お花結び

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飼い犬と飼い主 10

ザッキー頑張っているのにジーノの心はドンドン明後日の方向に飛んで行ってしまっています。二人の明るい未来を切望するザッキーが少しずつ不毛を感じ始め今の関係を続けていくことに自信を喪失。達成感が手に入らない時期って自己評価下がりますよね。ジーノの不調を前に自分を責め始め、状況の誤解曲解も増えます。ですがそれでもザッキーところどころ問題の本質的なものがキチンと見えており、そのことを察知してしまうジーノはさらに追い詰められていきます。10は8「滑落」直後に繋がる話になってます。王子、赤崎、後藤、ジノ→←ザキ、ゴト+ジノ。

飼い主の贖罪

 昨日、GMと飲みに行ったボクは、すっかりもう駄目になってしまって。

 気晴らしになるかと思ったのに行かなきゃよかったと後悔してももう遅かった。だってこのタイミングでこんな。ボクはあんまり想像できていなかったから。油断していたから。

 意識が半分飛んだまんまボクはまた練習の時に彼の名を呼んでしまった。自分で飼い犬を呼び寄せておきながら、なぜ今日彼がここにいるのかとか考えている。自嘲的な微笑を浮かべて二人ベッドでまた過ごす。体がだるい。まるで自分のものでないみたい。今のボクは油の足りない機械みたい。血の通わない重たい荷物みたい。

   全然気持ちがよくないね、ザッキー
   ゴメン、ボクのせいだよ

 体が軋む音がする。心も軋む音がする。戸惑い見上げる飼い犬の目。こんな夜に呼んだボクが悪いのだと懺悔の気持ちを抱きつつ彼を抱く。この頃のボクはなにをするにもおっくうで、めんどうくさくて、だるくって。もうセックスをするのもしんどくて。そして今日はまた一段と。

 途中から彼に命令して彼を乗せ、彼に動いてもらって彼の力でイかせてもらうことにした。奴隷か召使のように彼を使役して、溜息をつく。サイテーだ。こんなの、本当に単なる排泄行為だ。なんのイマジネーションもない。おもちゃ相手ならともかく、大切なペットにしていい仕打ちじゃない。

 彼の耳にキスする。彼の体臭を胸いっぱいに吸い込んでみる。母親のおっぱいを弄るように彼の二つの小さい蕾を執拗に舐る。彼の体に甘える。甘やかしてもらう。働かされ続けた彼がぐったりとし始めていてもボクは彼を抱くことをやめたりしない。解放したりしない。彼をうつぶせにして片膝を曲げて足を広げさせて今度は後ろから強引に彼を犯し続ける。だるいからその行為もまた惰性。興奮したり萎えたりしながら延々と。中途半端な刺激。緩慢な動作。長い長い時間をかけながら、なんの快感もないままにやっとやっと二人射精する。まるで絡んだ痰を吐き出すような虚しさ。まさに唾棄すべき行為の積み重ね。
 ボクはすっかり駄目になる一方。どれだけ浴びるようにキミというアルコールを煽ってみても、今日のボクはちっとも気持ちよく酔うことが出来ない。こんなことにつき合わされている飼い犬の身になってみれば、もうなんの申し開きも出来やしない。そう思いながらも、座礁しながらボクはまた彼を抱く。

 体が達しても不快感が増す一方の状態に焦れる。イライラが我慢できなくなって衝動的に彼の耳の後ろに赤い痕を残した。裸になる機会の多いボク達。だから日頃慎重になり過ぎるくらいに気を付けていたはずだった。キスマークをつけてしまったのは初めてのことだった。
 それを目にした瞬間、突然電流が走るように沸き起こった自分の残虐。抑えきれず、今度は吸うだけでは飽き足らず、同じ個所をほんの数ミリ、彼の体をチクンと噛み千切ってしまった。皮膚をはぎ取られた個所からは針を刺したと同じように真っ赤な血がぷっくりと湧き出た。甘い樹液のように見えた。うっとりと口にした彼の血。濃い鉄の味がした。ゾクゾクした。こんなことでボクはまた彼を欲し始めてしまい、もう二人動けない状態にもかかわらず再び無理矢理彼を抱いた。小さく湧き出る血を魔物のように舐めとりながら、ドンドン興奮が高まり最後には激しく激しく彼を揺さぶり貪った。飼い犬はキスマークをつけられる前からとっくの昔に意識を失っていた。だから本当に単なる道具の状態だった。

 相手のいない一人のセックス。愛犬とはぐれ一人で過ごす冷たい雨の降る海。心細く薄暗い空虚な世界で手に入れた圧倒的なまでに強烈な快楽。この時全身でボクは理解した。自分はもう完全に壊れているのだということを。

    *  *  *

 いつにも増して強い自己嫌悪。ベッドを整え、彼を身綺麗にして。本当はこんなことにも一切かまわず寝乱れたままの姿で彼を抱き締め続けていたい。そうして溶け合うようになりながら一緒に深く深く眠りたい。でもあどけない美しい彼の寝顔がそれを許さない。彼の清らかな眠りを汚れきったボクがこれ以上穢さずに済むように、ボクは今日もまたカウチで眠る。

 リビングのカーテンは全開に。昇る朝日の明かりがボクを消毒してくれますよう。そしてあたためてくれますよう。

 今日の月はまるで今にも折れそうなほど細くて、ぼんやりと見上げるボクは益々不安。このまま闇に囚われたまま消えてなくなってしまいたいなんて、随分気弱になってしまったものだよなと。

   怖い、どうなってしまうんだろう、この先
   頭が真っ暗だ

 地上は明るい。ここ東京は眠りを知らない街。まるで眠りを忘れてしまったボクと同じ。ほんの少し仲間みたいな気持ちになる。眠りを誘うあの薬がないとボクはもうまともに眠れはしないみたい、と考えながら寝酒に一杯。飲み慣れない強いアルコールはボクの胃を荒らし、最近少し食欲がない。眠れないと言いながらも、これは起きていられてない夢遊患者みたいなものなのではないのかな、なんてフワフワ気分で嘔吐する。昨晩ほとんど食べていないから、結局は出るものがひとつもない。

   ああ、空が明るくなってきた
   ボクはずっと起きていた気もするし
   まだ目覚めていない様な気もする

 キリキリと胃が痛むので何か口に入れなければと考えても、最近買い物も面倒で冷蔵庫の中がからっぽ。なんか食べなくちゃ、でも食べたいものっていったらなんだろう?なんのプランも立てないままに出掛ける準備をする。まだ朝早い。彼のお気に入りのパニーニを用意してあげたいけれどまだあのお店はまだ開いていない。

 着替えながら寝室にいる男のことを思い浮かべる。いつも以上にそれこそ身も心もボロボロに傷ついてしまったボクの可愛い飼い犬。きっと彼は家に帰って自分でご飯を用意して食べる元気も残されていないだろう。それでも彼は練習に出向き、ボクの与えた激痛を心と下半身に抱えながらも今日もガムシャラにサッカーに打ち込んでいくことだろう。
 今はそんな彼の顔を一瞬たりとも見ていたくない。合わせる顔がない。だからこそ。今日はせめて朝ごはんくらいは用意して、一緒に食べでもしなければ。今ボクが思いつく彼への償いなどその程度のもの。

 そして、ボクはまたこうやって自分に都合のいい偽善的な言い訳をしながら。苦しみの真っただ中にいるであろう彼を絡めとって絶対に手放さないよという真似をするのだ。なんという傲慢。

    *  *  *

 マンションを出てテクテクと無作為に散歩。ああ、と思い至る。うんと昔にザッキーと二人でこの辺を歩いた覚えがある。なんでだったか覚えていないけれど、今みたいになんの目的もなくただプラプラと。あの日は二人笑いながら沢山くだらない話をして、この道の先に小さいパン屋を見つけたのだ。おしゃれでもなんでもない商店街の中の古ぼけたちっちゃな店。おじさんとおばさんと言うにはほんの少しご高齢のかくしゃくとした二人が、威勢のいい喧嘩なんだかじゃれあいなんだか、そんな掛け合いをしながら素朴なパンを売っていた。気後れするボクの手を引いて彼は嬉しそうに腹減った!なんか買って行きましょう!と店に入り。やきそばパンがあると喜んで彼は、王子よかったですね、なんてトレイに4つも並べて笑った。これじゃいくらなんでも足りねぇ、なんてその後ジャカジャカ好き放題トレイから落ちてしまうんじゃないかと思う程の沢山のパンを乗せ始め。ボクは練習後だからってそれじゃ馬鹿の大食いだよ、なんて笑いながらとても楽しい気分だった。

   あのお店、空いているかな?

 朝からやきそばパンはつらいけれど、それでも食べると少しは違うかも、なんて重たい足を引き摺るようにしながらも歩みを進める。ほんの少しだけ心を弾ませて。

 街のパン屋さん。あの時と違ってびっくりするほどの人だかり。結構人気店だったんだな、と思いながらも勇気を出して店内に入る。不慣れなボクは周りに合わせて一列に並んで順番にパンを眺めていく。どうやら店に入って左回りにぐるりと回って最後にレジでお会計をするのがこの店のセオリーらしい。ビュッフェみたいなものだな、と考える。でも朝の通勤前のお客さんたちはみんなせっかち。すばやく歩きながらパンを選びサッサとトレイに入れていくなんて、今のボクにはちょっと無理なお仕事。ボクの頭の中のネジはもう何本緩んでしまっているのかもわからないほどになっていて。こうしていても意識がぼんやり、まるで夢の中にいるみたい。

 やきそばパンがどこにも見当たらないと迷っているうちにすっかりレジまで近づいてしまって、慌てて目の前にあるサンドイッチをトレイに入れる。意外とハムが本格的な味、と喜んでザッキーがパクついていたことを思い出す。これだけでも買うことが出来て良かったと少しほっとしてお金を払う。おばさんの、まいど!という威勢のいい掛け声にスマイルで返事。この奥さんは大阪からお嫁に来たのかな、なんて彼らの若かりし日のラブロマンスを想像しながら後ろがつかえない様に慌てて店を出る。彼ら夫婦の喧嘩に似た威勢のいい掛け声が店の外にまでほんの少し響いてきて、そんなことがボクの心を少しあたたかくする。

   さあ、ザッキーが目覚めないうちに
   早く家に帰らなきゃ

 昨日はきっと彼にとってつらい夜になったことだろう、と思う。ボクは今まで彼の事を、あんな風に抱いたことはなかった。他のおもちゃ達みたいに使役の道具として使ったことは一度もなかった。繊細な彼はきっと傷ついている。がらんどうになったボクがどんな風に人を抱くのかを初めて知って、その冷たさにきっと凍えたに違いない。

 パン屋夫婦に少しあたためられた心がまたヒュッと冷えてしまった。その拍子でGMの話を思い出した。ボクはもう駄目だということをまた思い出した。意識がぼんやりしてくる。世界がまるでテレビモニタ越しにみているようなよそよそしさ。それでもボクは笑って見せよう、とフワフワ意識が漂う。昨日のあまりにも残酷な仕打ちに謝罪の意を込めて彼にキスしてみよう、ボクが彼にキスしている夢が脳裏に浮かぶ。

 もう、彼にはボクの嘘は通じない。きっともう彼はボクが人らしい体温を持たない冷酷な爬虫類のような生き物だということを知ってしまった。あんな時を過ごして平気でいられるほど無神経な子じゃない、残念ながら。彼はとても賢いから。もうこれ以上は誤魔化せない。近日中にはっきりと確信を持ってしまうことだろう、ボクのずるさのすべてを。わざとらしく嘘っぽく呟いたボクのあの真実を。ETUの貴公子など最初からいなかったのだというありのままの現実を。些細なことに怯え続けている安っぽいポンコツの姿を。可哀想な彼の失望の世界を。

   けれどともかく今はこれ

   買ったばかりのこのサンドイッチ、
   ボクはコーヒー、
   そして彼はホットショコラ
   使う食器は勿論、彼のくれたお気に入り
   あのとてもキュートな、ペアのマグ&ディッシュ

 安っぽい優しげな言葉と笑顔を絞り出しながら、ほんの一時の彼との朝の時間をゆっくり楽しむ努力をしよう。そんなことにすがりながら、ボクは再び重たい足を引き摺り家路を急いだのだった。