飼い犬と飼い主 8
飼い犬に溺れて混乱状態のジーノと強引なしつけの生活に翻弄されながらも徐々に気持ちがはっきりしていくザッキーのお話です。ザッキーいないと、このシリーズはもう大変です。でも、この時点ではザッキーはジーノの事情を全然知らないので力になれません。ただ、少しずつ夢の形でジーノの混沌に接触し始めます。まあそれには関係なく説明能力のないジーノは一人勝手に転落していくという鬼展開。6の「裏と表」で本音を諦めたジーノが「表と裏」で再び本音を口にしますが言い方が下手でどっちにせよ蹴散らされ。夜を求める度悲しみに溢れて益々渇いてしまうのは勿論ジーノ。
幻とのつきあい方3
「またボクはキミを連れてきてしまったね。」
男が消え入るような感じで呟いていた。またってどういうことなんだろう?こんなところに来たのは初めてだ。
そうか、ここは夢の中
起きた瞬間まで覚えているのにシャワーを浴びる頃には忘れてしまう、時々見るあの変な夢。彼がこの前この世界は赤いと教えてくれたので、今日は床一面に綺麗な赤いタイルが並んでいる。真っ白な空からはフワフワと。今日はなんだろう、セロファンのような薄い虹色のヒラヒラがゆったりと羽毛のように舞っている。
綺麗だ、王子。あなたのそのサラサラとした黒髪と、長くて濃いまつ毛。全身真っ黒な服を着ていて、襟を立てたシャツからのぞく陶器のように白い胸元。この美しい真っ赤で虹色の世界によく映える。王子、本当に綺麗。世界中の誰よりも。俺はこんなにも綺麗な人間をみたことがない。
「ごめんね…。」
悲しそうに謝っている。そうそう、思えばここにいる王子はいつもそうやって申し訳なさそうな顔をしている。どうしてだろう。連れてきてごめんね、だなんて。ここがまるで彼の世界のような言い方をして。これは俺の夢なのに、とっても変な感じだ。なんだかシュールで笑ってしまった。
「おかしいかい?」
「おかしいですよ、なんであんたが謝るの?」
「だって独りが寂しくて。」
「俺はここが楽しいから来るんです。だっていつでも王子がここにいるから。眠っていても王子がいてくれるなんて最高じゃないですか?」
「それは変な話だよ、ザッキー。そんなことを考えてはいけないよ?駄目なんだ。だから、ボクの手を離してくれないか?」
王子がそう言うので手元を見ると、彼の手が俺の手首を掴んでいた。俺はそれがまたシュールに感じて笑ってしまう。かわいい王子。迷子の子どものように俺の手を掴み、こうしてここに連れてきてしまうと言う。そうして独りが寂しいから一緒にいたいなんてことをすまし顔で言ってしまう。なんて素敵な夢なんだろう。俺は嬉しくなって、やっぱりまた笑顔。
「笑っていないで、早く、早く、ねぇ、早く。お願い、ボクの手、離さなきゃいけないよ?」
「だって、王子、みてよこれ、ほら、掴んでいるのは…」
「助けて、ザッキー。ボクの手の形がどうなっていようと、そんなことはどうだっていいんだ。それにボクはもう王子じゃない。魔法が解けてしまったんだ。だってほら、ボク外しちゃっただろう?約束を破っちゃったくせにこうやって…。もうキミとは一緒にいられないってわかっているのにこうやって…。」
約束?外しちゃった?泣き言を言う王子がなんだか幼い子どものようだ。言っている意味は全然わからないんだけど、まあ夢だから。でも、とりあえずなんだか彼が俺に甘えているみたいに見えて。やっぱり俺は幸せな気持ちになって、笑って掴まれた手をひいて彼を抱き留めた。
そう、抱き留めたつもりだったんだよ、王子
なのに腕に飛び込んできたあなたは
シャボン玉のように消えてしまったね
どうして?
* * *
せっかくいい夢をみていたつもりだったのに、やっぱり目が覚めると隣に王子はいなかった。ベッドの中にいない王子は俺を抱き締めてくれないから、俺は自分で自分の体だけを抱き締めるしかなかった。
