お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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飼い犬と飼い主 9

今回は一直線のザッキーを書くのがテーマでした。どんな時も逃げ出さずにあくまでも冷静に問題点を突き詰め立ち向かっていく。この突き詰め→努力→解決で今まですべてを乗り越えられてきたザッキーが今回初めて解決しきれず少しずつ空回りの絶望の世界を知っていくという。ジーノ失速を曲解したせいです。時系列は9と8で重複。ちなみにこの頃のザッキー、実際にはサッカーへの集中力は半端なく、選手としてグングン成長し始めているけれど、一段と向上心が強まりちょっとやそっとの達成感じゃ満足できないようになってきただけです。

幻とのつきあい方5

 ああ、やっぱりまたあの気がかりな夢の中。よかったここに来るのは久しぶり。ずっと来たくてたまらなかった。

 綺麗なツルツルの真っ赤なタイルの上を、俺は今一生懸命駆け回っているところだった。もう俺は彼がここにいることを知っているから、当たり前のように王子を探している。いつも最初に彼から話しかけてくれるのに、今日は来てくれない。だからこうして自分で探している。きっと足が挟まって動けないままでいるんだろう。早く行ってあげないと、助けてあげないと。あんなに暴れていたんだもの、とても心配だ。

「ねぇ、もう、わかったでしょう?あなたが連れてくるんじゃないんです。俺が会いたいからなんだ。だから今日は自分の力でここに来たんだ!ちっとも謝る必要なんてないんです。助けに来たんです、王子。今どこにいる?聞いていますか?」

 見渡す限り真っ平らなこの世界。ガランとなんにもなくって見通しがいい。でも沢山の1m四方の四角い赤いタイルが並んでいるばかりで、どれだけ探しても人影もなにも見当たらない。ずっと真っ直ぐ走るけれど、景色がちっとも変わらない。どこから走ってきたのかもわからない。いつから走っているのかもわからない。

 これはいつもの夢とは少し違うんだろうかと、俺は不安な気持ちになる。独りが寂しいと王子は言っていた。確かになるほど、そう思う。この世界は二人でいるから楽しいんであって、一人でいるとただの寂しい空虚な世界。どうしよう、王子。俺は、どうしたらいいんだろう。

 心細い気持ちでふいに立ち止まると、いつのまにか足元に小さな黒猫のぬいぐるみが落ちていた。ノラと同じ真っ黒な。ああ、そうか。王子は割れたタイルから足を外すために猫からぬいぐるみに変身したってことなのか。よかった、これならもう痛くないよね?さすが王子だ、頭がいい。

 俺はその小さな小さなぬいぐるみを拾い上げて、王子、王子、俺来ましたよ、と話しかける。でも、王子は返事をしない。当たり前だ。今はこんな、綿の詰まったちっぽけなぬいぐるみなんだから。でも、俺はもう一人じゃないのでちっとも寂しくない。

「王子って毎回なんで俺のこと避けるんですか?手を離せって言ったり。空飛んでいっちゃったり。俺ね?この前、あんたを抱き留めようとしたんです。あん時は、そうだシャボン玉になって逃げちゃいましたよね?ねぇ、そんなのズルいじゃないですか。俺にわかるように説明してくれないと、ねぇ、ほら、俺馬鹿だから…」

 王子がなんにも言えないことをいいことに俺はちょっとすねてみせる。ピンと伸びたヒゲを模した黒いピアノ線をツンツンと引っ張ってみる。やめてよ、ザッキーからかわないで?なんて笑って王子に戻ってくれないかな?

「ねぇ、王子。俺ずっと言いたかったことがあるんだ。アレをしている時はなんにもしゃべることができないくらいになっちゃうし、そうじゃない時はあなたの耳が俺の言葉を拾ってくれないからね。ここだとちゃんと聞いてくれるでしょう?王子?」

 この王子猫のぬいぐるみ。耳が三角にピンと尖って大きくて、これならしっかり聞いてくれそうだと俺は嬉しく思う。彼はとっくに知っていることだから今まで一度もちゃんと言ったことがなかった。でも今、俺のとっておきの気持ちを伝えたい。夢の中じゃないと、かわいいぬいぐるみ相手でないと言えない様な、恥ずかしくって照れくさい彼への言葉。大好きって、そんなことを言っても変じゃないくらいに頑張って俺おっきくなるからねって、そんな素直な俺の気持ち。俺はそれを発するために笑いながら思いっきり深呼吸をした。

   あのね?王子、俺ね?

 話そうとした瞬間、どこからか声が聞こえた気がした。

   やめて!

 上?下?どこから?戸惑っていると空からヒュッと何かが落ちてきた。これはきらめくガラスの破片?一直線に、狙ったように。手の中の猫のぬいぐるみにプスリと深く突き刺さった。

    *  *  *

俺はあまりのことに驚いて、ガバッと身を起して目が覚めた。

 嫌な夢。この夢はこうしていつも変な形で終わってしまう。隣にはやっぱり王子がいなくてため息を付く。この家を出る頃には忘れてしまう変な世界。夢の中にいたら覚えていられるのに、次にあの夢を見るのはいつなんだろう。そんなことを思いながら、ゆっくりとシャワールームに向かう。思った通り、一歩一歩、歩を進める毎に、いつものとおり、もう夢の記憶があやふやになってきていた。