お花結び

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飼い犬と飼い主 8

飼い犬に溺れて混乱状態のジーノと強引なしつけの生活に翻弄されながらも徐々に気持ちがはっきりしていくザッキーのお話です。ザッキーいないと、このシリーズはもう大変です。でも、この時点ではザッキーはジーノの事情を全然知らないので力になれません。ただ、少しずつ夢の形でジーノの混沌に接触し始めます。まあそれには関係なく説明能力のないジーノは一人勝手に転落していくという鬼展開。6の「裏と表」で本音を諦めたジーノが「表と裏」で再び本音を口にしますが言い方が下手でどっちにせよ蹴散らされ。夜を求める度悲しみに溢れて益々渇いてしまうのは勿論ジーノ。

滑落

 夏木の見舞い帰りから始まった二人の快楽の遊び。そのことによってジーノは大切なカーサを失った。カーサはあれから赤崎と二人で秘密の夜を過ごすためのヴィラになった。すべての情報を遮断して己を癒すためにあった秘密の巣であるカーサが、自身の肉欲的行為でヴィラのように遊び場として汚されてしまったからだ。

 ジーノはあの日新しい悪夢を手に入れ、あの部屋のベッドで一人で夜を過ごすことが出来なくなってしまった。カーサで過ごすときには赤崎が絶対不可欠で、彼がいない場合は逃げ込むようにおもちゃ達と毎晩ヴィラか彼女たちの家で過ごすようになった。遠征先では一人部屋が当たり前だったジーノは、必ず別室を予約しておもちゃを呼んでそこで過ごした。誰かの傍にいないと一睡も出来なかった。

 当然のことながらジーノはドンドン疲弊していった。常に誰かのためのなにかを演じる羽目になって、そうしてそれをすることすら出来ないほど疲れ切って、ついにはただフワフワとなんとなくそこに存在することくらいしか出来なくなっていった。眠っても寝た気がせず、起きていても目が覚めている気がしない、ぼんやりとした状態で過ごす時間が少しずつ増えていった。

 会う毎に様子がおかしくなって消耗していくジーノを見て、おもちゃ達は心配した。彼女達と時を過ごす彼は、今ではもうほとんど口を開くこともなく、時々ふわりと力のない笑みを浮かべる無力な存在になっていた。次第におもちゃ達のための王子を維持することが出来なくなってきていたのだ。重たそうな体を引きずる彼を癒すために、彼女達はまるで母のように彼に添い寝をした。セックスは目的ではなく彼を愛するための一手段でしかなかったため、彼女達は別にそれでも十分だった。ジーノは彼女達を母に甘える子どものように手を握ったり腕を抱いたりとほんの少しだけ触れながらいつも死んだようにぐったりと眠りについた。最愛の男のそんな姿を見て、誰か彼を救うことができないものかとみんな思案した。彼が愛を受け止めることが出来るようになって、この眠りから覚め、そうして幸せそうな笑顔を取り戻せるならば。そういう時がくるならば、その愛が己の発するものでなくてもかまわない。そんな風に彼女達は願った。おもちゃの愛に囲まれた状態にあっても、ジーノは見る夢見る夢がすべて例の悪夢で、ただひたすら力を失っていくばかりだった。ほとんどあの頃の症状と同じようなものが出てきていた。

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 一方ETUはといえば、今シーズン絶好調で唯一の強力な得点源であった夏木の離脱により、一気に順位を落としていた。そのまま降格争いのグループに仲間入りとなった。騒がしい夏木が抜け、常に周りを軽口で煽ってムードを変えていたジーノの口数が減ったことで、チーム全体の空気も次第に閉塞感溢れる重いものになっていった。低迷から脱出するべく、村越が鼓舞し黒田らがそれを支持していたが、もはやなんの効果もない無力な抵抗だった。

 赤崎もまた自分なりになにか出来ることはないかと他の選手たちに発言をしたりしていた。だが、歯に衣着せぬ物言いが時に感情的になりすぎて、単なる罵倒に発展してしまうケースも多々あった。力になるどころかムードをさらに悪くするキッカケを沢山作るような形になってしまっていた。

 そんな中で、疲弊し切ったジーノと、焦燥感で一杯の赤崎の間で繰り広げられる例の夜の遊びは回数を重ね、そしてのめり込むように深化していった。おもちゃと一緒にいる時にだけ死んだように眠ることができるジーノが、次第に毎晩のように赤崎と過ごしていくようになる。昔心理的に負った深い傷は赤崎をおもちゃにする度に引き裂かれるように大きくなり、割れ窓理論よろしくあらゆる場所にその亀裂が広がっていった。赤崎との夜は眠っているようでもちゃんと眠れていない夜であり、そのおかげで昼間もしっかり起きていられない様な状態が続くことになった。

 悪夢は寝ても覚めても常にジーノに寄り添い日常化し、必要性が生じた時だけ一時的にそれを追い払う。そんな生活が始まった。ぼんやりと空を見つめる目は常に悪夢を捉えていて、現実に戻ってくることが次第に困難になってきていた。そんな状態なので、ジーノの中にあったETUの貴公子としての自分も、優しい先輩としての自分も、まるでメッキのようにはげ落ちていくことになっていったのだった。

 ジーノはドンドン症状が重くなっていく中でも、それでも気紛れ王子の嘘を無理矢理、最後には無意識な状態になっていてすら続けていた。体調不良で動けなくなって遅刻早退を繰り返しても、体が強張ってしまって途中交代を自ら申し出ても、その本質的な意味に気付く人間は誰もいなかった。チームの不調にヤル気を失った扱いづらい厄介な選手。そういう我儘王子のスタンスを、危うい状態でもしっかりと演じ切っていた。
 唯一その演出がごまかしと知る赤崎も、ジーノ本人の上手な説明の為に本当に調整の不良程度のことと信じて疑わず、深刻な状態を察知できなかった。
 さらに言うと、本人ですら、寝ても覚めても繰り返される赤崎負傷の恐怖の悪夢やカーサ喪失の負担が原因により、自身の状態を把握することが無理な段階に入っていった。
 記憶と意識が混濁することでつじつまの合わない場面も散見したが、日頃のキャラクターとしてのつかみどころの無さと、無意識に行われるジーノの平気なフリも手伝って異変は次々に見逃されていった。もし、ジーノが入団していたのが過去の状態を知る持田のいる東京Vであれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。

 ほとんど意識を闇に捉えられてしまったジーノがふと意識を取り戻すときに彼が考えることといえば、もう限界なのだという現状把握と、もう少し、という未練だった。形だけは保たれていたはずジーノのサッカーは、そして拾い集めて作り直したジーノの自我は、もはやグズグズと崩れてその姿をとどめることも叶わず、ヌルヌルとしたぬかるみのような、もしくはサラサラとした砂漠のような、そんな不毛な地獄にも似た世界になっていた。ジーノはその絶望に常に叫ぶように泣いていたが、もはや自分自身でそのことにはっきりと気付くことすらできなかった。