飼い犬と飼い主 6
ジーノご乱心アワワで色々踏み外して幸せ飼い犬生活がぶっ壊れます。やっとこR-18 な時期に入りました。(ほのぼのエロなしから一転、バトル展開!というよりウツ展開?) 5と6で落差激しいです。王子、赤崎、黒田、夏木一家、村越、モブ女で、ジノ→←ザキ、ナツ+ジノ、ジノ+コシなどなど。
生餌
食事の帰り、実家に取りに行くものがある俺のために最寄駅まで送ってくれる話になっていた。なのに、王子はなにも言わずに勝手に自分の家に車を進めた。なんとなく無言で彼を見ていると、運転席からなんか文句ある?とでも言わんばかりの威圧的な視線を王子は俺に送った。
* * *
仕方がないのでそのまま彼の自宅まで。家に着くと俺がいるなんて忘れたかのように王子は無言でスタスタとウォーキングクローゼットに入っていく。やれやれと思いながらテレビを点けてカウチで待つ。録画の試合の前半も終わるくらい長い時間待っていても、待ち人はちっとも戻ってこなかった。
後半が始まった頃、足音が聞こえたので振り向いたらバスローブ姿の彼がいた。どうやらシャワーを浴びていたらしい。俺をここまで連れてきておきながら、送っていく気はさらさらないようだ。なんて自由な人なんだこの人は。
不満げに彼を姿を眺めていると、どうしたんだろうぼんやりとしていて本当に俺を連れてきたこと、忘れているみたいだった。中途半端なところで立ち止まってる。目線はテレビの方向を向いているのに、視線が通り過ぎてどこか遠くを眺めているかのよう。今日のこの人はなんか変だ。見舞いにつき合わされ、食事につき合わされ、用事があるのに勝手にこうして自宅まで連れてこられて。挙句に存在すら忘れ去られて、俺の今日の一日の無意味さに、思わず大きくため息を付く。
「あれ?ザッキー?」
ため息で今更俺に気が付いたのか?王子がツカツカとカウチの背もたれの側に歩いてくる。本当にこの人は一体なんなんだ。イラッとした。
「あれ?じゃないッスよ。ったくどうしたっていうんですか?まだ電車あるし、俺、もう帰っても?」
「…あぁ…どうって…なにが?帰るの?」
「なにがって…あんたさぁ。勝手に連れてこられたけど特に俺に用事があるわけでもなかったんでショ?不機嫌だったりボーっとしてたり。疲れ、溜まってんじゃないッスか?風呂も入ったことだしさっさと寝た方がいいッスよ。」
「……」
小首をかしげてふっと目を伏せるように細めて数秒固まっていた。視線が横に流れているけれど、その先には特段なんにもない。これは考え込んでいるっていうことなんだろうか。なんか変な違和感のある、みたことのない王子の顔。
「王子?」
「あぁ、用事ね?…ある、ある。用事。忘れてただけだよ、ごめんね?ザッキー」
今日は本当に話が噛み合わない。帰るからもう寝ろと俺は言ったのに。
王子はいつも俺の心を読み取ってるかのように先回りするので常に話が弾む。それは本当に面白い話であっても、ちょっとした口論でさえそんな感じで。まるでフリージャズのセッションのように言葉を交わしていても交わしていない沈黙のインターバルがあっても、すべてが絶妙なタイミングで。そう、いつも一緒にいると本当に心地よい感覚になるのに。今日の王子はなんだかすっかり調律の狂ってしまったピアノ。なんて不快な不協和音。
「…あのねぇ。そういうの別にいらないッスから。用事忘れてたって嘘でしょ?連れてきたの忘れてたくせに。今考えて思いついたとかの間違いじゃ…」
「いやだなぁ、違う違う…えーっと、ボクね?お腹がペコペコだから、今日は…」
「ならさっき飯ちゃんと食えばよかったじゃないッスか。まさか俺に今から飯作れって?」
「ちゃんと聞いてよ、ザッキー。お腹減ったから今日はキミと遊んであげようかと思ってたんだよ。それ、うっかり忘れてたみたい。」
「なんスか?腹減ってるから遊ぶとか意味わかん…」
突然王子が両手で俺の耳元の髪を優しくふんわりと掻き上げたので俺は驚いた。とっても嬉しそうな極上の笑顔を浮かべている。まるで散歩に連れて行くよと言う時の飼い主のような飼い犬を甘やかす笑顔だった。そしてその行動は散歩用の鎖を首輪につけるかのように、あまりにも滑らかで手慣れた仕草だった。この懐かしいとも思える王子の手の感触。俺はもう何か月も“お手”遊びの時くらいにしか彼とは触れあっていなかった。王子が避けていたからだ。なのにこんなに突然、当たり前のようにあの時と同じように。
そう、このカウチで耳マッサージをし合ったのはもう1年も前のこと。あの時と同じような王子の感触、そしてその体温。でも、とてもあの時と今の王子が同一人物とは思えなかった。あの時は、ごめんね、触らせてと両手を広げながら俺を見上げた王子はまるで哀願するかのような切ない姿だった。なのに今、ここにいる男は目の前でこんなにも優しい笑顔をしていながらも主として傲慢に犬を見下していた。男は意味深な顔をして囁く。
「だからね?かまってあげるからキミもシャワー行っといで?」
「…ッ?!シャワー?どういう…」
互いにシャワーを浴びる必要のある遊び?そして、王子のこの意味ありげな顔。からかうかのような彼の指先が耳元を這う。俺はこんなことでゾクゾクしてしまうのが嫌で、思わず王子の手を振り払おうと体を反らす。するとすかさず彼の手が両側から俺の頭をホールドした。
「えー?わかんないふりしちゃって。ほら、いっつもそうやって指咥えてお預けさせられてるのに今更誤魔化す必要ないじゃない?今日はボクのほうから餌あげるって言ってるんだからさ、遠慮なんて別に…ね?ここ最近お利口にしてたキミへのご褒美だよ?フフフ、嬉しいでしょ?」
カウチの背もたれの後ろにいる王子がやんわりとその場でしゃがみこむ。残酷な笑みを浮かべながら少しずつ顔を寄せてくる。長時間彼の顔を見ていられない俺は顔を押さえつけられているので目を逸らすことが出来ない。だからそのかわりにまぶしいものをみるかのように目を細めた。でも完全に目を閉じることは出来なかった。肉食獣のような魅惑的な彼の瞳に魅入られてしまったからだ。そうこうするうちに二人の顔の距離はありえないくらいに近づいていた。
「ボクがいつもどうやって他人とアレをしてるのか、ずっと知りたかったでしょ?きっとキミが彼女としてたセックスとはまるで違うと思うよ?クスクス」
「なんの話してるんだか、俺にはさっぱり…」
「フフフ、大丈夫だよ警戒しないでいいってば。ボクどんな子相手でも寝れる雑食だって前に言わなかった?性欲なんて理性で制御し切れるものじゃない。ボクはその辺の感覚はとても柔軟だから、恥ずかしがって隠したり気にしすぎる必要なんて全然ないんだよ。」
さらりと言い放つ王子の言葉に、心臓が跳ねはじめた。猫科の肉食獣が獲物を狙う時のように全身の気配を消して、ひっそりと近づいてくるような姿。あんなに王子自身が厳重に線を引いて距離を置いていたくせに、突然勝手にズカズカと踏み込んできて。これでは距離が近すぎていつ一気に首元を食いちぎられるかもわからない。
「ねぇ、ところでキミさぁ。今まで何回くらいボクで抜いたの?」
「!」
「してるんでしょう?いつも。ねぇ、どっちの想像しながら弄ってるの?やっぱりやるほう?ね、妄想の中でボクのを撫でまわしてたりしてるの?それともキミのを咥えさせちゃったりさせてるのかなぁ?聞かせてよザッキー。後ろ暗くて気持ちよくってすごく感じちゃう?クスクス」
「や…やめろよ!」
「やめろ?偉そうに…。勝手に妄想の中でこのボクを汚すだけ汚しておいてよく言うね。まさかバレてないとでも思っていたのかい?馬鹿な犬。」
「黙れよ…いい加減にし」
「今日は親切に本物のボクがどんなだかをキミに教えてあげるって言ってるんだよ?いいのかい?次はないよ?犬が飼い主の命令に背くようなマネするんだったら、もうキミはボクの犬じゃない。」
王子はそう言って軽く俺の頭を突き飛ばすかのようにして両手を離した。
「ボクが笑ってるからって、なんかキミ勘違いしてない?犬の首は縦に振るためだけにあるんだよ。まだ犬をやりたいならさっさとするんだ。もう一度ボクに言わせるつもり?ほら早く。行け!」
王子が犬をしつけるように指示語を飛ばす。そして凛と立ち上がってそのままキッチンに向かった。冷蔵庫から冷水を取り出してコップに注いでいる。目が合う俺に、顎でついっとシャワーに行くのを促す。なんて無慈悲で尊大不遜な目。これほどまでに威圧的な態度の王子、初めて見る。こんなの、俺の知ってる王子じゃない。彼の王子チックな日頃の高慢な態度はただのパフォーマンスのはずで。人間らしさを装う彼独特の演出のはずで。本当の彼は包み込むような優しい笑顔を持った少し寂しげにも見える繊細な人で。ちょっと人間離れしてるくらいに綺麗な人で。
でも、今の王子もとても綺麗。物凄く残虐で、それが本当におそろしいほどに綺麗。
見慣れない王子にじっと見つめられているうちに、俺は見惚れてなにがなんだかわけがわからなくなってきた。そして気が付くと勝手に体がシャワールームに向かっていた。この時の俺は王子の毒気にすっかりあてられてしまって、犬というよりも自分の意思を持たない人形のようだった。心を置いてけぼりにして、体が勝手に動いていた。そう、俺の心は王子の残酷で魅惑的なあの目線に虜になって、瞬殺されてしまったかのようだった。
そうか、わかった。きっと彼の牙はもうとっくの昔に俺の急所を食い破ってしまっていたんだ。いつから?最初から。最初って?ああ、そうだ、本当にずっと昔、俺と王子がここで出会う前から。
何考えてる?頭の中がめちゃくちゃだ。俺はめちゃくちゃになってしまったみたいだ、どうしよう、王子。その時々で印象があまりにも違う。沢山居過ぎて、いつもの王子が今どこにいるのかわからない。でも俺は見るもの見るもの、全部好きになってしまう。なにもかもすべて好きなんだ王子。俺、本当にこれでいいの?これは駄目な遊びだって俺に何度も何度も釘を刺してたじゃないか、なのにどうして?ねぇ、王子。
* * *
混乱する頭で茫然としながらシャワーを浴びる。するといきなりドアが開いた。驚いて目を向けるとそこには冷徹な獣が立っていた。すでに瀕死の獲物を戯れにからかうかのように、面白おかしく笑っている。なんて冷たい笑顔。本当に綺麗だ、王子。
「中の洗い方を教えるから。ちゃんと奥まで丁寧に洗浄するんだよ?」
「ッ!」
「なに?直腸の洗浄なんて最低限のしつけとマナーだよ。いじめられた子供みたいに情けない顔しないでくれない?お利口できたら、出来るだけ優しくかわいがってあげるからさ?」
「マジかよ…」
「フッ…今更何を…。本当にキミは色々とわかってないね。相手はこのボクなんだよ?軽く触りあうようなガキの遊びレベルで済ませるわけないだろ?」
王子が鼻で笑っている。直腸の洗浄だなんて、王子の発言があまりにも生々しくてゾッとする。なのに深く考えたくないせいか全くリアリティがなかった。彼からこぼれた言葉の意味で、今からの行為の想像をしようとした。でも頭に膜が張ったみたいになんの実感もわかなかった。今こうしている時間すらもまるで他人事みたいに感じた。王子はどこまで本気で言っている?触りっこなんて甘いもんじゃないって言ってる。でも、ありえないだろ?この俺が今からそんな。言いようもない拒絶心が湧いてくる。俺はそんなアブノーマルな体験をするなんて、今まで一度だって想像したことがない。王子を使って抜いたことはあっても、実際に挿入を伴うような形で寝るなんてことは、ましてやその準備にこんなところ洗わされるなんてことは考えたこともない。
頭が真っ白のままで何も言葉を発することが出来ない俺は、それでも黙って彼の言葉に頷いた。まるでシュートのコツを教えるかのように王子は淡々と説明し、俺は奴隷のごとく指示に従った。洗うのに指を入れると吐き気がして、ドンドン体の震えが全身に広がっていく。彼に操られている感じで、自分でちっとも思うように体を動かすことが出来ない。早く服を着てここから逃げ出すとか、そんなこともちゃんと考えようにも考えられないくらいテンパっていた。
屈辱すら感じることを忘れてしまった惨めな俺。その姿を彼にじっと舐めるように見られ続けているこの羞恥。何か声がすると思ったら、知らぬうちに口から洩れてる俺の嗚咽だった。音が浴室に反響して全方位から俺を責めてる。逃げ出せないのではなく、逃げ出さずにワクワクしながら洗っているんだろう?とそんな風に責めている。その責め苦に、自分の中のなにもかもが崩れていく気がした。
「うん、もうそれくらいでいいかな。」
王子の指示で浴室を出る。バスタオルを渡されたので、震える手でそれを受け取る。手が目に見える程ガタガタ震え続けている。強張って思うように動かない全身。それを感じて今自分がどれだけ恐怖しているのかを把握する。服を着ようと脱衣籠を見ると王子が澄ました顔をして言った。
「せっかく洗ったのに汚れた服をまた着ようっていうのかい?ハハハ、そんなの全部洗濯機に入れて回してしまったよ。馬鹿な犬は全裸で充分。髪も乾かさないでいいからそのままボクについてくるんだ。わかったね?」
俺がおずおずとバスタオルを体に巻こうとしたら、王子はさらりと取り上げてポンとその辺に投げつけた。そして彼は再びフッと鼻で笑ってから寝室に向かった。
