お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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飼い犬と飼い主 7

ザッキーがジーノの家に泊まった朝の話。夏木負傷の9月以降2か月くらいこの調子で暮らしますが、お前ら真面目にサッカーしる!w ジーノはザッキーと出会って最初の日から終わりを見ていますが風呂敷を畳もうとする度に何度も何度も自らぶち壊してしまいます。この時期になると発言と行動の乖離が益々進んで、ほとんどコントロール出来ていません。そして当事者のザッキーもまた情報が少なすぎてジーノの状況を全く理解出来ません。

クラック3

 サボテンの植え替えを一通り済ませて、二人はジーノの家で特段何をするわけでもなくのんびりと一日過ごした。まるで昨日のことなどなかったかのように穏やかな飼い主と飼い犬の時間。夕方になって赤崎は実家に用事があるからと、笑って帰っていった。

 一人残されたジーノは植え替えと接ぎ替えが済んだサボテン達をぼんやりと幸せそうに眺めていた。

    *  *  *

 しばらくして、ふいに寝室のあの匂いとぐったりと体を横たえた赤崎の姿を思い出す。次にまさにその情景と同じように、ピッチでぐったりと体を横たえた赤崎の姿を見下ろして笑う自分を妄想する。今日突然新しくジーノに増えた4つ目の悪夢だった。崖から落ちたこの大切な飼い犬は、やっぱり大切なみんなと同じように足を抱えて動かなくなっていた。傍には腐敗したサボテンがポツン、ポツン、と血に浮かんでいた。沢山の棘が4人とジーノを攻め立てるようにチクチクと肌を刺す。そうして益々谷底の血を増やしていくので、血でずぶ濡れのジーノは戦慄を覚える。

 冷静になろうと必死になっても、心がざわついてちっとも収まらないことに不安を感じ、そこであらためてカーサが壊れてしまったことを実感する。もう長い間常に悪夢が寄り添っていたジーノが、唯一ドアを閉めて悪夢から完全に抜け出せる場所だったはずなのに。情報を遮断し、思考を止め、回復のためだけに存在していたこの場所が、まるでそんな魔法など最初からなかったかのようにすっかり無力になっていた。悪夢を追い出す力がないカーサはもうカーサではなかった。彼は突然の不安と恐怖と孤独にゾッとして、慌てて身支度をして部屋を飛び出した。

   早くおもちゃに会わなくちゃ
   早くしないとまたボクは捕まってしまう
   ボクはやっぱり少々おかしい
   このままだとまたあの時のように現実と夢が混ざって出られなくなる

   ともかく急がなければ、落ち着かなければ

 震える指先で携帯を取りだし、一目散でヴィラに向かった。このようにしてジーノの二つのバランスが、その必要不可欠な均衡が失われることとなってしまったのだった。

    *  *  *

 ここ最近のジーノは繰り返し繰り返し自分自身に見せられた終わりのビジョンから、飼い犬との別れの日のためのプランを立てていた。それは、飼い主を夏木に引継ぎ、自身はキレイな飼い犬の夢見るETUの貴公子のままで消えるように退団すること。沢山のプランの中で一番現実的で、一番メリットが大きく、そして一番勝率の高い確実なプランのはずだった。でも、失敗した。だから、夏木の負傷を見た瞬間から例の悪癖をスタートさせてしまった。失敗したときや思うようにならなかったときに、攻撃を自分に向け、みずからを責める、あの自罰的な逃避癖。ジーノは無自覚のままに、こうして再び悪夢に飛び込んでいった。

 もともと弱りかけていたジーノは自ら心の裂け目を押し広げ、自分が関わると人が不幸になるという、まるで疫病神であるかのような妄想を強めていく。これが本格的に始まると、ジーノは妄想と現実と記憶がごちゃ混ぜになっていく。広がるビジョンが起ることなのか、起ったことなのか、起らない事なのかすべてがあやふやにわからなくなっていってしまう。

 そうして判断の付かないままに意識なく飼い犬に手をかけた。これもまたジーノにとっては夢うつつの混濁の中で起った出来事だった。やりたいことなのか、やりたくないことなのか、やってしまったことなのかも何もわからず、体の行動と心の認識がずれたまま時間が過ぎていく。

 そして、あの時と同じ、起ったことを起らなかったことに戻す無謀なチャレンジが始まった。ヴィラから戻ればカーサが治っているなどと、馬鹿な妄想を繰り返す。死んだ飼い犬は生き返る、あの官能の夜はなかったことだと考えてみる。その反対に一緒に落ちていくことを飼い犬が願っているなどと都合のいい事も願ってしまう。考え付いた妄想は妄想ではなく、次々に現実や過去の記憶に変質する。実際に実現できた確定事項だと認識し、そして一つしかないはずの現実が多重化している事実に驚愕する。こんな無意識の記憶操作が、この先ジーノを追い詰めていくことになる。

 前回同じ状態に陥った時に傍にいた持田は今はもうおらず、再び配属がイタリアとなって向こうにいる父もまた10年を経てジーノは完全に完治したと信じて疑わなかった。主治医はイタリアにいて、もう何年も会ってなかった。もうどうにも止まらない崩壊の中でジーノは今、たった一人。彼の行動の意味を知るものは誰もおらず、もはや彼自身ですらその意味を理解することはできなかった。そんな中で、4つ目の悪夢に震えていた。起ったことなのか、これから起ることなのかもわからないままに震えていた。

    *  *  *

 ゆらゆらと常に揺れ続けていたジーノのバランスは一気に傾き、この先混乱に混乱を重ねていくことになる。病状がドンドン深まる中、自らも自覚のないままに、ジーノが完全に自分を見失ってしまうまであともう少し。自分で立てないヤジロベエが支柱から落下するまであと少し。