お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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飼い犬と飼い主 11

達海就任直前の2006年12月頃。色々間違えて噛み合わず結局バラバラになっていくジーノとザッキーの生活と心理描写が中心。 ほぼずっと1人称視点。お別れの方法と解釈、トラブル時の対応の仕方。同じように繊細さを持ちながら、土壇場での弱さと強さ、それぞれ典型的な形になって事態が一歩ずつ変化していきます。それぞれ前進したり後退したりとそんな感じで。「淪落」は描写にモブ男(受)との絡みあり。依存傾向のあるジーノのひ弱さと不完全さを象徴する話です。王子、赤崎、モブ男(受)、世良、夏木、後藤、ジノ→←ザキ、ゴト+ジノ、ザキ+セラ。

よいお年を~ナッツへ

「みんな、お疲れさんです!夏木です!」

 え?とボクは思わずびっくりしてしまったよ?会場のプロジェクターからスクリーンに映し出されたキミの大きな顔とそのもじゃもじゃ頭。なんというか異様な迫力で、どっきりした自分が恥ずかしくてなんだか苦笑いをしてしまう。

    *  *  *

 それは立食パーティの終盤のことだった。今、サプライズとしてみんなでナッツからのビデオレターを見ている。広報女史は相変わらずヘビーワーカーだね、仕事が恋人って感じなのかな?

「えーっと。今季は俺、皆さんに多大なご迷惑をおかけしー…」

 ナッツ、久しぶり。キミの顔を見るのはあのお見舞いの日以来だね。病室に行った時、ボクの愛するナッツの家族みんなが勢ぞろいしていて、とても驚いたよ。ボクが行くって話を二人にしてくれたんだね。ありがとう。

 ボクはキミの、そしてキミの家族の悲しい顔がとても苦手で。泣きはらしたキミの顔をみながらもボクは一生懸命笑ってみたつもりだったけれど、ボクの毒舌はいつもどおりに出来ていたかい?あの時キミは一日でも早く復帰して、来季はボクをぎゃふんと言わせるくらいの成績を上げるんだと息巻いていたね。今季、もし怪我をしていなければキミは得点王争いに参加できそうなくらい好調だったのに。あんな一瞬の出来事であんな暑い時期にもう来季の話をせねばならなくなってしまった。辛かったろう?あんなに目が腫れあがるほどにキミはきっと奥さんの胸でキミは泣いて泣いて。そんなとこだね?目に見えるようだよ。

 そうやってキミは人の力を借り、自分の力に変え、相変わらずどんな時もちゃんと前を向く。ボクは嬉しくて、キミがうらやましくて、どうかなってしまいそうだった。キミは奥さんをとても愛していて、奥さんはキミをとても愛していて。そうやって泣いて笑って支え合う。それはキミのかわいい小さいレディも同じだよね?彼女はパパが大好き。キミも彼女が大好きだから。やっぱりキミは正しい人間だ。

 ボクにはキミのようにそうやって苦しみを涙に変えて吐き出して、自分を綺麗にしていく能力がない。ボクはキミ達の流す涙がとても好き。とてもとても美しいと思う。悲しい顔が苦手と言いながら、その顔を眺めて喜ぶような、そんな醜い人間だボクは。とても綺麗だと思ってしまうんだよ。人の悲しみが。ボクはそんなものが大好きなのかな?どうなんだろうね、ナッツ?よくわからない。

「こういう堅ッ苦しいのは俺苦手で、何話せばいいのか…」

 いい笑顔だ。お見舞いの日に見た笑顔とはまるで違う力強さ。キミはやっぱり、あれからも沢山沢山涙をちゃんと流して、そうやって笑えるようになってきたんだね。でも、そうやっていくら笑って見せても、キミの心に沈む涙はまだまだ沢山。まるで枯れることを知らない湧水のように溢れかえっているみたいだ。なんでなんだろう、ボクには見えてしまうんだよ、そういうものがね。キミ達の涙はとても綺麗だけれど、ボクの中の涙と一緒になって、ボクはほら、簡単に今みたいに…溺れてしまう。フフフ、ホント、勘弁してほしいね。手一杯だというのに。でも、あの時よりは少し減っているかな?キミの中の涙。もう選手としておしまいかもしれないという、あの恐怖からキミは抜け出せたみたい。あの手術は、心も体もとっても痛いものだったろう?ちゃんと乗り越えて今キミが笑うことがこんなにも嬉しい。こんなことがなければ見ることが出来なかった。広報女史にも感謝しなくちゃだ。

 病室でキミはまた俺にボールを寄越せよ!なんて、キミは言っていたけれど。キミの醜いプレイスタイルも治療して帰ってくるなら考えないでもないよ、ってボクは答えたね。でも、ごめんよ、そんなの嘘なんだよ。ボクの足はキミにボールを渡すことができないだろう。ボクはボクのこの醜い心が治りでもしないかぎり、もうプレイらしいプレイは出来ない状態だ。もうそんなところまで追い込まれてしまっているんだよ。ごめんね?

 キミがそうして懸命に治療に打ち込んでいる間、ボクの症状はドンドン悪化し視界が狭まり、すっかり無難なプレイしか出来なくなってしまったんだ。このままなら、キミがいくらすばらしい動きだしを見せても、マークを頑張ってはずしても、ボクはそれを見つけることもできなければ見つけても大きく空振りをして、キミにボールを供給することが出来ないだろう。足が動かないにしろ、動かして空振りするにしろ、どっちにせよキミが戻る頃には無様な姿を晒すことになるんだと思う。今季の終盤のボクは、マークを外す動きすら殆どしなかった。ボールがボクの足元に飛んでくるのが怖かったんだ。ボールを供給することを約束したボクは、今はキミが復帰してくるのがとても怖い。精度がなくてもゴールを決めることができるキミでも、いくらなんでも自分のところに飛んでこないボールを蹴ることなんてできないよね?

「年が明けたら、うんと、キャンプが終わった後くらいに戻る予定なので!そんときは…」

 ナッツ、怪我の後はおそらく前とは感覚が変わってしまってキミは大いに苦しむことになるだろう。けれど、また綺麗な涙を奥さんの胸で沢山流しながら打ち込んでいけば、きっとキミにはいいことがあるよ?ボクにはわかるからね、そういうことも。わかるというか、信じたい。

 年が明けたらタッツがETUにやってくる。多分彼はくるだろう。ボクにはそれもわかる。あの人はきっとここに戻ってくるはずだ。

 そしてその後。2月頃にはナッツ、キミが来るんだね?どうにもならない感じはするけれど、ボクも今回の冬のオフはイタリアに行って主治医に会ってくるよ。ダメ元でね。かつて彼とボクの決めたプランでいけば、変な話だけど最上級のベターだったりもするんだよね、この現状。もう少し、と欲をかく発言をボクがした時に、彼とボクが練り直せる新しいプランがあるかどうかはやってみないとわからない。

 特にタッツの一件はボクにとってはかなり危険な出来事なので、主治医が懸念を示して継続をとめてきたらすぐ退団手続きだ。その時はボクもキミのように、みんなにビデオレターを送ろう。サッカーではない新しい恋を見つけましたと。もうバカンスから戻りませんと、笑って見せようかな。
 キミ達にちゃんとしたお別れもできない情けないボクを、最後くらいちゃんと挨拶しにこいよ!なんて怒鳴ってる姿が思い浮かぶ。怒鳴るだけ怒鳴ったら何事もなくまた前を向いて。そんな感じで頑張っていって欲しいと思う。

「では!長くなりましたが!みなさん年末は不摂生のないように!健康に留意してお過ごしください!以上、あなた方の愛するスーパーストライカー、夏木でした!」

 ナッツ、よいお年を。