お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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飼い犬と飼い主 4

幸せな飼い犬生活を過ごすジーノ。王子に思いを寄せ始めるザッキー。追うものと追われるものが逆転します。ジーノはより良い飼い主を目指し、ザッキーはかわいい後輩のポジションから抜け出したい。そんなザッキー入団1年目の12月まで。以降は徐々に悲惨になっていきます。昼メロ的に。王子、赤崎、世良(ちらっと)、後藤(ちらっと)、モブ女。

ろくでもない

 赤崎がトップに上がってすぐの年、チームは最悪な成績でシーズンを終えることになった。それでもチームの中では一部残留を喜ぶ声もあり、そのチグハグのムードの中打ち上げの立食パーティで赤崎は若手達と飲みなれない酒を煽っていた。

 ジーノは通りすがりに若手の集まるテーブルに立ち寄り声をかけた。

「飲んでる?」
「あ、王子、お疲れッス!」

 世良はジーノに元気よく答えた。ジーノはその姿ににこやかに笑顔を返し、頬を真っ赤に染めた仏頂面の赤崎にこう言った。

「大丈夫?いくらオフに入るからって、そんなに飲んで。」
「ッス」
「フフフ、若い頃は己の限界を知るのも管理に必要なことかもね。」

 会場ではさまざまなお酒が準備されており、赤崎は次々にそれに手を付けていた。混ぜて飲むことの意味がわからない赤崎がジーノのセリフの意味を知るのは後からのことだった。ま、ほどほどに、と言いながら立ち去ろうとするジーノにイライラして赤崎は思わず声を荒らげる。

「あんた、なに笑ってんッスか」
「おい!赤崎!」

 一緒にいた世良が赤崎をたしなめるが、ジーノは笑いながら片手をあげてそれを制した。

「…あんまりいいお酒じゃないみたいだね。」
「そういうんじゃないッスよ。酔ってるからじゃねぇ。こんな成績でみんなヘラヘラして、どうかしてる!」
「やめろって!今ここで王子に絡むことじゃないだろ?」
「セリーいいから。ねぇ、彼って結構飲んでる?」
「あ、最初から一緒にいたわけじゃないからわからないけどあれこれ結構飲んでるかもしんないッス」
「酒のせいじゃない!」
「…そうだね、ちょっとこっちに。いい?」

 ジーノは赤崎にそう言いながら世良に、ボクにまかせて、とでも言うように笑いながら目配せをした。世良はこのまま赤崎の発言で会場内の空気が悪くなるのを心配していた。だからジーノの配慮に感謝しつつすまなそうにしていたが、かまわないよと言いたげにジーノはまた笑った。世良は失礼な後輩の態度にあくまでも紳士的な態度のジーノに頭を下げ、会場の外に連れ出そうとするその後ろ姿を見送った。

    *  *  *

 廊下に出ても立ち止まることなくドンドン進むジーノに赤崎は言った。

「どこ行くンスか。オレ、酔ってて言ってるわけじゃないッスよ?」
「わかってるよ。落ち着いて。」
「非常階段?」
「二人でいると目立つからね、こんなとこで悪いけど。」

 防災扉の向こうのホテルの非常階段は、室内の豪奢な装飾とうってかわって灰色の無機質なそれであり、その景色の変化と空調の効いていないひんやりとした空気は赤崎を少し冷静にさせた。ジーノはそのまま階と階の間の踊り場まで階段を上がっていき、赤崎の方を振り返る。そして壁にもたれ、掌を上に向け、どうぞ?というリアクションをして言った。

「さ、話を聞こう。」

 後ろからついていった赤崎はまだ階段を上りきっておらず、見上げたその先にいる手を差し出すジーノのその姿が、玉座に座る王様のように神々しく見えた。自分もまた謁見の間に通された彼に傅く些末な家来のようなものに軽く錯覚した。一瞬見惚れ、そして次に憮然とした。

 慌てて同じ高さの踊り場まで足を進めつつ、居心地の悪いものを感じながら彼と同じように壁に寄り掛かった。

「…なんか、スミマセン。王子。」
「かまわないさ。言いたいことがあるのはなにもキミばかりじゃない。ボクも現状のチームに関しては色々いいたいことはある。でも、ボクは言うより前にまず謝らなきゃいけない立場だしね。」
「え?」

 トップチームのスタメンとして今シーズンを戦ってきたジーノの、今の言葉の意味を察して急に言葉がでなくなってしまった。

「…キミもシーズン中、何回か真面目にやれと何度かボクをたしなめていたね。あの時は知らん顔をしていたけれど…内心では悪いと思っていたよ。」
「え…」
「…内緒だよ?今年は初っ端から、ここ最近でも最悪なコンディションだった。プロとしては言い訳も何もできない。」
「そうだったんですか?全然そんな…」
「調整に失敗したことがバレるより、我儘で気紛れな王子と思われた方が幾分マシだからね。でも自分のそういう無駄にプライドが高いところ…たまにちょっと持て余すよ。」

 赤崎は自分が酔っている上に思いがけないジーノの独白を受けたとあって、ただ茫然としていた。それに気づいてジーノは

「あぁ、いけない。キミの話を聞くんだったね、ボクも少し酔っているようだ。」

と苦笑した。その顔を見て、赤崎はさっきからの無責任な自分の発言を恥じた。ジーノはいつも優雅にしているのでチームの成績みたいなことは全く興味がないかのように感じていた。そう思っていたから、無神経にもヘラヘラ笑っていることに対して怒りをぶつけていたのだ。
 そんな失礼な態度をとったというのに、その直後にジーノがこんな風に己の状態を自分に向けて話してきたのだ。それにふがいない成績を残したことについて反省の弁を述べるなどとは想像だにしていなかった。

「いいんだよ、言いたいこと全部言って。ちゃんと聞く。シーズン中はボクも大人げなかった。でもこういう悪い部分は来季に持ち越すわけにはいかないからね。だからキミの話を休みに入る前に聞いておきたいんだ。」
「……」
「…なんか悪かったね。逆に言いにくくさせてしまったかな?」

 赤崎はジーノと自分の関係性の解釈について悩んでいた。先日温かい時間を過ごしたことを簡単に忘れろと言われたこともあって、その悩みは日に日に強くなってきていた。今日はそれがいらだちへとつながりチーム成績にこじつけて怒りをジーノにぶつけてしまったのだ。酒の力を借りて、まさに八つ当たりそのものだった。

 今、自責の念が強く赤崎の心を苛んでいた。ジーノは自己の調整不良の苦悶の中、常に笑い、赤崎のプレイへの叱責に耐え、赤崎への助言を絶やさなかったのだ。自己中心的な自分の態度に、胸が締め付けられる思いだった。

「どうしたの?飲み過ぎで気分でも悪くなっちゃった?」

 心配そうにジーノは自然に赤崎の頬に手をかけ顔をのぞく。優しいその姿に、大丈夫ッス、と小さく答えるのが精一杯だった。

「…少し顔色悪いね。ここは寒いし失敗だったかな。」

さりげなくスーツの上着を脱いで赤崎にかけようとするので、赤崎は慌てて言った。

「いや!大丈夫ッス!ほんと!いらないですから」

ほぼ無意識にそれをやってしまうジーノの身に付いた習慣に少しびっくりしながらも、その仕草があまりにも綺麗で女性たちが熱狂するのも当然だと感じた。

「…オレ、すごく失礼なこと言って。」
「失礼?なぜ?当然のことじゃないか。ダメなチームさ、今のETUはね。」
「いや…でも…」
「いいんだよ言うのは。ただお酒の席ではね。どれだけその思いが真剣でも結局はろくでもない結果になることが多いんだ。意見がある時はね?意見を言ってしかるべきシーンでより効果的にやるといいと思う。酔った勢いでクダをまいたなんて思われたらつまらないだろう?」
「……」

 落ち着いたトーンで話すジーノの声が、赤崎の耳を纏う。その声色は二人きりでいるときだけに時々聞けるものだった。プライベートで女性と過ごすときも、こんな声で彼は語らうのだろうか?と赤崎はぼんやりと考える。

「…キミ、ここのプリマベーラ出身だものね。初年度にかける意気込みはきっとすごかったろうし、今季の結果はとってもつらかったよね?」
「あ…」

 こんな言葉をかけられるなんて思ってもなくて、不意に目頭が熱くなった。赤崎は今年最悪なチーム状態の中にトップチーム入りし、結局デビューを果たせず、くやしくてくやしくていつも意地になって居残り練習をしていた。ジーノは赤崎のそういう気持ちもわかった上で、時々「今日はいい動きだったからコーチ達もわかってくれるといいのにね」などと言いながら、いつも笑いながら傍にいてくれていたのだった。

「本当に悪かったと思ってる。悪い時は悪い時なりにって力がボクには不足してて。どうすることもできないままこんな形で終わっちゃってた。」
「王子…」
「でもまあ、結果がすべてだもの、謝られても困るよね?弱い奴ほど言い訳がうまいんだよ。今更こんな…ボクは本当にずるいよねぇ。」

 本人の言うようにジーノは酔っているのだろうか。いつになく心情を語る姿が、いつもの傲慢にも思えるアクの強さをすっかり薄め、綺麗に整った目鼻立ちと肌の質感、そして内臓にまで響くかのような深い響きを持つ声をより一層際立たせていた。

「ザッキー、泣いているの?」

泣いていたつもりはなかったのに、そう言われた途端、あふれ出るように涙が出てきてしまった。お酒のせいもあったけれど、ジーノの今期の状況や苦悩と優しさ、そして自分の無神経さにとても耐えきれなかったのだ。

「困ったね、キミが女性ならここで抱き寄せて思いっきり泣かせてあげるとこなんだけど…フフフ、この場合はどうしてあげれば一番いいのかちょっと思いつかない。」

苦笑いを浮かべてからかうようにジーノが言った。

「…泣くのには…それが一番いいンスか?」
「え?いやー、一番かどうかはわから…」

 突然、赤崎はジーノに覆いかぶさるように抱きついた。不意打ちを食らってジーノは珍しくバランスを崩し、二人ともヨタヨタとその場で尻餅をついた。それでも赤崎はめげずにジーノの首に両腕を回しそのままギュッと抱きついた。

「あ…危ないよ、ザッキーなにを…」
「泣いていいッスよ。胸貸しますんで。」
「え?なに?」
「泣きたいの、あんたでしょ、王子。」
「なにをわけのわからないことを言って…」

 笑いながらジーノはすぐに気が付いた。しがみつくように抱きつきながら自らの肩に顔を寄せている赤崎が声を殺して泣いていることに。最初はとまどっていたジーノもそっと赤崎の背中に両腕を回した。

「フフフ、そうだね。キミの好意に甘えて…その胸、お借りすることにしよう。」

 優しい声に、優しい腕。いつのまにか赤崎は子どもみたいにしゃくりあげて泣いていた。自分の腕の中ではとても泣けないであろう大人のジーノと、ちっぽけな自分。借りると言いながら胸を貸してくれている優しさ。そういう様々な自分の中のあらゆる重みを、そっと体と同じように心までも包み込んでくれているのを感じて、ドンドン涙があふれて止まりようがなかった。

かなり長い時間、そうしていた。

 壁にもたれているとはいえ、長時間男の赤崎の体重を支えているのはさすがに苦しかったのだろう。しばらくするとジーノが尻餅をついた状態でなんとも居心地の悪かった二人の体勢をなおそうとしていた。それに気付いた赤崎が上体を起すと、そのまま反対に極自然に仰向けになる形で床に押し倒されてしまった。

「え?あ…ちょっ」

 ジーノの頭が赤崎の肩に寄せられる。彼の頬と髪の感触が首筋に伝わる。吐息がかかり、暖かくやわらかいものが耳の後ろに触れた。さらに暖かいしっとりと濡れたなにかが耳たぶに触れる。ジーノの舌先の動きに目がクラクラし、赤崎は動悸が激しくなった。耳をねっとりと舐め上げた口が頬を渡って赤崎の唇へ。優しくなぞるように彼の唇が触れるので思わず震え、その瞬間緩んだ唇の隙間を狙うようにジーノの舌先が滑らかに侵入する。たったそれだけで背筋を伝うように快感が湧きあがる。そして、とまどう赤崎をそのままに、その舌先は一気に口内を蹂躙するかのように中を激しく犯し始めた。互いの唾液が口内で混ざり合いクチュクチュと卑猥な音を立て、赤崎の舌とジーノの舌が激しく絡み合う。痛烈な快楽の眩暈の中どうしていいのかわからずにいると赤崎はジーノが自分のベルトに手をかけていることに気づいた。

 こんなホテルの非常階段で思ってもみない急激な展開。赤崎の酔った頭の中には恐怖と期待の二つがグルグルと交錯しはじめ、思わず涙は止まり体は硬直した。すると、赤崎の緊張を察知したせいなのか“チュ”と音を立てて唇が離れ、ジーノは体を起こしてこう言った。

「…ありがとう、胸を貸してくれて。こんな経験は初めてだし、こんなに素直に泣けたこともないよ。」

 ジーノはひとつも濡れていない目でにっこりと笑い、赤崎をそのまま抱き起した。赤崎の方はまだ動悸は収まらず、体も欲情の反応をみせたまま。心の方もほっとしてがっかりとでもいう感じ。なのにジーノはまるでなにもなかったかのように平然とした顔をしていた。その姿に益々混乱し、赤崎は一体今の状況をどう解釈すればいいのかわけがわからない状態になっていた。

「いけない、そろそろお開きの時間だ。戻らないとね?」
「あの!…」

 そのまま立ち上がり時計を気にするジーノに思わず声をかけた。赤崎は混乱する。今のは夢だったんだろうか?と。

「今のは…なんなんスか?…俺ちょっと驚いて…」

 ジーノに、夢ではない、今自分たちは確実に先輩後輩を超えるあの行為をしようとしたのだ、と。その答えを聞くためにわざわざ引き戻す話をした。けれどジーノの表情は全く変わらない。何を言ってるんだろうとでも言わんばかりのリアクションに赤崎は恥ずかしくなった。ジーノは赤崎を見下ろしてこう言った。

「ハハハ、ごめんね、びっくりした?」

 それを聞いて、あぁ夢ではなかったんだ、と赤崎は少しほっとした。でも、やっぱり混乱は収まらなかった。まるで別人のような明るいトーンでハキハキと話す姿とキュートな王子スマイルを眺めることになったから。これはサインを断る時に見せるファンをあしらう顔だ。陽気でいながら相手に有無を言わせない。

「ボク酔うと誰彼ともなく人肌が恋しくなっちゃう。困った癖だよね。よかったよ我に返って。いくらなんでもキミ相手にさぁ?ろくでもない結果になるとこだった。」
「あ…」
「ちょっとお互い飲み過ぎちゃったよね。悪いけど今のこと忘れて?」

 ジーノは、じゃ急ごう、と赤崎を促しそのままなし崩しに二人会場へ戻ることになった。チャーミングな笑顔に明るい口調でお酒のせいにされて、ろくでもないとまで言われて。赤崎はショックを受けた。彼が自分をかまうのは、あくまでもチームメイト、後輩としてのそれであって、少しこうして関係が近づいたように見えても、勘違いをしてはいけないのだ。と。王子への気持ちに気付いた翌日に釘を刺され、今日また再び2本目の釘を心臓に打ち付けられてしまった。

 シーズンが終わる。年明けの練習が始まるまで彼と会う機会はしばらくないだろう。苦しくて苦しくて仕方がなかった。我慢できないほどにドンドン強くなる、あまりにも先のない絶望的な自分の思いを抱え、どうやって年末を過ごそうかと赤崎は酔った頭でぼんやりと考えていた。

    *  *  *

 締めの挨拶が終わり各々が帰宅の途につく途中、赤崎は後藤とジーノの二人の会話をふと耳にする。

「ああ、途中まで一緒に帰るか?」
「え?いや、ボク今日用事があって車で来てるから。」
「おい、それ…」
「大丈夫だよ、一滴も飲んでないし。あ、駅くらいまでなら送ってこうか?顔色悪いね、悪酔いした?」
「いや、それはいいよ。」
「そ?じゃ、また。話があればまた今度。」

   一滴も飲んでいない?ではさっきのは一体?
   なんであの人は、いつもいつも…

赤崎は飲み慣れない酒が自身の体内を汚泥のようにドロドロと這いずり廻るかのように感じ、その不快に吐き気がした。