飼い犬と飼い主 8
飼い犬に溺れて混乱状態のジーノと強引なしつけの生活に翻弄されながらも徐々に気持ちがはっきりしていくザッキーのお話です。ザッキーいないと、このシリーズはもう大変です。でも、この時点ではザッキーはジーノの事情を全然知らないので力になれません。ただ、少しずつ夢の形でジーノの混沌に接触し始めます。まあそれには関係なく説明能力のないジーノは一人勝手に転落していくという鬼展開。6の「裏と表」で本音を諦めたジーノが「表と裏」で再び本音を口にしますが言い方が下手でどっちにせよ蹴散らされ。夜を求める度悲しみに溢れて益々渇いてしまうのは勿論ジーノ。
渇望と悲痛の積み重ね
「あぁ!王子!」
してもしても、またザッキーとしたくなる。呆けるような表情も、苦悶に満ちたような顔も、どれもこれも全部ボクのものだ。
* * *
こんな状態、駄目だと思う。
飼い犬と遊ぶようになってからはおもちゃとの時間が激減した。あの子を抱いているとボクはおかしくなっていく。でもあの子を抱いていないともっとおかしくなってしまう。手も足も動かないくらいに重たい気がするのに、ボクは彼と遊ぶのが大好きでいつもクタクタになるまで彼を抱く。一人の人間とこれほど執着して何回もベッドを共にするなんて初めてだ。
もうおもちゃを抱く気が失せて無理矢理義務的に行うようになって久しいのに、カーサを失ってしまったボクはいつまでたっても飽きることなく彼を求めてやまない。バランスがドンドン崩れていくのを感じる…。
「王子…もう…寝かせて…」
「ザッキー何言ってるの?フフフ、ボクたち今こうして寝てるじゃない。」
「そう…じゃなッ!あぁ…」
彼はあまり人肌を知らない体をしていて、勿論男の経験は皆無だっただろう。ボクはバイでも比較的男とは寝ないほうだ。それに寝る時は必ずそういう性嗜好のある人間か、自身が気付いていないだけでそういうケのあるタイプが相手だった。
ボクの飼い犬はそのケースに当てはまらない。彼は健全な家庭で健やかに育った完全なノーマルで、ボクを選手として尊敬している単なるかわいい後輩だ。それをボクが罠にかけて、彼のリスペクトの感情を意図的にすり替え続けている。こうやって彼の従順を利用して彼の中の男性特有の物理的な肉欲を煽り、美味しく貪り続けている。
彼はボクに言いなりのかわいい飼い犬だ。あんなに気丈で自律的な精神にあふれるタイプであるにもかかわらず、ボク自身でさえ忠実過ぎるのではないかと戸惑うほどに隷属している。女を抱きたい彼の性嗜好はいつまでも彼の中にあり、そんな彼をボクは支配し何度も完全に崩壊させて蹂躙する。本来彼の中にないはずの犯されたいという欲求を無理矢理作り出していって、ボクはそれを貪る。そしてさらに本来彼の中にないはずの男を犯したいという欲求を無理矢理引きずり出しておきながら、わざわざ踏みにじってボクは彼を犯し貪る。彼は毎回混乱する。本来の生粋のヘテロの性質が彼の心を締め上げてこの遊びを痛烈に否定する。いつまで経ってもこの行為に慣れることがない。そういった拒絶感が強ければ強いほど、ボクは面白おかしく強引な形でねじ伏せていくのだ。
もうあまりにも何回も繰り返される彼のこの調教パターンは…。残念なことにかねてからボクが強く熱望していた最高の嗜虐の形だ。そう、まさに理想的といっていい。完全に一寸の狂いもなくパターンに入り込んでしまっている。
ボクは圧倒的勝利ではなく、このロスタイム弾で勝利するような、もどかしいギリギリ感のある快楽が好きだ。無理に無理を重ねさせて限界まで葛藤を抱えながらも、結局最後には屈服して崩壊し快楽に溺れてしまう彼を見たくて見たくてどうしようもない。このゲームは必ずボクが勝つようにできているけれど、彼の強靭な理性とそれに伴う激しい屈辱感は勝敗がどちらに転ぶかわからないよとボクの心を大いにくすぐる。そう、彼の自意識がどれだけ素直にボクを受け入れようと思っていても、彼自身の無自覚な本質が毎回強烈な抵抗感を生み出し続けている。それがボクをいつもこの上もなくゾクゾクさせる。彼の苦しみ悶える姿がこれほどまでにボクの心を掴んで離さないだなんて。
この喜ばしい奇跡の時間。でも絶望的に不幸なのはその相手がボクの最愛の飼い犬であるということだ。ボクの中にはタブーはあまりないけれど、比較的健全な彼との関係の中に性欲を持ち込むのはやっぱり苦々しい行為だ。でもそのタブーがあんまりにも美味しくて、刺激的で特殊なスパイスのおかげで益々貪るのをやめられない。彼でなければ駄目だった。彼が男で生粋のヘテロであり、ボクの大切な犬でなければこの愉悦は成立しなかった。ああ、こんな倒錯的な快楽に嵌ってしまっては、ボクは本当にこの泥沼から抜け出せない。
「はぁ…王子…あ…頭がボーっとして…」
「ハハハ、もう立たない?でも気にしないでいいよ、ボク勝手に遊ぶから。」
「や…もぅ…弄らないで…手足…しびれ…」
「あんなに威勢よく喘いちゃうからそんな蚊の鳴くような声しか出せなくなるんだよ?負荷トレだと思って頑張って?クスクス」
「ん!…も、やめ…息が…」
彼はボクに恋愛的な感情を持っていると錯覚していて、この遊びをその愛情表現の一旦だと考えている。そう考えるように努力している。勿論それをさせているのはこのボクだ。
そもそもゲイ的嗜好のない人間におけるこの行為は結局のところは強姦まがいであり拷問そのもの。彼は幸せの錯覚と現実の不幸の狭間で人並み以上の快楽と苦痛を味わうことになる。ボクはこの子がかわいくて仕方がないのに、優しくしたいのに、刺激的なこの遊びの虜だ。混乱に喘ぐ彼は本当に悲しいほどにボクのすばらしい生贄だ。
彼の本質からくる行為への拒絶感は可哀想なくらい、見たこともないくらい強烈だ。いつまでも衰えることなく彼の中に純然と存在している。彼はどれだけ凌辱されても決して穢されず、まるで永遠の処女のようにずっと清らかで美しいままだ。ボクでなくともどんな男でも彼のこの本質についてはまるで宝石のように感じてしまうことだろう。どの時代でも聖女で娼婦なパートナーとのマリアージュは男の夢なのだから。この形式は男の本能の根源の部分を刺激する悪質な麻薬のような魅力だ。厳重な檻に閉じ込めて誰の目にも触れさせたくない、そんな邪悪極まりないサディズムを煽る宝物。絶対に男を受け入れることが出来ない彼がボクの口車に乗って自らの意思でその身を引き裂きながらボクだけを求め招き入れるだなんて。なにものにもかえ難い、彼の中にある恐るべき貞淑と信じられない淫蕩。
「嫌ならココにこなきゃいい。こんな目にあわされること、知ってるくせに。」
「あ…王子…つらい…おねが…」
「キスしよう?ザッキー、ね…キスだよ?」
「……」
ボクが彼をメチャクチャに扱うので、もう彼は人形のように身動きもとれない状態になっている。でも調教が完璧なのでキスを求めると口を半開きにさせながらわずかにそれに応じる仕草をする。
ねぇ、キミは今、何を思う?
* * *
こんな状態、やっぱり駄目だと思う。
なのに、彼を見るととまらない。彼と寝るのが大好きで、彼のことがとても憎い。ボクは彼の優しい飼い主でいたいのに、それを彼のせいで、ボクのせいで、今では全く維持することが出来なくなっている。自分のストレスと性欲を、かわいい飼い犬を使って発散させるなんて本当にやりたくない。彼がこの行為を幸せだと錯覚すればするほど、ボクはおかしくなっていくんだ。彼が無自覚のままに、ボクのこの手が彼を奈落に突き落していくから。
したくてしたくて、堪らない
つらくてつらくて、堪らない
キミが苦悶に喘ぎ過ぎて呼吸困難で失神しかけていても
かまわず乱暴に抱き続けるほどにとまらない
ザッキー、
ねぇ、もう勘弁してよ
約束はこの前、破られた
だから、ボクをもう解放して
ボクはボクを許せない
