飼い犬と飼い主 9
今回は一直線のザッキーを書くのがテーマでした。どんな時も逃げ出さずにあくまでも冷静に問題点を突き詰め立ち向かっていく。この突き詰め→努力→解決で今まですべてを乗り越えられてきたザッキーが今回初めて解決しきれず少しずつ空回りの絶望の世界を知っていくという。ジーノ失速を曲解したせいです。時系列は9と8で重複。ちなみにこの頃のザッキー、実際にはサッカーへの集中力は半端なく、選手としてグングン成長し始めているけれど、一段と向上心が強まりちょっとやそっとの達成感じゃ満足できないようになってきただけです。
渇望と執着の積み重ね
自信喪失気味の最近の俺は覇気までなくなってきた。頭の中に膜が張ったみたいに、まるでまともに考えることも出来やしない。そんな中、いつものように彼は俺を使って遊び続けている。ふとあの時の彼の顔が今の彼の顔に重なる。
“…ねぇ。キミはそういう子じゃないだろう?”
王子、あなたの言うように俺はあの時から俺自身を見失ってしまったのかもしれない。
* * *
もっともっと頂戴よと、王子は今日もまた俺をすっかり彼のものにしていく。愉悦と同時に悲しみのようなものを感じさせながら彼は俺を抱く。先日別れ話をしたときの顔の反対だ。あの時の顔はとても悲しそうでありながら、大きな開放的な喜びが見えた。俺は絶対この人の傍から離れるなんて考えられないけれど、こうして今俺を笑いながら抱いている彼は、閉塞感に包まれて息も絶え絶えな状態だったりするのかもしれない。あやふやな彼。彼の心と体はいつも裏腹で、そして言葉もまた裏腹。表情も裏腹。万華鏡のような王子。不安な俺の心境が彼の暗さを簡単に見つけだしてしまう。
この前彼は、ボクはキミから離れることができない、と言った。できるかできないかというのは、可能か不可能かを表す言葉だ。その中には、離れたいのか、離れたくないのか、彼自身の意思が込められていなかった。
彼の言葉遣いはとても暗喩的で、わかってほしそうでいて、理解してほしくないという、実に難しいものだ。俺はわかってほしいことを口にするし、わかってほしくないことは言う必要も感じない。会話というコミュニケーションの解釈とパターンがあまりにも違う。彼は俺にとってはとても難しい。もっともっと成長して、彼の事を理解したい。
本当は彼には俺のレベルに合わせてすっかり簡単になってもらって、まるごと全部を一から教えてもらいたい。彼自らの案内で、彼がこれほどまでに守りたがっている彼の秘境にズカズカと踏み込んですっかり全部見渡したい。甘えなのはわかっているけれど、願わくば俺だけに俺のためだけにそうやって、どんなに嫌でも開け放してもらいたい。別次元を生きている王子の目には、ガキの俺には見えない何かが見えている。同じものが見えない子どもな俺は、いつもいつもこうして我儘ばかりだ。
彼は多弁に説明しているようでいて、実は結論ありきでその経緯は全く具体的ではない。説明を大いに割愛してしまっていて、なぜこんな簡単なことがわからないのだ、という顔をする。でも俺は子どもらしい子どもだからそれでは納得できない。社会的な風習、巣立ちのセオリーなど俺にはいらない。
俺は一般的な概念でなく、一人の人間としての彼の生々しい心に触れたい。教科書のような模範的な話をされても、俺にはそれは大人のずるさに見える。親切なふりをして人の心に寄り添う顔をして、その実一つも自らの手の内を明かそうともしない誤魔化しのような、そんなずるさだ。
赤ちゃんはコウノトリが運んでくるのだと、そんな馬鹿馬鹿しい説明とよく似ている。本当はオスとメスの生々しい欲望のままのセックスがあり、その貪りの快楽と情欲の果てに命が生じるのだ。俺は嘘偽りのない、当たり前の真実を提示されなければ納得しない。本物の子どもというのはそういうものだ。
だから俺はそういう生々しいグロテスクなまでの彼の手持ちのカードが見たい。彼の戦略、彼の計画。俺は今、俺には到底理解出来ない中途半端な説明による彼の導き出した結論など、およそどうでもいい。だって、彼の中の経緯と過程を具体的に理解出来ないままで、どうやってそれを結論付けられる?なぜ鵜呑みにすることなんか出来る?そんな結論、結論なんかじゃない。それは解釈の一つであって、つまりは単に仮説を並べるという経緯の一つにしか過ぎない。俺は見たい。彼の中にある彼だけが見ているその過程を。だけど彼は俺のこういう感情をとても避けたがる。わかる。そういう言葉を向けられるとさっと身を躱す。
大人は子どもからセックスを隠す。まだあの子にはこういうことは早い、だなんて。子どもを子ども扱いすることは、本来とても不適切な事だ。面白半分に自らの腕を吸って、出来たうっ血に喜ぶ子供たち。大人はなぜ彼らにそれは情欲を想起させる卑猥の判だからやめなさいと言わない?理由もなくやめなさいと説明されても、真の意味を知らない子ども達は益々面白がって大人にとっての忌々しい痕をただただ増やすばかりだ。
だから、子どもは子どもであればあるほど、一人前の大人として扱ってやるのが正しい。俺は子どもを一個の人間として応対する大人達に囲まれて暮らしてきた。そんな人達が周りに沢山いたから、こういうことの大切さに関してはとてもよく知ってる。
* * *
ああ、それにしても俺の胸元をすべらせるように動く彼の手。なんて優しい。優しすぎて意地悪な手。
「フフ、まるでちっちゃなお花みたい。右も左も、すぐこんなに固くなっちゃって、大丈夫?痛くない?」
「…ん…」
「キミ、ここ弄られるの随分気に入っちゃったね。フフフ、ずっとこうしててあげるからね」
「も、嫌…」
「えぇ?嫌?なんで?フフフ、なんで?言ってごらん?ザッキー」
「…あぁ…いつも…ンッ!みたいに」
「ほら、どうしたの?」
「……」
「聞こえないよ」
「…か、んで…」
「フフ」
「も、言ったろ?…しろ、よ…」
「ん~…どうしようかな?もう一回おねだりしてみて?」
「クッ、いいから、…やれよ!クソ…」
「やだなぁ、こわーい。おねだりって言ったのに。言い直しだよ?」
「……」
「ん?」
「…お願い…」
「よしよし、で、何をおねだり?」
「だから…そっと…か…ん…」
「ものすごい震えてる。かわいいなぁ、苦しい?フフずっと見てたい」
「…お願い、もう俺…下も、下も…触っ、我慢できな…」
「もう、しょうがない子…もっとボク楽しませてよ、フフ、すこぉしお仕置きだ」
「んぁッ!」
「クスクス、もっとうんと痛くしちゃおうかな?」
「あぁッ!」
「キミが言ったんだよ?噛んでって。そうでしょう?」
彼は笑いながら俺の左の敏感にかなり強く噛み付き、同じようにきつく爪を立てる様な形で右の敏感を捩じりあげていた。そうして今、俺は彼にまた苦痛か快楽かわからないそんな体から絞り出すような声を無理矢理引っ張り出され。欲しい刺激は俺の下腹部には全くやってくる気配もなく、上半身を今までにない程乱暴に扱われてもう息も絶え絶えに身を捩りまくる他なくなってしまった。
こんなことをされていてさえ、やっぱり俺は彼に虜。そう、多分入団前から俺は彼にすっかり夢中だったんだと、今ならわかる。画面越しに俺は彼に恋をしていたのだ。彼に導き出される体の強い快楽と同じように、次々に心の情熱が導き出されて、どこまでも彼を好きになっていく。俺はこんなにも王子が好きなのだと、毎回毎回思い知らされていく。あまりにも俺とは違う王子。彼の中には俺の知らない驚くほどの広い世界が未知なる広がりが存在している。その存在を垣間見る度に、ゾクゾクと性快楽にとても近い官能が体全体に湧き上がる。体だけは大人になってしまった子どもの俺は、思いのすべてが性欲となって淫らな夜を求める。彼を貪り、溢れる熱さを液状の熱に変えて、今またこうして、吐き出して、吐き出して、吐き出し続けて。まるでこれは俺の彼に対する暴力。欲するほどに彼を穢し、痛めつけていく。卑猥な声をわざとあげ、淫靡に彼を煽り、彼の快楽を引き摺りだし、どうにも逃げ切れない彼をさらに縛り上げて荒波に沈めていく。
やっぱり考えてしまう。俺の彼を知りたいという欲求と、それを嫌がる彼の気持ちに挟まれながらも。今こうして俺を抱きながらうっとりと目を細めてセックスの世界に埋没して体だけになってる王子。俺の罠に囚われてくれた、もがき苦しむ優しい小さな白ウサギ。
ねぇ、あなたは今、何を思う?
