飼い犬と飼い主 6
ジーノご乱心アワワで色々踏み外して幸せ飼い犬生活がぶっ壊れます。やっとこR-18 な時期に入りました。(ほのぼのエロなしから一転、バトル展開!というよりウツ展開?) 5と6で落差激しいです。王子、赤崎、黒田、夏木一家、村越、モブ女で、ジノ→←ザキ、ナツ+ジノ、ジノ+コシなどなど。
沈降
いつものようにおもちゃとバカンスに出掛けていたジーノは自身の限界を感じていた。周りの人間はまだ気が付かないレベルでも、自分のプレイの質や感覚のずれが、もうどうしようもないほどに始まっていた。
今すぐにでもピッチを降りないと
みんなの前でまた昔のように…
フフフ、ボクの真剣で大真面目な空振りをみたら
ザッキー、キミはびっくりするかな?
ジーノは上手にメンタルをコントロールしておかないと、ボールを蹴ることが出来なくなる病気を抱えていた。熱く情熱を傾けることですべてがチグハグにかみ合わなくなっていくのだ。努めて冷静に、努めて達観をめざし、過去も未来も意識から外し、“今ここ”だけを見つめる。それが出来ない状態になった彼はとても脆かった。無意識にすべてを見通すゲームメーカーとしての天性の資質は、ジーノにとって昔から諸刃の剣だった。
* * *
幼い頃に達海に「二つが合わさることでミラクルが起きる」ということを教えてもらって以来、それはジーノにとってそのことは大切な大切な夢になった。夢を見ることが苦手なジーノの、たった一つの夢だった。
達海の出会いにより、心の底からサッカーが大好きになった。生きることが少しだけ楽しくなり、いつしか達海とプレイすることそのものが彼の夢と化していった。夕暮れの河川敷で体感したあの世界。ミラクルと名付けたあの官能は、サッカーと達海、そのすべてを一体化させたジーノのかけがえのない心の支えだった。ジーノには達海がサッカーがミラクルそのものだった。
あれから何度も心の中で達海に話しかけ、自身の選手としてのさらなる成長を願う生活を続けた。そして時に苦しみ、いつのまにか意識的に忘れることにした自身の本当の夢。ある時期ジーノのすべてを支えた夢は、ある日突然砕け散ってかわりに深い傷になった。消えた夢のかわりにジーノは淡い淡い漠然とした新しい夢を作り出す。作り出した淡い夢を支えにして、一度は選手の道を諦める。それでも結局忘れたはずの砕けた夢は無意識にジーノを突き動かして、こうして、このサッカー選手としての道に進ませた。はたから見れば順風満帆な思い通りの人生。現実は似て非なる道。ここにはサッカーはあれども、それは形だけ。一番大切な魂が入っていなかった。
それでもジーノは幸せだったのだ。魂、つまり忘れてしまった達海に象徴されたミラクルという夢から遠くかけ離れた場所でプレイをしていたとしても。ベストではなくベターを目指す。治療も、孤独の解消も、サッカーに対する熱い思いも。この選択は今自分がやれる、最高レベルの到達点であり、あれが手に入れられなくても十分上出来だと。そうやって暮らしていた。なのに。
赤崎との出会いが彼を、彼自身も気付かぬうちに根本から変えてしまった。
赤崎の中にある情熱に触れることで、おそろしくて閉じ込めてしまった昔の夢が次々に呼び覚まされてしまったのだ。今だけを見ることで辛くも現状維持していた自身のコンディションが、このことをキッカケにして崩れていくのは当然の帰結だった。
赤崎の夢の支援者として生きる選択をしたジーノは、結局は崩れていく自分を支えることで精一杯になってしまう。気が付かないままに、砕けた夢の破片が次々に自身を切り刻み始めたからだ。痛みを堪える中で、自分の選択の無意味さを心の奥底に横たえていく。だって、どれだけ探しても自分が彼に与えるものなど何一つこの手の中に見当たらない。自分にあるのはこの耐え切れない痛みだけ。夢を閉じ込めた男が人の夢を支えるなんて全く愚かしい選択であったことなどジーノがまともなら最初からわかりきった話だった。
遅ればせながら気が付いてしまったジーノは、その無意味さのあまり何度も手を離そうと考え、実施を試みてもかなわず、依存し、執着し。そんな時間が楽しければ楽しいほど、大きな自己矛盾が自分を責め立てた。
崩れていくプレイ。何度努力しても手放せないかわいい後輩。苦しみの中で、先を見通す天性の才能が、ジーノの眼下に繰り返し繰り返し終わりの世界を映しだしていく。それを見てジーノは何回も考える。かわいい飼い犬の夢を壊さないままに最良な形で迎える結末の日を、そのためのプランを。これもまた繰り返し繰り返し、毎回、今度こそは、今回こそはと続けられてきた行動だった。
