飼い犬と飼い主 6
ジーノご乱心アワワで色々踏み外して幸せ飼い犬生活がぶっ壊れます。やっとこR-18 な時期に入りました。(ほのぼのエロなしから一転、バトル展開!というよりウツ展開?) 5と6で落差激しいです。王子、赤崎、黒田、夏木一家、村越、モブ女で、ジノ→←ザキ、ナツ+ジノ、ジノ+コシなどなど。
ナッツ、おなか一杯の愛
「ジーノォ!何回もそれやめろって言ってるだろ!!勝手にチューするなよ!穢れるだろう?!」
夏木さんが怒っているのは王子が彼の娘にキスをしたからだ。
今日、練習場に夏木さんの家族が来ていた。休憩に入った途端、王子は笑顔で娘さんに駆け寄り、軽々と彼女を抱き上げて頬にチュッとキスをした。両手で空高く彼女を掲げてくるりと回り、ふわりと右腰に抱き留めてキスをする流れはちょっとクサいくらいの演出で。王子様を夢見る小さい女の子にとってすれば、まるでお姫様になったかのような幸せ一杯のシーンだっただろう。娘さんはそのまま王子に抱っこされた状態で嬉しそうに彼の肩に抱きついていた。どうやら昔から面識が深いようだ。王子が左手で軽く彼女の髪をなおしてあげて、娘さんがくすぐったそうに喜んでいる姿も絵になって、彼はどこまでもキザが似合う男だな、と半ば飽きれた。
王子はいつも夏木さんに毒舌を吐いているので、てっきり二人は仲が悪いと思っていた。というか王子は夏木さんのことを嫌っているのかと思ってた。でも、滅多に見れないくらいに穏やかな王子の笑顔を見ていると、そうでもなかったのか、と感じた。
「ジーノ、おい!降ろせって!」
「パパったらうるさい!いいの!」
夏木さんが王子の腕をひっつかもうとしたら、娘さんがギュッと王子の首に抱きついて自分の父親を睨みつけていた。王子は目を細めて笑い、かわいい彼女の目元にこれ見よがしに二度目のキスをしていた。嬉しそうな娘を見つめながら、夏木さんは恨みがましく言い返した。
「お前、俺がチューしようとしたらいつも嫌がる癖になんなんだよ!」
「だってパパの唇ガサガサしてて痛いんだもん!」
「おやおや、随分嫌われちゃってるね。奥さんのためにもそういうケアはちゃんとしといてあげなくちゃ、ねぇ?ナッツ?」
「お!おい!子どものいる前でやめろよ!お前が言うとなんか生々しいだろ!」
「何がどう生々しいの?フフフ。ともかくホント家族に感謝しなくちゃね?そんなケア一つ思いつかない配慮のないキミを、いつもこんなにも愛してくれているんだから。」
「やかましいわ!お前に言われなくても俺にはもったいねぇ嫁だよ!」
「ハッハー、ごちそうさま、ナッツ。」
「えー、私パパよりジーノの方が好きだよ!愛してる!」
「ボクも愛してるよ?今日はキミが来てくれてとても嬉しい。ちょっと張りきっちゃおうかな?」
「お前はいつも張りきれよ!俺なんていつもいつもなー!おい!ちょっと聞けよ!どこ行くんだよ!」
休憩の終わりの合図を受けて、王子がにこやかに笑いながらふんわりと女の子を地面に降ろすと、夏木さんと二人ワイワイやりながらまたピッチに戻ってきた。
アップ、パス練、シュート練、ミニゲームと続いて、今日の最後は11人制での練習試合。王子は開始早々スーパーなミドルを2発も決めて、ついでに芸術的なパスを数本夏木さんに出していた。それを彼はことごとくトラップミスしたりシュートが枠を捉えなかったりで、王子は苦笑いを浮かべ、夏木さんは練習が終わる頃にはすっかり肩を落として項垂れていた。娘さんに顔向けできない惨めさを抱えたパパは、気合の空回りに泣いてるみたいな情けない顔をしてロッカールームに引っ込んでいった。
王子がそんな彼の姿をため息を付きながら見送って、また夏木親子の元に向かっていった。
「パパ、カッコ悪い!」
「えー?パパ、カッコいいよ?知ってる癖に。」
「全然カッコよくないよ!私恥ずかしい!」
「ナッツは純粋で馬鹿が付くほどキミ達のことが大好きだから。いつも頭が一杯だから。そんな時の彼はいつもこうなんだよ。きっとサッカーがヤキモチ妬いちゃうんだね。」
「どういう意味?」
「サッカーはナッツのことが大好きだから、ナッツがサッカーだけに気持ちが向いてさえいれば、とても素敵なプレゼントをくれる。今季は沢山ゴールを決めているのは知ってるよね?」
「うん…」
「ここぞ!っていう時に、何度もチームを救ってきたスーパーヒーローだよ?キミのパパは、とてもカッコいい選手だよね?違う?」
しゃがんで話す王子の首に恥ずかしそうに抱きつく女の子。彼女は素直になれないだけで、見ているだけで父親のことがとても大好きなことが伝わってきた。
「いつもいつも、ホントにあの人は…。スイマセン、親子してご迷惑をおかけしちゃって。」
夏木さんの奥さんが苦笑いをしている。その姿からも王子がこの一家とそれなりの付き合いをしてきていることがわかる。
「とんでもない、迷惑だなんて。あなた方は理想の家族ですよ。あ、でもボクが彼を誉めるといつもろくなことにならないので…。」
「わかっています、内緒ですよね?」
「フフフ、よろしくお願いいたします。今のチームには彼の力が絶対必要なので。」
「ジーノさんのような人にそこまで言っていただけるなんて。全くあの人ももう少ししっかりしてくれればいいんですけれど。」
「あなたまでなんです?彼はあなたの愛すべき夫で世界で一番のサッカー選手でしょう?しっかりしたナッツはなんだかナッツじゃない気がしますし、あのままで十分魅力的な男ですよ。」
「それもそうですね?フフ」
「ハハハ、本当にあなた方は全く二人して…。ごちそうさまです、今度こそボクはお腹が一杯だ。もう満腹で食べきれない。」
「あら…フフフ」
「でも少しだけ我慢してくださいね?寂しいでしょうけど、彼にはピッチの中ではサッカーだけを愛してもらいますから。」
「勿論です、そんなあの人が一番素敵なんです。」
「ハハハ、参ったな…」
夏木さん以外の夏木一家と話している王子は本当にとても穏やかで、幸せそうに微笑んでいた。
* * *
「なんか、意外でした。」
「そう?どうして?ザッキー」
食事に向かう車の中。なんだか少しご機嫌な王子に話しかけた。
「あんたら二人、仲悪いと思ってたんで。」
「まあ、仲が悪いっていうよりサッカーの相性がこの上なく悪いっていうのは確かにあるね。」
「相性…なんスかね?そういう次元じゃない気もしますけど。」
夏木さんは決定力はあるのにいつもドタバタとして技術力がない不思議な人だと感じていた。技術とセンスの塊のような王子が、そういう彼を相性の問題と表現するなんて、やっぱり奇妙な気がした。
「ナッツについては…彼はボクにないものを沢山持ってる。あの打開力とか?醜いのが難点だけど、あんなにも当たり前のようになんでも手に入れて…。」
「あんたも十分結果出してるじゃないッスか。」
「……フフフ、最近はお利口な上に飼い主を持ち上げることまで覚えたのかい?」
「そんなんじゃ…」
「キミがボクのことを好きなのは知ってる。でも贔屓目は捨ててもらわないと不満だね。もっと冷静にプレイを分析する目を持つんだよ?難しいかもしれないけれど、しっかり観察して盗めるものなら彼から盗むといい。ボクが教えられることではないし、ナッツも多分無理だろう。きっと教えられて身に付くような質のものではないと思うんだ。見て、知って、盗むしか方法がない。誰しもが喉から手が出るほど欲しがるアレをもし意識的に君が手に入れられたら…。また少しキミは大きくなれる。下手くそなとこのマネは絶対しちゃ駄目だけだけどね。」
結局下手くそ呼ばわりするのかと笑ってしまった。ちょっとした毒舌を織り交ぜながらも、やっぱり彼の機嫌はよかった。その姿から如何に王子が夏木さんに大きな信頼を寄せているのかがわかった。確かにここ最近の活躍は目を見張るものがあったし、これからは王子の言うとおり、もう少し夏木さんのプレイに注目していこうと思った。
* * *
王子とこんな話をしてからしばらくしてからのことだった。夏木さんが怪我をしてチームを離脱した。
まだまだ夏のような暑さの残る日の試合の最中。彼は彼らしいプレイスタイルで無理な姿勢からの着地で足のどこかを負傷し、そのままピッチに崩れ落ちて動けなくなってしまった。ボールが外に出てしばらくしても、彼はそのまま起き上がることが出来ずしばらく試合は中断した。スタッフが両腕で大きなバツ印を示した後、担架がやってきて泣いてるみたいな情けない顔の男をピッチの外に運んでいった。
この時何故か、俺は王子が何かを叫んでいた様な気がした。なんで突然そんなことを考えてしまったのかもよくわからない。本物の王子はいつも通り澄ました顔をして給水しているだけだったというのに。そう、彼のように常に冷静で精神力の強い男が、こんなことで動揺するはずもないというのに。
