お花結び

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飼い犬と飼い主 5

前回我慢できずザッキーに軽くちょっかいを出してしまって大後悔のジーノが今度こそはとほのぼののんびり飼い犬生活を目指します。良い先輩になるため頑張ってる幸せなジーノと、優しいホワイト版ジーノに可愛がられて幸せなザッキー、今回はそんな二人の原作1年前の年明けから夏までの話。エロなし健全。王子、赤崎、赤崎父、モブ女(気配)、ジュニアユースっ子(気配)、赤崎のジュニアユースの仲間(気配)。次回!バトル展開ッッ!!(エッ

良き先輩として飼い主として

 1月。練習場。

 年末年始と、実家に戻り、親戚や友達とワイワイ騒がしく過ごした赤崎はため息をついていた。年明け、指折り数えてもっとも会いたかった男がもう何日も練習に顔を出さないからだ。夏のオフ明けもそうだったが、まわりの人達の話を聞くと、彼がこうしてオフ明けにすぐに出てこないのは毎度のことらしい。

    *  *  *

「やあ、寒いのにみんなよくやるね。」

 練習再開から遅れること数日。彼はのんびりグランドにやってきた。周りが頭から湯気を出して怒っているけれど、王子はのん気に笑っている。久しぶりに見た彼は相変わらずだった。

「なんだか飛行機が飛ばなくてさ~?これでも急いで戻ってきたんだよ、割と。」

 周りを取り囲むコーチ陣にそんなセリフを言いながら、王子はそのまま隅でストレッチ。彼はコンディションを全部自分で管理していて、長期休み明けはああしてマイペースで体を仕上げていく。夏に初めてああいう姿を見た時は面食らったけれど、2回目ともなれば慣れてしまった。無理をさせるとまた休んでしまうから顔を出しただけ偉いとでも言う他ない、とコーチ達が影でため息を付いていた。結局みんなあのどうしようもない我儘王子が好きなんだなと感じた。

    *  *  *

 王子に会う日を待ち望んでいたのに、彼は別メニューばかりで話す機会もないままで。話しかけてくるのはいつもあの人の方だったので、こちらからは話しかけにくい。そうこうしているうちに何日か経過した。俺が居残りしてても、もう何日も王子が顔を見せることはなかった。

 やっと全体練習に王子が合流した日、ふと目が合い、俺はドキリとする。彼がニッコリ笑ったので、無視されているわけではなかったのだと胸を撫で下ろす。

「キミ、練習来てたっけ?なんか久しぶりって感じ。元気してた?」
「当たり前でしょ。あんたと違いますから。」
「おやおや、言うねぇ。」

 すれ違いざまほんのちょっと会話をする。立ち去る王子は俺の肩にそっと手を乗せてはいかなかった。いつもの風習が失われることに気付くことで、ああ、俺は知らないうちにこんなにも彼の手を待つようになっていたんだ、と痛感した。

 王子のあの声、あの表情。12月のあの立食パーティで起ったことが長い休みを経て彼の頭から消えていることは明らかだった。俺の頭からは片時も離れないあの行為は、彼の中では日常の中の記憶の枝葉にも残らないたわいない出来事だったんだろう。

 最近の彼はとても忙しそう。練習が終わると世話しないほどに携帯を触っている。その横でチームメイトが彼の女癖を揶揄している。最近大人しくなったと思ってたらまたか、と。

「なんか失礼だなぁ。そんなんじゃない。みんなただの友達だよ?」
「お前の友達は背中ひっかくのかよ!」
「真っ赤な顔しちゃって。クロエったら、ボクの体そんな目で見ないでよねH。ひっかけようとしてもそうはいかないよ?」
「な!」
「ボクの友達はいい子ばっかりだから、ちゃんと気を付けてくれてるに決まってるだろう?」
「やっぱ、やってんじゃねーかよ!」
「フフフ、冗談だよ。ボクは真面目で品行方正な王子なんだから。」
「ふざけんな!」

 賑やかなロッカールーム。いまだに俺はみんなの前であんな風に彼と話をしたことがない。チームのカリスマとちっぽけな新人の二人。まるで人目を忍んで逢引をするかのような、誰も知らない秘密の親密。表で見かける彼は二人でいる時とは全く別人のよう。あまりにも公平に、あまりにもフランクに、あまりにも他人行儀に俺を扱う。年が明けて、裏で見せていた俺だけが知っていた彼はすっかりいなくなってしまった。自主トレに未だ顔を見せない彼からは、偶然を装い俺に触れる、あの猫のようにすり寄るソフトタッチの癖も一切消えていた。

 外気の冷たさに比べて、ここは熱気に溢れている。そんな空気の、みんなが使うシトラス系の制汗剤の香りの中、ふわり漂う王子のコロン。さわやかだけどほんのり甘い、心地よく瑞々しいこの匂い。このコロンは王子の友達、つまり一度は甘い時間を彼と過ごしたであろう、あの美しい女性が、彼のためだけに調香してくれたもの。一緒に出掛けた食事の途中、用事があると立ち寄った店先でたまたまこの話を聞いた。彼女ってとってもセンスがあるんだよ、さすがプロだよね?そういう王子の言葉に、恥ずかしそうにとても綺麗な笑顔を浮かべていた。

   あの女性は今でもこの香りを手にして、
   王子との夜を思い出したりしているんだろうか

 香りが呼び覚ます記憶の強さを今まさにこの俺は感じている。コロンに誘発されて蘇る、ひんやり冷えた非常階段の床、熱い彼の体と舌先。俺はこの長い冬のオフに一人、誰にも言えない、いけない行為を繰り返していた。ロッカールームのこの熱気に似た、夏の日に繰り返された彼の行う俺の体調管理の記憶と、あの日の酔夢の記憶を沢山使用した。俺があれを吐きだすのに身近な人物を、しかも男を使うのは初めてのことだった。忘れろという彼の言葉をキーワードに、俺は快楽を呼び起こして何度も何度も熱くなった。今、彼がこうして距離をあけるのは、なんでも見通す彼の目がそんな俺の汚い欲望を見つけてしまったからかもしれない。そう思った。

    *  *  *

「やれやれ。キミはボクがいないと自分の管理もまともにやれないのかい?」

 ふらっと王子がトレーニングルームにやってきた。いつもの笑顔、いつもの態度。オフも含めて1か月ほど、こういう彼をみていなかった。

「開幕に向けてそんなでは、準備が全然なってないよ?」

と言いながら、彼は疲労で張りが出てきていた俺のふくらはぎに目を向ける。

「なんか、久しぶりッスね。元気にしてました?」
「まあ、そこそこね?」

 俺の愛想のない返事に、王子は気のない返事をする。

「めっちゃ忙しそうで。もう来ないかと思ってました。」
「あれ?待ってた?」
「そんなんじゃ…ないッスから。」

 外套を着たまま入り口に佇む王子は、すらすらと今日やるべきメニューを話し出した。最後に、今日は帰ったらゆっくり眠るんだよ?ともかく疲れはとらなくちゃ、と付け加えた。この人は相変わらずなにもかもお見通し。

「……」
「返事は?ザッキー?」
「…誰のせいで眠れないと思ってんだか。」
「おや?誰のせいだい?そんな悪い奴、とっちめてやらないと。」
「ふざけないでくださいよ、わかってる癖に。」

 王子は意味深な笑顔を浮かべて肩を竦める。そう、この態度。わかっていて知らぬ顔をしている。なんだか無性に腹が立った。

「なんでもかんでも忘れろ忘れろって。からかうのもいい加減にしろよ。」
「結構酔ってたのに覚えてるんだ?ごめんごめん、ボクの変な癖に付き合せちゃって。」
「酔った時の癖が酔ってもないのに出てくるなんて、ホントに変な癖持ってるね、あんた。」
「おや、バレちゃってた?キミは時々そうしてタメ口になるね。ややこしくない?ずっとタメ口でいいのに。ボク、別に気にしないよ?」
「誤魔化すなよ。」
「なんだか今日のキミは手厳しいねぇ?機嫌のいい時にまた来ようかな。」

 睨み付けるように王子を見たけれど、彼は高慢な笑顔でじっと俺を見つめ返す。こうなって目を逸らさねばならなくなるのはいつも俺のほう。彼の顔、彼の目。俺はそれらを長時間見続けていることが出来ないから。まるでまぶしいものを見るように、目を細めて横を向いてしまうから。
 コツコツと足音が近づいて、目を伏せた俺の頬にそっと彼の手が添えられた。いきなりのことで、そして久しぶりのことで、思わずビクッとしてしまった。

「キミがそんなだから、ボクはここに来ることが出来なかったんだよ。」
「どういう意味ッスか?」

 不機嫌そうに彼の手を払い、再び彼の顔を見返した。笑っていたと思っていた彼もいつのまにか苦々しい顔をしていたので驚いた。

「わかってるだろうけど、ボク、キミをからかうのが楽しくってね?でもホント、キミってちょろいから。少々飽きてきちゃったんだ。」
「な!」
「キミってさ、ワンワンワン!ってボクの後を追っかける犬みたいだよね?馬鹿なことを考えなければキミをまた飼ってあげてもいいけど、どうする?」
「あんた…今までそんな気持ちで?」
「え?どんな気持ちと思ってたの?何度も説明してきたじゃない?ボクとキミは先輩と後輩。つまりは飼い主と飼い犬。ボクにとっては同じことだよ?」

 王子の言葉が俺を切り付け抉っていく。そんな彼の顔のなんて魅惑的な事。俺の中にある王子との優しい触れ合いの過去をその笑顔で簡単に消し去ろうとしている。有無を言わさない強引なまでの、でも優しく軽やかなコントロール。鋭く斬りつけるような、それでいて優しく包み込むような冗談とも本気とも取れない苦痛を伴う快感にも似た彼独特の繊細な言語能力。まるで刺激的な彼のキスそのもの。

「ちょっとかまってあげただけで自分を人間と勘違いする馬鹿犬なんて、ボクは嫌い。物欲しそうな目で見ていても、もうキミにあげる美味しい餌はもうないよ?わかるかい?この遊びはもうおしまい。」

 労わるような、そして嘲笑するかのような沢山の意味を持つ彼の微笑。俺の目は命令されたかのように吸い寄せられて、今度は逸らすことすらできないでいた。彼の姿、仕草、声のトーン、表情、そのすべてが揃っていないと実現できない苛烈でいながら痛烈に甘いコミュニケーション。今度こそは本気で、有耶無耶にされないように頑張ろう、なんて思う俺の心をあっけなく木端微塵に打ち砕いていく。彼が私生活でだけ見せるこの魅力的な姿はどんな人間でも簡単に翻弄され酔わされてしまう、圧倒的なまでの惑わす力を持っているものだと思う。
 
「キミがボクのための賢い犬でいられるのなら、またこうして遊んであげる。ボクを失望させないでよね?かわいいザッキー?」

 そういって、俺の首筋を指先でついっと一度撫であげてから、じゃあね?と言って王子はそのまま帰っていった。俺はあまりのことにただ茫然とその姿を見送った。彼は疲れをとるように言ったけれど、今晩もあまり眠れそうになかった。