お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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飼い犬と飼い主 9

今回は一直線のザッキーを書くのがテーマでした。どんな時も逃げ出さずにあくまでも冷静に問題点を突き詰め立ち向かっていく。この突き詰め→努力→解決で今まですべてを乗り越えられてきたザッキーが今回初めて解決しきれず少しずつ空回りの絶望の世界を知っていくという。ジーノ失速を曲解したせいです。時系列は9と8で重複。ちなみにこの頃のザッキー、実際にはサッカーへの集中力は半端なく、選手としてグングン成長し始めているけれど、一段と向上心が強まりちょっとやそっとの達成感じゃ満足できないようになってきただけです。

夜が歌う時2

 ともあれ、彼は今日もお気軽に、お手軽に、俺の体を手近な快楽を生む道具に変える。そうやって今また、二人こうしてセックスを楽しんでいる。王子の愛撫はとても優しく、俺は毎回簡単に心も体も絡め取られてしまう。彼は俺の中に存在する強烈な快楽を次々に引き出しては美味しそうにそれを食べる。

 彼は未だに時々こう言う。俺の体を、俺とのセックスをどうしようもなく気に入っていて傍にいると貪るのをやめられない、と。どうかしてるよね?と自嘲気味に笑う。

 でも俺にとっては違う。これは彼からの慈悲。俺を甘やかすために彼は様々な犠牲を払う。その暗い瞳がその証拠。毛布を手放したがらない子どもに付き合う彼のその姿には、やはりとても愛に酷似したものを感じさせる。ただし、この愛は親の愛。一方的に子を守る親の無償の愛。とても未熟な関係性。今、俺の中には愛がない。あるのは我執、我欲だけだ。お返しするには忍びないゴミ。

 俺は気持ちがないと他人と寝ることが出来ない。そして彼は俺が彼のことを好きなことを知っている。そんな俺を抱く王子はいつも何を考えているんだろう。ボクの心はあげられないよ、すべては快楽を貪るための演出だ、と俺に言う彼は。ないものねだりだと言ったあの時の王子は、俺が彼に愛を手向けるに値しない人間だ、とはっきりと言いたかったのかもしれない。あの時の俺は自身の成長に確信を持てていたけれど、先を見通す彼の目には、そんな日が来るわけがないという失望の未来が見えていたのだろうか。自信に揺らぎ始めた今の俺は、時々そんな風に卑屈になったりもする。いつもなら信じない奴が馬鹿なんだと今に見てろよと発奮材料に変えてきていて。今はそれが何故かできない。以前のように盲目的に自分を信じてやれることが出来ない。でもフラストレーションがたまるこの心境もまた初体験。この醜い卑屈さは、今の未熟な俺にとてもよく似合っている。残念だ。こんなことが似合ってしまう、今の俺。明らかに下を向いている。こんな時間がポツポツとやってきて、時々とても息が苦しい。おそらく今まで俺は本物のプレッシャーと言うものを知らずに生きてきたんだ、とそんなことを淡々と考えている別の俺がいる。どこを見渡してもちっぽけな自分しか見当たらない。こんな存在、王子のペットにすらふさわしくない。

 ギアがマイナスに入っているのがよくわかる。こんな時は益々王子に触れたくなる。体でいいけれど本当は心に。勿論彼の心に触れたい。王子のすべてに、俺は触れたい。

    *  *  *

 彼のセックスは彼のサッカーのスタイルととてもよく似ている。センスなのか、場数なのか、技術レベルが非常にハイだ。
 そのテクニックには誠実で真摯なものが感じられるのに、全体的な印象がとても不遜で不誠実。彼は嘘が非常に上手なので実際にはなにがどうなのかがさっぱりわからない。サッカーのプレイも、この行為も、もしも俺が真摯ですねと言えばニッコリ笑い、不誠実ですねと言えばさらにニッコリと笑うだろう。
 王子は常にそうやって煙に巻く様なことをする。心はあげられないという彼の愛撫にはいつも彼の心を感じる。この感覚は本物なのか俺を錯覚させるための彼の上手な嘘なのか。いつも整理しきれず俺の中はあやふやだ。
 彼の好意を慈悲そのままに感じられるとき俺は卑屈になり、彼の策略を感じてしまう時はひどい男だと彼を責めて自身の責任転嫁の醜さを痛感する。彼への罵倒と自分への叱責が止まらない。恋とは人を美しく成長させるものではなかったのか?とても不思議だ。

 彼には壁がある。

 人には簡単に踏み込んでくるくせに、他人には絶対それを許さない。彼のことが好きで彼のことを理解したい俺には、その壁が途方もない。最初は彼のそういうちょっとミステリアスな部分に魅力を感じていたところもあったけれど、最近ではそれがとてもつらい。俺はすっかり彼に浸食されきっているというのに、彼はひとつも俺に触れさせてはくれない。
 あの壁の向こうにある彼の甘露はどれほどのものなのだろうと涎が止まらない。隠されれば隠されるほどに魅惑的だ。
 でもどれだけ喚こうとも彼はあの高い城壁の門を決して開かない。その理由はつまりその権利がある、彼が許可を下ろしてもいいような存在がこの世の中に存在しないということだ。そう、未熟な子どもには当然それを開けるどころか、門に触れる権利すらないということだ。ああ、これもまた俺の中の卑屈。駄目な理由を探したがる卑屈がこの世で大嫌いな事だったのに、こんな俺に彼が心を開かないのは当然だ。権利もない飼い犬に対して、彼はこれ以上ないくらいに親切に対応しているのだから。本来体を与えることすら絶望的に無理であろうちっぽけな飼い犬にそれをしているのだから。

 それでも、彼のすべてを手に入れたい貪欲な俺のこの目は、まるで狐のように鋭く獰猛につり上がっていることだろう。そうやって、俺はまた水蜜のような彼の柔肌に鋭いこの爪先を一気に食い込ませ、傷口から匂い立つ彼の芳香を堪能する。もっと寄越せ、物足りないと、彼に噛みついてしがみついて離れない。体を抉れば中から心が出てくるんじゃないかなんて、そんな恐ろしいことを無意識に考えてしまったりもして。
 俺がもつ彼へのこの強い執着心は、次第に憎しみの形に似てきている気がする。なぜこんな風になるのだろう、嫌な現実だ。

 ペット可愛さにいつも俺を抱きしめてくれる彼が巣立ちを願ってここから追い出そうといくら試みても。俺は今、巣立ちを拒否し、そのためだけに子どもであり続けることを願い、現実としてはこうして彼と過ごすこの巣穴を荒らしていくようなことばかりをやっている。あまりに醜く、正視できない現実。でも正視しようがしまいが、それが現実だ。だから見つめるべきだ。

 今の俺はとても醜く、王子を愛したいのに愛する代わりに足枷としてしがみつくことばかりをやる。
 それでも。俺はいつかあなたを守る、二人で暮らす大きな巣穴を用意してあげたい。彼の元からいつか巣立たねばならない子どもでなく、肩を並べるにふさわしい雄々しい姿に成長し、そうして添い遂げるつがいとなって二人一緒に生きていたい。これは本当。
 執着から呼び起される彼への罵倒と自分への叱責を全部片づけたらちゃんとその奥にある、俺の中の本当。信じたい。その日を迎える俺。信じたい。その日を喜ぶ王子。だからそれを信じて欲しい。ああ、こんな風に際限なく彼の許しを請う、これもまた俺の憎むべき醜さだ。