飼い犬と飼い主 11
達海就任直前の2006年12月頃。色々間違えて噛み合わず結局バラバラになっていくジーノとザッキーの生活と心理描写が中心。 ほぼずっと1人称視点。お別れの方法と解釈、トラブル時の対応の仕方。同じように繊細さを持ちながら、土壇場での弱さと強さ、それぞれ典型的な形になって事態が一歩ずつ変化していきます。それぞれ前進したり後退したりとそんな感じで。「淪落」は描写にモブ男(受)との絡みあり。依存傾向のあるジーノのひ弱さと不完全さを象徴する話です。王子、赤崎、モブ男(受)、世良、夏木、後藤、ジノ→←ザキ、ゴト+ジノ、ザキ+セラ。
よいお年を~王子へ
「あれ?」
また知らないうちに王子を見ていた俺は、彼が周りににこやかに笑いながら挨拶をしているのに気付いた。もうすぐ閉会だっていうのに、彼は最後まで残らずに帰ってしまうようだ。ちょっとも待てないくらい急ぎの用事でもあるんだろうか、相変わらずマイペースな人だ。
実は今日、帰りがけに俺は彼に声を掛けようと思っていた。いつも霞のように俺を無視する彼だけれど、今日は不思議と相手をしてくれる気がしたから。オフ直前だし、やっぱり年末の最後の挨拶くらいはしっかりとしておきたいし。
いそいでいるなら引き留めると迷惑かな?と少し迷ったけれど、彼が退室して一人になったら一言だけ声を掛けてみることにした。このまま無視をされた状態のまま年を越してしまうのはなんとなくしっくりこなかったから。
彼は荷物を手にしてあっという間に出口に向かっていく。あんなに目立つ男なのに、いつも感心してしまう。立ち去る時はああやって完璧に気配を消して、そのまま空気か風が流れるみたいに自然にいなくなってしまう。
「王子!」
部屋を出るのと同時に、彼に声を掛けた。酒が入っているのに少し急いで走ったのでちょっと呼吸が乱れてる。王子は本当にこういう時の行動が早すぎるから、参ってしまう。
俺は声を掛けてしまってから特段用事がないことに気が付いて、慌てて次の言葉を思案した。なにを話そう?でも、そんなどころではなかった。最初の一声で王子が一瞬立ち止まったように思ったのに、そのままスタスタ何事もなかったかのように歩き出してしまったからだ。聞こえなかったのかな?だから念のためもう一度声を掛けた。
「王子!」
聞こえないはずはないのに、彼はそのまま振り向きもせずに俺を無視して歩いていく。今日だけは無視しないで話をしてくれると思っていたのに、結局はそうではなかった。今は廊下に二人きり。人の目もないことだし、このまま走っていって彼の肩を掴んで無理矢理にでも呼びとめてしまいたかった。けれど、なんだか悲しげに見える儚い彼の後ろ姿がまるで俺の知ってる王子とは別人のようで。まるで触ると消えてしまう淡雪のように感じてしまって。だから俺にはそんな強引なマネをすることが出来なかった。まあいい。また来年だ。
「王子、よいお年を!」
スタスタと知らん顔をして帰っていく王子の背中に、なんとなく思いついた一言を投げた。そうして俺は再び会場に戻ることにした。
