飼い犬と飼い主 5
前回我慢できずザッキーに軽くちょっかいを出してしまって大後悔のジーノが今度こそはとほのぼののんびり飼い犬生活を目指します。良い先輩になるため頑張ってる幸せなジーノと、優しいホワイト版ジーノに可愛がられて幸せなザッキー、今回はそんな二人の原作1年前の年明けから夏までの話。エロなし健全。王子、赤崎、赤崎父、モブ女(気配)、ジュニアユースっ子(気配)、赤崎のジュニアユースの仲間(気配)。次回!バトル展開ッッ!!(エッ
接近~読心
「で、ザッキー聞いてるの?」
「はい、聞いてますよ?」
最近は王子が“お手”遊びをやる時は、居残りもしないでそのまま王子の家に行くことが多かった。でも今日は王子の提案で俺たち二人は久しぶりにトレーニングルームにいた。ここには壁一面の大きな鏡があって、王子は俺のシュートモーションを見るというのだ。
「でね?気合を入れるのと力むのとは意味が違うから…」
「はぁ…」
「なに?」
「いや、いきなりなんなのかなーって。」
「だってキミ、ボクみたいなすごいキッカーになりたいんでしょ?クスクス」
「え!あの俺、王子にそんなこと言った覚え…なんで?!」
「ん?そりゃ…あれかな?飼い主のテレパシー?フフフ」
「マ…マジッスか…冗談だろ?」
「クスッ」
あっけにとられている俺の返事を聞いて王子が噴き出すように笑っている。この人の場合、本気でそんなとこありそうな気がするから仕方がないだろ?でも、まあ、多分俺が今日シュート練ん時に頑張ってたの見て、なんか思うところがあったんだろう。
「大体悪くないんだけどね?まず助走は気持ち長めにとったほうがよくてね?で、こう、踏み込んだ時に膝から下じゃなくて腿から蹴るって意識を。」
「…こんな感じ?」
「そうそう。で、この時気をつけなきゃいけないのが、肩の向き。肩と顔は正面に向けて。左右にひねるような回転をさせない。明後日の方向飛んでっちゃうからね。で、こんな感じで気持ち頭を下げるイメージで。やってみて?」
鏡をみながら王子が丁寧に説明をしてくれる。こんなに細かく指導をしてくれたのは初めてだ。本人が言うように内容の半分は教科書通りの話なんだけど、後の半分が、これ金取れるんじゃね?って思うくらいの細かい独自のノウハウで。王子がFKを蹴る姿はそれはそれは迫力があって綺麗なんだけど、それは天然ものではなくて緻密な計算の上になりたっていることを知り驚いた。ボールの置き方、助走をするために下がる歩幅、キーパーへの目線、その際のちょっとした微笑、羽を伸ばすように伸びたきれいな両腕、踏み込むときの軸足の角度、鞭のようにしなやかな左足。何度も何度も目に焼き付けるように見続けた王子のFKの仕草のすべて。彼はその意味をひとつひとつ種明かししてくれていた。
「まあ、基本的なとこはこんなとこだけど、あとは自分で蹴ってみてどんな感じがいいかを…」
「……」
「ん?なに?ああ…マネだけじゃなくてホントに蹴りたくなっちゃったんだね。」
「なんで?!」
「そりゃ…ねぇ?」
「マジッスか…さっきの話…嘘でしょ?」
「いいから、行っといで?今日の成果は明日に見せてもらうよ。じゃ」
一緒に残って見てくれないのか…と残念に思ったけれど、仕方がないので諦めた。この人は相変わらず俺と仲良くしている姿を他の人に見られるのは嫌なようだったので。しかし、驚いた…。テレパシーなんて冗談なんだろうけれど、本当にびっくりした。
* * *
今日はなんだか急に休みになったってんで、おやじが練習の見学にやってきていた。正直うぜぇ。休憩中に「遼!遼!」とうるさく呼ぶのでかなわない。
「なんだよ、うるせぇなー。」
「おい、ちょっとお前、王子にサインもらってこい。」
「ちょ!あの人サインしないの知ってるくせに!」
「お前たまには親孝行しろよ!王子ー!王子ー!」
「げ!やめろって!」
王子がこっちに気付いてやってくる。あの人、いつもは全然そういうことしないタイプなのに、なんで今日に限って来るんだよ!
「遼、お前から言え!」
「いやに決まってんだろ!うるせんだよおやじ!」
「こんにちは…ん?この人、キミの親御さんか何か?なんか目元なんかそっくりですね。」
「遼の父です、いつも息子がお世話になっています!…ほら、遼、頼んでくれよ、サイン、サイン…」
「だからやめろって!」
「あー、スイマセン、ボク、サインとかはあんまり…。」
「…そ…そうですか…」
「当たり前だろ!」
「昔からETUのサポーターなさってるんですってね?」
「よくご存知ですね、いやはや遼をジュニアに入れたのもそれが理由でして…」
「ですってね。彼からよく聞いています。」
「いや!俺なんにも…」
「応援、いつもありがとうございます。なんだかここ最近は成績が振るわなくて恐縮なんですが…」
「いえ!滅相もない!この前の試合の直接FKなんかすごくて!」
「ああ、なんだかお恥ずかしい限りです。昔は息子さんとスタジアムにいらしてたそうですが、今はおひとりで?」
「な!王子?俺それも言ってないッスよ?」
「うちは家族みんなで行くんですよ、だからひとりじゃないです。」
「ああ、そうでしたか。そういえばご家族揃って夜になると順番にチャンネルを変えながらスポーツニュースを見るっていう話でしたもんね?なんだかうらやましいです。サッカー家族という感じで。」
王子がヨソ行きの顔をして、俺の親父と話をしている。俺から聞いた話になっているけれど、その会話の大部分は俺が話したこともない内容で一体どうなっているのかさっぱりわからなかった。王子のことが好きな親父は俺と王子が懇意にしていると知って有頂天だった。サインはもらえなかったけれど、握手をしてもらって大変満足そうな顔をしていた。休憩が終わり練習は再開。“ボクちょっとキミの親孝行のお手伝いが出来たかな?”なんて笑ってる王子が俺は不気味だった。
「…王子…マジかよ…」
練習が終わってロッカールームに向かう途中、傍を歩く王子に思わず声を掛けた。
「ん?なにが?」
「あんた、ホントに…人の心…」
「フフフ、またキミ、ボクの直接FK決めた映像、あの人と一緒に盛り上がって見れるといいね?」
「!!」
なんでそんなことまで知ってる!この人ホントに超能力者なのかよ!
* * *
今までも多少はこういうことがあった。お腹が空いてそうな時とか、喉が渇いてる時とか、そんな時声を掛けてきてくれたりしてた。ちょっと熱っぽい時とかにはなんも言ってないのに早く帰るようにいわれたりもした。でもここ最近の彼の話は俺の顔を見てなんとなく想像するとか、そういう洞察力の域を完全に超えている。俺が入団前に王子のプレイをずっとチェックしていたことや、王子のアシストでゴールを決める妄想ばっかしてることや、プールが苦手なことなど、言った覚えのないことを次々に当たり前のように笑って話している。挙句にサッカーに全く関係ない、俺が今まで付き合った女の子は一人しかいなくて、それも年上で、その人相手に童貞喪失した時期や場所まで言い当ててくる!なんなんだ、この人は!
すげぇ人だとは思っていたけれど、
すげぇっていうよりも、とんでもない人なんじゃないだろうか。
このETUの王子って人は…。
ありえねぇけど…やっぱり…超能力者?…なのかもしれない。
この人に関してはなんでもアリな気がする…。
マジかよ…。
