お花結び

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飼い犬と飼い主 7

ザッキーがジーノの家に泊まった朝の話。夏木負傷の9月以降2か月くらいこの調子で暮らしますが、お前ら真面目にサッカーしる!w ジーノはザッキーと出会って最初の日から終わりを見ていますが風呂敷を畳もうとする度に何度も何度も自らぶち壊してしまいます。この時期になると発言と行動の乖離が益々進んで、ほとんどコントロール出来ていません。そして当事者のザッキーもまた情報が少なすぎてジーノの状況を全く理解出来ません。

クラック1

 その夜、かわいい大切な飼い犬をおもちゃに変えたジーノはリビングでぼんやり暗い空を見上げていた。新月だったのでそこに月があるわけもなかったのに、いつものように彼の目はずっと月を探していた。

「ボク…一体…何した…?」

 ジーノはポツンと呟いた。

 男は今、起きていながら深い深い谷底の中にいる真っ暗な夢を見ていた。この夢が始まったのはずっとずっと昔のこと。でも、こんな風に時々抜け出せなくなるほどに嵌り込んでしまうようになったのは夏木の怪我の瞬間を見てしまった直後から。昔よくここにこんな感じで来た覚えがあるな、とジーノは漠然と感じていた。この光のない暗い世界は、懐かしくも二度と来たくなかった場所。漆黒の闇、足元には一面の赤い水。不調に陥るとジーノは粉々になってしまって、破片があちこちに飛び散ってしまう。今はその破片の半分くらいがこの谷底に落っこちてしまっていた。もう半分は現実世界でぼんやりと空を見上げて、月を探していた。

   なにが起きたの?ボク、何した?

 誰に問うわけでもなく、ぼんやりと思考がさまよう。男はさっき見た夢を思い出す。すぐそこの部屋で、飼い犬を殺して凌辱する夢。現実味が全くないのに、体にはどうしようもなくあの時の感触が残っている。ドアを開けば確認できる。でも、今はくるぶしまで浸かる液体が足に絡むのでそれが出来ない。だから夢を、その詳細を思い出そうとする。
 見えてきた光景は真っ暗で淫靡な世界。自分は自分を眺めていた。自分はベッドの中で笑いながら飼い犬を貪っている。隣にはベッドに向かってやめろやめろと叫び続けている自分。それを見ておかしくておかしくて、涙が出るほどに笑っている自分。よくみるともっと沢山いる。思い出す、圧倒的な快感と、壮絶な苦痛。どれが本当の自分なのかもわからない、粉々の夢。

    *  *  *

 この夢はとても悪い夢なので、忘れてしまおう、と考える。そして、気持ちを切り替えて他のことを思い出そうとする。

   そうだ、忘れてた、この谷底にはあの人がいるはず、会いに行こう
   ボクの大好きで大切な…

 そこまで考えた途端、現実の中にいる月を探して突っ立っていたジーノが、膝を折るようにその場にへたり込んだ。まるで地面に穴があいて、落っこちてしまったような感覚だったけれど、それは単なる錯覚だった。

   駄目だ、これは考えてはいけない事だったのに、
   どうしてまたやってしまったんだボクは

 後悔してももう遅くて、暗闇には悲鳴が鳴り響く。耳を塞ぎ体を竦めその夢から抜け出そうと必死でもがく。これはジーノの昔封印した夢。いや、夢ではなくて記憶?これは大切だったものが砕け散った鋭利な破片の数々。大切な一人が見つかればあとは簡単。二人目がすぐ横に見つかる。ここまではこれまでと同じ。でも、あの試合の直後からこの谷底の夢には新しく夏木がやってきていた。とっても笑顔が印象的な選手なのに、ここにいるのは情けなくて悲しい顔の男。足を抱え、申し訳なさそうにジーノを見ている。傷口を覆う包帯は病院で見た本物と同じもの。溢れ出る血は嘘だけど、ここの場所に来てしまったジーノにはもうその区別がつかない。だってもうすっかり夢と記憶が混ざり始めていたから。

 怖くて、誰かこの人たちを助けて、血が止まらないんだ、と大声で叫ぶけれど、いつも誰も来ないことは叫ぶ前から知っている。血がとまらないのも知っている。叫び声とうめき声がとまらないのも知っている。全部繰り返しみている同じ夢だからなにもかもどうにもならないことを知っている。この夢が頭の片隅で呼吸をしている時も、こうやって全身どっぷりと入り込んで体感している時もいつも同じ。繰り返し繰り返し見せられる絶望。

 ジーノの助けを呼ぶ声が反響しているのはいつもいつも夢の中だけ。膝を折ってへたり込むジーノの本体からは一言の声も漏れてはいなかった。実際には耳を塞いでもいなければ、体を竦ませてもおらず、ただ、なにもかも抜け落ちてしまったかのような姿で空を見上げているばかり。現実に残されたジーノの実体のほうは今、空っぽになってまるで天を仰いで祈っているかのような姿勢になっていた。

 いつもの夢と少し違うのがどこかで話し声が聞こえること。ここには血まみれな男達と自分しかいないはずなのに、不思議だと耳をそばだてる。とても心細い場所なので、救いを求めて音を拾う。でも、聞いてみればどれもこれも自分自身の声。粉々の破片のカケラが散らばって、あちこちで喧嘩をしている声だった。みんな支離滅裂にしゃべっていて、中身が出鱈目だ。この声は最初耳をそばだてないと聞こえないほど小さいものだったはずなのに、今はなんだかとてもうるさい。頭が割れるように痛かった。

     ねぇ、ボクはなんてことを!

   ハ、ハ、ハ、飼い犬をなぐさみものに!これでいいんだ
   どっちにせよ、終わり!早い方が気楽だ!

        (ねぇ、そんなことしてないで聞いてよ!)

     どうせ終わりだから?そんな話じゃないだろう?
     あの子は面白半分に遊びを覚えさせていい子なんかじゃ

   呆れるねぇ、だからいいんじゃないか
   不道徳な先輩からは、かわいい飼い犬は猛ダッシュで逃げて行く
   全部ボクのプラン通り!そうだろ?ジーノ?

     そういう意味じゃない!違う!だって、あの子はボクの大切な

        (ほら、あの人達の足から…こんなに血が、聞いてる?)

   もう諦めなきゃいけない時期だよ?
   所詮ボクはその程度の人間だ自分本位で身勝手で!
   どう取り繕ってもウソとかボロしかないじゃないか、ハハハ

      だからってこんな!

   なーんて気持ちよかったんだろう!ほら、素直になって思い出してごらんよ!
   あぁ…、ほら、なんて…、ああ、気持ちいいねぇ、彼のあの…、ん…たまんない…

         (抑えても止まらないんだ、ボクなんにもできない)

      ふざけるな!やめてよ!悪趣味だ!

   おキレイに、いい先輩のまま憧れの存在のままお別れしようだなんて
   ちゃんちゃらおかしい、ハ、ハ、ハ、滑稽すぎてボクは笑いが止まらない
   飼い犬!美味しくって美味しくって!
   あんなに食べてもむさぼりたりない、ハ、ハ、ハ

        (無理だよ、ボクには、ねぇ、助けて、助けて…)

     おかしくなんてない!嫌だった、こんなこと!ボクは苦しかったんだ!
     彼はおもちゃじゃない!

   どんなおもちゃよりも、あの子の体はホント最高!

     うるさいうるさい!
     こんなことするために近付いたんじゃないんだ!違う!

         (ずっとここに一人でいたら、おかしくなっちゃう)
         (…誰もいないの?)

   そのためだろ?しかもカーサに引き入れて!なんてスリリング!
   大事な大事なボクの巣を、飼い犬を使ってメチャクチャに、
   ハ、ハ、ハ、なんて馬鹿げた遊び!
   あぁ、ゾクゾクする、なんて出鱈目
   昨日の夜の…体がほらまたこんなに熱く…
   思い出すだけで、もう…

     本当に出鱈目だ!ボクはこれからどこに居たらいい?
     カーサが壊れてしまった、
     ボクの大切な居場所が、
     居場所がなくなっちゃった!

   ボクにふさわしい居場所なんて、最初からどこにも
   ほら、見てごらん、
   キミの手の中は常に空っぽ、
   足元には地面なんてない
   全部勘違いなんだから!

        (もう、いやだ…ほら、こんなに血が)

     違う、そんなの生きていけないよ!
     二つのバランスの中で
     ルールの中で守られていれば
     ボクは悪夢に捕まらなくて済むんだ!
     それをこんな、こんなことって!
     倒れてしまうよ、落っこちていく!

   そうやって空を掴んで、もがきながら、
   どこまでもグルグルと下に落ちていくんだよ
   しかもかかわる人間すべてに不幸を巻き散らかしてね

     いやだ、もうこんな!

        (ああ、手遅れだ…助からない)

   ホント、キミは醜い男だよ全く
   捕まらないだって?何言ってるんだ
   ほら、みてごらん、自分自身が悪夢そのものなくせに
   切りはなせやしないよ?ボク自身が絶望そのものだ!

        (暗い…寂しいよ、誰か来て…)
        (寒い、全身真っ赤にずぶぬれで…)

 ジーノは一睡もできないままに、こうしてずっと目が覚めない自責の悪夢のような時間を過ごしていた。そうやって男がぼんやりと空を見上げている頃。この家にいるもう一人の男、大切なジーノの後輩は、ベッドに放り出されたまま夢のない眠りについていた。かわいい愛犬からおもちゃに変えられてしまったことにも気付かずに、ただコンコンと深い眠りの世界にいた。