飼い犬と飼い主 6
ジーノご乱心アワワで色々踏み外して幸せ飼い犬生活がぶっ壊れます。やっとこR-18 な時期に入りました。(ほのぼのエロなしから一転、バトル展開!というよりウツ展開?) 5と6で落差激しいです。王子、赤崎、黒田、夏木一家、村越、モブ女で、ジノ→←ザキ、ナツ+ジノ、ジノ+コシなどなど。
夏バテ
最近…もう、見過ごせないくらいに強い兆候が。ピッチに立つと沸き起こる幻想、ありえない幻覚。真昼のピッチが真夜中にかわる。繰り返し繰り返し見せられるボクの悪夢は、最近また少しずつボクに近づいて来ている。これでは全く楽しめない。
大好きで楽しいボクの遊園地
そろそろパレードの電飾も消えて、いよいよ閉園の時間ってわけだ
ろくなプレイも出来やしない癖に
未練でがんじがらめになって、まだ帰りたくないとごねているクソガキ
なんてボクは愚かで惨めな人間なんだ
* * *
午前練だというのに今日は思った以上に太陽の日差しが強すぎて。最近眠りも浅い。こんな身動きも出来ないほどにヘトヘトな日は、とっとと帰っておもちゃと寝よう。ボクはボクのあの暗い部屋でもっともっと彼女たちを食べて一杯元気をつけなくちゃ。バランスを上手にとっておかなければ一気に傾いて倒れてしまう。
「ふー、毎日こう暑いとヤル気半減だね。」
「お前のヤル気ある時って一体いつなんだよ!大体暑いなら半袖着ろ!」
「クロエ、夏のキミはホント暑苦しくて見るに堪えないね、ナッツもだけど。」
「なんだよジーノ!お前夏バテか?ウナギ喰え!ウナギ!」
「ナッツ、ウナギの旬は本当は7月じゃないんだよ?キミはあきれ返るほどの馬鹿だね。ナントカ商法に乗せられてばっかりでしょ。」
「土用の丑の日って日本の歴史文化だろうよ!」
「そんなに古い歴史じゃないよ?全く無知だね。んー、でもウナギかぁ。それもいいかも。今からウナギ懐石食べに行って来ようかな…?うん、そうしよう。じゃ、帰るからよろしく。」
「おい!ありえねぇだろ!あと少しなんだから練習終わってからにしろよ!」
「あっつくって体が重たくて動けないんだよ。無理しても故障の元だろう?大体ウナギ喰えっていったのキミじゃない。ナッツの言うこと珍しくきいてやろうって言うんだから文句言わないでよ。」
「ふざけんなよ、行こうとしてるの、この前話してためっちゃ遠くの店だろ?お前全然元気じゃネーかよ!」
「ハハハッ、じゃあね?」
今更走ってコーチ呼びに行ってボクを止めようとしても無駄だよ。いつものとおり、気紛れな王子は帰ると言ったら帰る。ボクは何年もかけて環境をそういう形に整えてきたのだから。少し眩暈がする。早めに家に帰らないとと思ったけれど、車に乗る前にロッカーで少し休もう。ちょっと運転危ないかもしれない。
「王子?」
「やあ、どうしたんだい?珍しい。みんなのいるところでキミから声掛けなんてルール違反だよ?」
「顔色悪いッス。大丈夫なんスか?」
「気のせいだろ?一緒に行くのに誰誘おうかな?って考えてただけだよ。」
「でも…なんとなく」
「…褒めてもらえるとでも思ってるのかい?そうやって飼い主の顔色ばっかり窺って。ボク、そういう無神経な能力は犬にはいらないんだよ。見境なく口を出すのは犬の仕事じゃなくて身の程知らずっていうんだ。今度やったら許さないよ?わかった?」
いけない、ちょっと余裕がなかった。上手に対応できなくて、ザッキーは傷ついたろうか。気にはなるけれど今のボクは状態が悪すぎてなにを言いだすかわからない。賢い犬には少しずつボクの嘘が通じなくなっていくから、振り向きもせずに立ち去る他ない。これは浮かれたボクが彼に色々話をし過ぎたせいだ。今じゃ簡単にこうしてボクの中を穿り返されてしまう。そういう触れられ方は嫌い。耐えられないほどにつらいからお願いだからやめてほしい。
知らないだろうけれど、ボクはキミの為にこの足が上がらなくても頑張って王子してる!だから色々と勘弁してほしい。それ以上のことは今のボクにはとても難しい。精一杯なんだ。
本当にボクは最近どうかしているようだ。元々騙し騙しやってるんだからプレイが出来なくなる日なんてすぐに来るって十分わかっていたはずだった。なにもかも全部が今更な話なのに、こんなにも心が思うように整理できない。混乱している時、昔モッチーがよくボクにかわって整理をしてくれた。キミを裏切ったボクなのに、今更ながらキミの顔が見たい。ボクはこんなに弱く我儘な人間だったんだろうか。思うようにいかないことだらけで頭が痛い。今のボクがどんな状態なのか彼に見てもらいたい。そして教えてもらいたい。だってボクは今こうしている生活がそれでも幸せだと言えるのか、もうおしまいにしたいと投げ出したいのかもわからないから。ボクは今、どんな形であれサッカーをしているだけで楽しいんだと、本気の本気で言える気持ちなのだろうか?フラフラと歩くだけのあのプレイを、ボクは今サッカーと言いきれるのか?
軽やかな足取りになるように気を付けながら、足取り重くロッカールームに向かう。
ナッツの言うようにこの体が思うように動かなくなっているのが
夏バテならよかったのにな
本当に鰻でも食べに行ってみようかな?
馬鹿馬鹿しいことを考えている自分を笑ってしまう。眩暈と頭痛で今は鰻とかそんなギラついたスタミナ食、とても食べられる状態じゃない。
やっとの思いでロッカールームにたどり着く。重たい荷物を置くように自分のロッカーにへたり込む。なにも考えられないくらいにボーっとしているはずなのに、思考が止まらない。何を考えてるのかも取り留めもない。
モッチーと一緒に所狭しと走り回った、
あの頃の自分が懐かしい
今はどう?
ボクはあれからすっかり変質してしまった
未練がましくピッチにしがみついて、
ヤル気のない顔をして誤魔化して
これはもはやサッカーではない
わかっているのにそれでももう少しもう少しと…
まるで別人のようなプレイを続ける今の自分からすれば、あの頃のことはまるで幻みたいな感じがした。
