お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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飼い犬と飼い主 7

ザッキーがジーノの家に泊まった朝の話。夏木負傷の9月以降2か月くらいこの調子で暮らしますが、お前ら真面目にサッカーしる!w ジーノはザッキーと出会って最初の日から終わりを見ていますが風呂敷を畳もうとする度に何度も何度も自らぶち壊してしまいます。この時期になると発言と行動の乖離が益々進んで、ほとんどコントロール出来ていません。そして当事者のザッキーもまた情報が少なすぎてジーノの状況を全く理解出来ません。

犬の気持ち1

 「ザッキー…」

 練習中、王子が誰にも聞こえない様な小さい声で俺を呼ぶ。俺が気が付いて視線が合えば、なにも言わず黙って王子がすれ違う。そんな時俺は彼にどことなくそっと触れる。二人だけが理解し合う秘密の合図。最近の“お手”の遊びでは王子はもうそのセリフはおろか、手を差し伸べることすらしなくなっていた。そしてまた、以前は食事に行こうという意味を持っていたこの遊びが、今ではもうすっかり今日俺を食べたいという王子からの誘いの合図になっていた。理由が何であれ王子と過ごす時間が大切だった俺はどんな時でもそれを受け入れるようにしていた。勿論戸惑いはあったけれど。

 偶然を装ってツイっと行われる、本人達しか気が付かない手や腕や肩のほんのちょっとした接触。外にいる二人の触れ合いはたかがそんな程度だった。こうした瞬間的な触れ合いの中で、俺は毎回ゾクッとしたものを感じてしまう。なぜなら、すれ違いざまに少し笑みを湛えながらスッと流し目を寄越す王子が、その一瞬だけ夜に見せるあの艶やかな色気を孕んだ表情に変わるからだ。あの時の感覚が全身に再現されて毎回本当にたまらなかった。微笑の後は俺がYESと返事を寄越すことが当然だとでも言わんばかりの溢れる自信。そして言うことを聞いた飼い犬に対して、お利口だね、という飼い主の満足気な仕草。俺の名を呼んでから数十秒の合間に様々な表情を浮かべてスッともとの王子に戻っていく。あまりにも鮮やかな誰にもわからない二人だけの異世界。

    *  *  *

 二人にとっての最初の夜になったあの日。前触れもない突然の彼の行動。とても戸惑ってしまったけれど、それ以上に俺は麻薬のような王子の魅力にすっかり虜になった。こんな世界がこの世の中にあったのだろうかという衝撃。彼自身が口にしたように、確かに前に体験した彼女とのセックスとはあまりにも違う時間だった。

 俺はあの時間、理性も自由も何もかも彼にあっという間に取り上げられて、最後には彼と同じように体だけの獣になってしまった。何一つ自分で制御ができない状態になってしまって、俺はとても恐ろしかった。それでもあれもまた陶酔の世界と言ってよかった。
 セックスではあったけれどセックスではなかった気がする。彼のセックスは彼の時折やって見せる鋭いチャレンジングなサッカーのプレイを初めて見た時の気持ちにとてもよく似ていた。
 両方が男なのだから正しい意味での生殖行為とは確かに言えないものだったけれど。それでもあれはそういう単純なものに定義するにはあまりにもかけ離れた意味を沢山含んでいた。彼はいつもあんな風に人を抱くのか?彼の手にかかればみんなああなってしまうのか?

 本当に不思議なあの時間、何を得たのか失ったのか俺にはよくわからない。けれど、今回だけは絶対に彼になかったことにされたくなかった。あれだけ甘く獰猛だった彼は朝目が覚めるといつもの通りの王子に戻っていたので、やっぱり幻にされてしまうと不安で仕方がなくて。でも、そんなことはなかったのでほっとした。心地よい彼の会話のリズム。笑顔の中の寂しさが少し増えている様な気もしたけれど概ね暖かい表情。

 ただ、なかったことにされなかったのはよかったけれど、いつもの様子の王子が昨日のあの時間を思い起こさせる話をするのがなんとも。極当たり前の日常会話として口にしている姿は違和感たっぷりだった。

「ごめんね?我慢してるだろうけどきっと痛いよね?辛かったらボクが後始末をしてあげるよ?」

と普通に俺と一緒にシャワールームに入ってきそうな彼を見ていると恥ずかしすぎて。居心地が悪くてどうにもならなかった。そんな俺を見て王子は笑っていた。今更キミはそんな態度を?本当にザッキーって面白い、と言っていた。勿論きっぱりとお断りした。ありえねぇと言いながらわざとらしく、うへぇ~っ、という顔をして見せたら彼はまた笑っていた。

「着替えじゃなくてバスローブ置いとくんだったなぁ…ハハハ、ボクぼんやりしすぎてミスっちゃったよ。パンツ、履いちゃったよね?可哀そうにまた汚しちゃっただろうから新品の買い置き一枚あげる。」

と言って包装から取り出してもいないパンツを差し出す王子もとてもシュールで。それを受け取り歩く俺の後ろを王子は当たり前のようにちょこちょこついてくる。普通に脱衣所まで入って来るし追い出すのが大変だった。

    *  *  *

 あの日、俺はあの家から帰りたくなくてグズグズと夕方まで居座ってしまった。だって一度彼と離れしまって再び顔を合わせた時には、またなかったことにされるんじゃないかと不安だったから。彼にとってあれは一過性の気紛れな遊び感覚の可能性が高すぎた。だから遣り捨て気味に扱われたとしても不思議はないと思っていた。

 彼の最初の体調管理の遊びからキスまで半年、キスからセックスまで9か月開いている。常に相手に不自由のない王子。俺はあのたった一晩の彼の支配ですっかりおかしな体になってしまったけれど、彼からしてみればそんなことはお構いなしなのは当然のことなのだから。

 だから、ある日自動販売機の前で陰に隠れるように“お手”とも言わずに手を差し伸べた彼が

「ね、今日ボク、食事の後にまた食事をしてもいいかな?」

 とあの少し獰猛な視線をちらつかせた時には思わずその不意打ちの美しさにクラクラと眩暈がした。恐怖なのか歓喜なのか説明のつかないあの時間を俺達はまた過ごすことになるのだと感じた。彼次第で弄ばれる日々がこれからも時々繰り返されていくのだと理解した。

    *  *  *

 2回目以降の王子はとても紳士だった。最初に王子がシャワーを浴び、次どうぞと声を掛けてくる。あの日怒鳴るように俺の背中を押した彼はそんな無理強いをしなかった。カウチに座り俺が自分の意思でシャワーに行くまでいつまでも俺を放り出したまま雑誌を読み続ける。その姿は紳士というよりも寧ろあの日よりもしつけに厳しい飼い主と言えたかもしれない。そんなくだらないことで自分の労力を使わせるなといった風情にも似ていた。

 厳しくも優しい飼い主は2回目以降は全裸で移動などという彼の言うところの“下品な行為”という呆れる様な真似はさせなかった。普通にバスローブを置いてくれるようになった。彼とはデザインが少し違うので多分俺用に特別にあつらえてくれたものだ。

「やっぱりあれはさすがにやり過ぎだったよね?」

苦笑する彼はまるで別人のように上品で優美。でも、

「あんなこと、とっても怖かったでしょ?ゴメンね?」

というその申し訳なさそうに見える表情は彼の本質なのか偽善なのかもよくわからない。彼は見る時々によってまるで万華鏡のように表情と印象が変わる。わかることは俺がお利口にしている限り、彼はずっとこんな調子でいてくれるということだけだ。少しでも彼の意思に本気で逆らうそぶりをみせてしまえば。途端に彼に張られていた薄氷が壊れて、彼の中から残虐が溢れ出してしまう。

 俺は彼とのこういった時間を過ごす中で、実はもう何回もそういう痛い目にあう体験をしてしまっていた。