お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

*

飼い犬と飼い主 11

達海就任直前の2006年12月頃。色々間違えて噛み合わず結局バラバラになっていくジーノとザッキーの生活と心理描写が中心。 ほぼずっと1人称視点。お別れの方法と解釈、トラブル時の対応の仕方。同じように繊細さを持ちながら、土壇場での弱さと強さ、それぞれ典型的な形になって事態が一歩ずつ変化していきます。それぞれ前進したり後退したりとそんな感じで。「淪落」は描写にモブ男(受)との絡みあり。依存傾向のあるジーノのひ弱さと不完全さを象徴する話です。王子、赤崎、モブ男(受)、世良、夏木、後藤、ジノ→←ザキ、ゴト+ジノ、ザキ+セラ。

羽化は詠嘆を伴って

 俺は彼が俺を無視し続けることによって最近気付いたことがある。

 俺は彼の顔や体をまともに見れないと思っていたのに、本当は全然そうじゃなかったということだ。見ようと思ってるわけでもないのに、いつも俺は彼を見ているみたいだ。だって今も気が付いたらあっちにいる彼の仕草を眺めている。彼のあの仕草一つ一つ全部に見覚えがある。ということは今までももう数えきれないくらい王子の姿を眺めているシーンがあったということだ。彼の癖。彼の声。優雅な身振り手振り。立つ足の角度から腰に添える腕の位置まで。多分、もう何回も何回も俺は無意識に彼を見ている。それで、そういう俺の目線に彼がその都度気付いて振り向くから、俺は目を逸らさねばならない羽目になっていたんだ。だからいつしか、俺は彼のことをまともに見れないって思うようになってしまったみたいだ。

 彼は今、俺の視線に気付いていながらも絶対に振り向かない。王子の視線が俺の邪魔をしないので、いつまでも俺は彼を見続けることができる。処分されてしまったので俺はもう彼の傍にはもういられない。けれどこうして見ていることは出来る。

 引きちぎられた痛みが薄れていくに従って、はっきりしてきた。俺の心は変わらず彼に囚われたまま、ちっとも離れようとはしていなかった。そして離れる必要などもこれっぽっちも感じていないようだった。多分、彼がどうあろうとこうして俺は俺の勝手で彼のモノになったまま暮らしていく。俺の心はそういう位置に納得の場所を見つけたようだった。冷たい風が吹いて体は寒いけれど、なんだか不思議とほっとした。変わらず王子が好きでいられることが出来て幸せを感じた。涙が溢れてすべてが洗い流されて、その最後の最後に。昔、モニタ越しに彼に恋をしていた、あの頃の自分に戻った気がした。

 ああ、よかった、あのままでは俺は彼を潰していた、彼は俺から逃げ出せた、と心の底から安堵する。俺はこの別れで、少し綺麗になれた。あの時期あんなに俺に纏わりついていた卑屈と責任転嫁の傲慢が抜けて。ほんのちょっとだけ本当になりたかった自分に近付けた。醜さを身に付けた上で純粋さを再び取り戻すことが出来た。ああ、俺はまた彼に一つ大人になる種をもらった。よかった、この調子なら俺は羽化して、いつか彼を愛することが出来そうな気がする。それを彼が受け取ろうが、受け取るまいが、それはどうだっていいことだ。俺は俺の羽化を信じたい。彼を愛する存在に変化したい。競技中にびっくりするような大きな転倒を見せたスケート選手が、音楽の続くままに最後まで踊りすべり続ける心境を、この時の俺はほんの少しだけ理解した気がした。そう、この気持ちに関して言えば、結果など二の次の出来事なのだ。

 二人の時がなくなったとき、俺はいつも彼にしがみついて破壊してしまうのではないかと恐怖していた。でもよかった、その日を迎えた今、不思議と彼を労わることが出来た。自分の苦しみよりも、彼の痛みの心配を自然にすることができた。良かった。そんな当たり前の大切なことを普通に優先出来た。俺は今自分のことを、やっとちゃんと好きだと言えるようになった。良かった。

   これでいい、大きな痛みを受けつつも
   その後本当にふりだしに戻れたのならば

   俺はもう一度、王子を知らなかったあの頃のように
   彼とピッチに立つ夢を一から見始めることができる

   一緒にプレイしたい、王子
   俺の素敵なファンタジスタ
   本当に大好きだ、心から

   今度こそ、あなたを愛することに成功してみせるからね、王子