お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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飼い犬と飼い主 6

ジーノご乱心アワワで色々踏み外して幸せ飼い犬生活がぶっ壊れます。やっとこR-18 な時期に入りました。(ほのぼのエロなしから一転、バトル展開!というよりウツ展開?) 5と6で落差激しいです。王子、赤崎、黒田、夏木一家、村越、モブ女で、ジノ→←ザキ、ナツ+ジノ、ジノ+コシなどなど。

裏と表

 夏木さん本人は試合が終わってからと言っていたけれどとても歩ける状態ではなく、結局途中で音を鳴らさない救急車で搬送されていった。俺がプロに入ってから大きな怪我で選手がチームから離脱するというのは今回が初めてのことだった。

    *  *  *

 試合後、ロッカールームでちょっとした出来事があった。

「ジーノ、今日のはどういうつもりだ。」
「なんだい?コッシー。そんな怖い顔して。」
「ふざけるな!」

 王子がからかう素振りを見せたので、室内にコシさんの怒声が響いた。その剣幕に、着替えをしていたその場にいる全員が一瞬肩を竦ませた。いや全員ではない。肝心の怒鳴られている当人である王子はビクともしないでシレッとした顔をしていた。何一つ堪えることなく、小馬鹿にするような薄ら笑いを浮かべたままだった。

 コシさんが言いたいのはさっきの試合のことだろう。夏木さんが怪我をして交代になった後、彼の為にも勝ち点3を絶対とろうと団結する最中、王子だけが怠慢でヤル気のないプレイを繰り返していた。コシさんは試合中何度も何度も王子に怒鳴っていたし、王子は徹頭徹尾無視をし続けている感じだった。状況に振り回されないメンタルはさすがとも言えるけれど、それでも確かに今日の態度は俺から見ても褒められたものではないと感じていた。普通の感覚なら懇意にしている選手があんな不本意な形で負傷退場すれば、意識せずともいつも以上に勝ち欲に燃えてしまうものなのではないだろうか。

「フフ…別にふざけてるつもりは…」
「笑うな!充分ふざけてるだろ!」
「…冷静になりなよ、話はあとでちゃんと聞くから。今はやめておいた方がいい、必要以上にチームが委縮する。」

 ため息を付きながら物凄い上から目線で窘めはじめた王子にコシさんは思い切り苦虫を噛み潰すような顔を返した。だけど、王子の助言に一理あると考えたのか再び自分のロッカーで着替え始めていたので、一応その場は収まった。

 室内には夏木さんを心配する声やこの先の不安の声が部屋の中でチラホラ流れている。ムードを変えるためかいつも以上にテンションを上げて笑おうとしている人もいる。ロッカールームのこの重たい空気は体感したものでないとおそらくわからない。何とも言えない空気の中、俺の帰り支度は遅々として一向に進んでいなかった。でもそんなのは俺くらいで、周りを見渡すとみんなすでに帰り始めていて人影がまばらになっていた。

 そんな中で王子はさっさと支度を済ませみんなに紛れて帰ろうとしていたので、コシさんは彼を睨み付け二の腕をきつく掴んでこう言った。

「おい、お前は残れよ。」
「…痛ッ」
「後にしろって言ったのはお前の方だろ?」
「…そうだっけ?」

 掴まれた腕を反対の手でやんわりと払いのけ、やれやれ捕まってしまったとでも言いたげな表情でそう答えていた。

「一体どういうつもりなのか俺に説明しろ。最近のお前の態度はあまりにも…」
「…仕方ないなぁ…じゃあ、聞いて?コッシー。」

 急に神妙な顔をして王子は呟く。

「みんなには言ってなかったけど。ボクね?不治の病なんだ。この話はあんまり他言出来ない内容で…」
「!」

 コシさんの顔色がスッと変わったのが俺でもわかった。勿論その意味深な台詞はまだ少しだけ部屋に残っていたチームメイトを充分凍りつかせるものだった。案に人払いを乞うている王子の表情と不穏な空気にみんなが挨拶もそこそこに部屋を後にしていく。俺は支度が終わってなかったのでそのままトイレに行くふりをして部屋から出た。でも部屋を出て扉が閉まる瞬間、信じられない言葉を王子が口にしたので、怒りのあまりその場で立ち竦んでしまった。

「ねぇ、聞いたことある?“真面目にやれない症候群”。ハハハ、参っちゃうよね全く!」
「ジーノ!」
「ちょっと!胸倉掴むのやめてよ、服破けちゃうじゃないか。」
「いい加減にしろ!」
「それはこっちの台詞だよ、コッシー。破れなくてもすでにシワになってるよ?」
「お前はこのチームの10番なんだぞ!?今、どういう状況なのかわかってるのか!?」
「だって仕方ないだろ?ハハハ!真面目にやろうとすると王子の魔法が解けてしまうんだから!」

 その瞬間、室内から大きな物音がした。悪びれもせずに戯言を繰り返している王子をコシさんが突き飛ばしたようだった。王子は人を躱すのがとてもうまいのに、さすがに掴まれたままの状態では無理だったのだろう。ロッカーにぶつかって倒れたような感じのあまりに激しい音だったので、俺は心配のあまり我に返った。

「ッ!」
「何が不満なんだ!」
「……」
「お前がそんなことでは!俺が独りだけで頑張って!一体ッ…!」
「……」
「一体、俺に何が出来るって…」

 コシさんの声が小さくなる。彼が泣き言のようなものを言うところを初めて聞いた。でもそう、俺は外からも長い間このチームを見てきたから何となく知っていた。このチームはあきらかにコシさんのチームだけれど、そのコシさんを一番支えているのが王子という存在で。何気ない態度で行われる王子の気遣いは間違いなくコシさんの負担を軽くするものだ。今日の試合は多分今季のターニングポイントになる一戦だったはず。なのに、こんな大事な時に一番頼りにしたい男が、あんなにやる気のない素振りを見せていては確かに頭が痛くなるのも当たり前だろう。

 長い沈黙が訪れた。俺はどうしていいのかわからなくて、トイレに行くのにその場を離れることも知らん顔して部屋に戻ることも出来ないでいた。そしてその長い沈黙を破って最初に聞こえてきたのが、さっきまでとは180度態度が違う王子の優しいトーンのこんな言葉だった。

「ごめんね…、大人げなかった。」

    *  *  *

 謝罪の後に続いた王子の言葉には、まるで相手を抱き留めるかのような労わりの力があった。

「ねぇ、コッシー。ボク達、冷静さが必要だ。感情的になることと情熱的になることとは似て非なるもの。大丈夫、このチームは。今の時点でそんなに不安になりすぎることはない。自信を持って前を向こう。いつもキミはそうやってどんな辛い時もちゃんと乗り越えてきた。そうだろう?」
「……」
「いつもキミが頑張っていること、みんなよく知ってる。それに下を向きたくても向けない辛さを常に抱え続けていることはボクが全部知ってる。わかっているよ?ボクには。キミのすべて。」
「…なら、なんで…。」
「ボクも人の子ってことさ。時には動揺することだってある…。いつでも完璧ってわけには…、ね?」
「……」
「でも…そうだね。やっぱりボクが悪かったんだろう。こんな時にキミに変な甘え方をしてしまった。本当にゴメンね?コッシー。」

 ゾワゾワと足元からなにかが駆け上がってくるのがわかった。俺は今、本当は安堵するべきで。殴り合いの喧嘩にならずにチームが団結していく状態に喜ぶべきで。なのに、このどうしようもない苦々しい気持ち。醜い悪感情。これは紛れもなく独占欲であり嫉妬だ。王子はほんの一時期俺に弱さを見せていかのようだったのに、飼い主になってからは一切それを見せなくなっていた。今の部屋の中にいる二人の、信頼し合いお互いに支え合っているその姿に思うこの気持ちは完全にヤキモチだ。俺はどうしようもない男だ。途中から二人の話を聞くどころではない心境になってしまった。
 
 どれくらい時間が経っただろう、突然ロッカールームの扉が開いて、俺は飛び上るほどにびっくりした。

「!」

 出てきたのは車のキーを片手に持った王子だった。俺達の目線は合わさったまま、王子の背後でゆっくりと扉が閉まっていく。あまりにも気まずくてまるでスローモーションのように思えた動きが終わる頃、俺たち二人以外誰もいない静かな廊下にカチャリという音が鳴り響いた。

 すっかり固まってしまっている俺に対して彼は声を潜めるようにして囁きかける。

「…キミ、そんなところでなにしてたの?」
「いや…トイレに行って、なんか入れなくなっちゃって…。」
「そう?」
「……」

 次の言葉が出てこない俺をじっと見つめる王子の目。まるで値踏みをするような鋭い目線。俺は竦んでまるで動けない。いたたまれない時間は物凄く長く感じられた。そんな中、王子はふっとこんなことを言った。まるで悪魔のような微笑を浮かべて。

「駄目じゃないか、ボクが他人に砂糖菓子をあげているところを覗いては…。これは内緒だよ?」

 魔物のように危険で魅惑的なその姿に、俺は全身総毛だった。なんて表情。

 そんな俺などお構いなしに彼はその後いきなりチャーミングでのん気な王子に戻って、じゃ、お先に、と言って立ち去っていった。俺はそれを茫然と見送った。

 あの微笑。俺は激しく動揺した。彼の怠慢なプレイが彼の言うとおり動揺の為だったのか、それとも本当に怠慢なせいだったのか、さっぱりわからなくなってしまった。俺は、コシさんは、今本当に彼が人の子であったところを見てしまったのだろうか。それとも、彼の魔性に籠絡させられ、甘い砂糖菓子に酔わされてすっかり骨抜きになってしまっているんだろうか。

 この短い間に見せた王子の様々な表情。あまりの不真面目さ、あまりの優しさ、あまりの悲しさ、あまりの毒々しさ。全身を覆う俺の鳥肌は、一向に収まる気配がなかった。