とデートをしながらジーノはイライラとしていた。
まただ、イライラする
この子ももうダメだな
最近、ホントにサイクルが早くて
なぜ手に入れてしまったら不要になる?
ボクはいつまでこんなことを続けていくつもりなんだろう
今はもう、おもちゃはいらない
ボクは本物の彼女が欲しいんだ
なのにボクはなんでも使い捨てのおもちゃにしてしまう
もう沢山だ
そう、ジーノは今付き合っている彼女への興味が突然なくなってしまっていた。根掘り葉掘り自分のことを聞かれるような、そんな次の段階に進む頃になるといつもそうだった。一緒にいる時間が増え、親密さが深まるに従って必ずこうして心が離れていってしまう。こうなってしまってはジーノは彼女とはもう会いたくない。にも拘らず、それでもやることだけはやりたいと体だけは彼女を追う状態になる。肉欲に負けて関係を持ってしまうと、切るのにまた時間がかかってしまうし、そしたら肉欲的快感を埋める代わりに心のがらんどうがどうしようもなく増えていくばかり。そんな流れになることをジーノはすでに知っていた。なにもかもがいつものとおり、繰り返し繰り返し、もう何度も見て覚えてしまった映画のように同じことがジーノには起っていた。獲物狩りの楽しい遊びならともかく、本気でパートナーを求め始めた今でさえ、全く同じことが繰り返されていた。
つらい。今は距離を置かなければ自分が持たない
でも心と体がソワソワと落ち着かなくて、ちっともじっとしてられない
ちゃんと体が求めるのをやめてくれるまでは、つらくてしんどくて、たまらない
* * *
赤崎と過ごす飼い犬生活の中で喜びと快感を得たジーノは、徐々に赤崎のいない時間に不安と孤独を感じるようになってきていた。ジーノの飼い犬はとてもいい子で、飼い主の正体を知らずにすっかり信頼し、傍にいる時、本物のよくなついた犬のように屈託なく笑う。彼のいない時間の飼い主が、ヴィラで一体どんな生活をしているのか、かわいい愛犬は何も知らない。
ここ数年、プライベートの時間を悪い遊びで埋め合わせてきたジーノだったが、次第に素敵なペットにふさわしい素晴らしい飼い主でありたいと願うようになった。私生活の乱れを正そうとしていた。ちゃらちゃらと人を弄ぶでなく誠実に人に恋をし大切に扱う。そんな普通のことにチャレンジをしようとしたのだった。そうしていつかヴィラを捨て、彼女と二人で彼を連れて散歩に出かける。そんな夢を見始めていた。海外移籍を願うペットの将来を見据えた、ジーノなりの無意識の保険でもあった。彼は自分の孤独を埋めるのに、すでにおもちゃでは間に合わないことを知りつつあったのだ。
なのに、ジーノは恋とは何か、愛とは何かということが、本当によくわかっておらず、普通の人間が普通に出来ることであっても、その試みはちっともうまくいかなかった。好意と善意と興味と性欲がゴチャゴチャになり、結局は関係が破綻していく。自分の人間性の欠損を大いに思い知る結果を繰り返していた。
彼はよい飼い主足ろうとしていた。この思いは真剣で誠実な彼の本心からの願望であった。だが残念なことに、それと同時に身を削り行う例の悪癖の一部でもあった。相手の望むままに姿を変えて夢をかなえる彼からの無償のギフト。無意識のままに相手に与え続けるあの行為だ。彼はまた、己の本質を見失う形で幻の飼い主という偶像にその身のすべてを捧げようとしていた。
彼本人がどう認識していようとジーノにとってのおもちゃの数々は、彼を愛し、感謝をし、癒し包む環境そのものであった。そんな大切な一切を切り捨てて何か他のものを望もうにも、彼の魂は弱り切ってた為に到底実現出来るはずもない願いだった。
彼は幼い頃から手順を間違えたままだった。他人の願いを本当の意味で叶えるためには、まずは自分の腕で自分自身を抱き締める必要があった。だが、自分自身を抱き締めるためには、他人の腕に守られていなければならなかった。ジーノは沢山の彼を包む腕をすでに得ていたので、本当は目を開けるだけでよかったのに、たったそれだけのことが臆病者のジーノにはとても難しいものになっていた。目を閉じたままの彼が行う魔法の数々は、いつでも幻のように儚く消える、淡い淡いものだった。一人ではミラクルは起せない。そういうことだった。
* * *
沢山の人が集まる立食パーティ。やむにやまれぬ理由で参加したものの、ジーノはひどく苦しんでいた。沢山の人の気配にすっかり酔ってしまって、耐えようもない嘔吐にも似た不快感を抱えていた。どうせ参加するなら、誠実な飼い主をちょっとだけ怠けて一時的なおもちゃでも見つけよう。なんて軽く思っていたのに全くそれどころではなかった。ジーノはこういった場では珍しく眉を寄せてうなだれていた。今日のジーノが抱える感情はここ最近の退屈や疲弊ではない、一番嫌いなあの感情。沢山の人の中にいればいるほど益々深まる、どうしようもない孤独感だった。この感覚はもうすっかり忘れていたものだったので、その復活に辟易していた。
こんなはずではなかった。
ボクはOKになったはずだった。
なんでこんな泣いてしまいたくなるほどに寂しい?
人が溢れかえって、なのに窒息しそうなほど孤独だ。
ほら、また体がドンドン重たくなっていってしまう。
なんでまたこうして寂しさを感じて、そしてそれだけでこんなに駄目になる?
どうして心身のバランスを保つことができない?
ボクはプロのサッカー選手だろう?
こうならないために、あれだけボクは一生懸命に…
入団した時に決意した気持ちは今でも全く変わらない。
なのにボクはこんな不安定なところでさえ、今でも全く変わっていないのか。
自身の成長を夢見ることなど、やはり無謀なものだったんだろうか。
諦めたくないのに、やっぱりいつでもすべてを諦めたくなってしまう。
本当にボクは一ミリも教訓を生かせない馬鹿で愚かな人間だ。
