お花結び

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飼い犬と飼い主 12 【1部完】

二人が二人してバラバラに過去の思い出を思い返してあーだのこーだの考えているだけの、ジーノとザッキーそれぞれのオフのお話。二人がどんな心境で新体制を迎えることになったのか。

赤崎のオフ~清興

 犬に対するあまりにも率直な彼の愛玩の数々は、時に俺を優しく撫で付け、そして時に俺を深く鋭く突き刺したりもした。

   “キミって本当に犬みたい”
   とか

   “こんなしつけが行き届いた犬は見たことがない”
   とか

   “きっとキミは世界で一番お利口な飼い犬だよ”
   とか

   時には
   “なまじ人間の形をしているから困る。外を連れて歩いて、
    お行儀の悪い犬を飼ってる飼い主に見せびらかすこともできやしないし、
    コンクールにも出せないのがとても残念”
   とまで言われたりして

 それを言った時の彼の顔。とてもキュートで毒々しくて。さあ、傷ついてごらん?ほら、泣いてみせなよ、と言っているかのようだった。そうやって、いちいち勘違いするなよととても楽しそうにでっかい釘を刺し続けていた。度を越した悪ふざけはいっそ疎ましいものだったが、彼の“誑かさないでフェアに付き合う”という誠意自体は光栄に思っていた。それでもムカつくことはムカついた。俺はイチイチ王子の手八丁口八丁にいとも簡単に弄ばれ、その度に一喜一憂してしまう。優しく撫でられ、鋭く抉られ、もうわかったからと怒鳴りたいくらい何度も何度も振り回されて。

 ふわふわもイライラもたっぷり詰まった奇妙な俺らの会話の途中、時折王子は意味を読み取れない不思議な表情をしてみせることがあった。ほんの一瞬のことだ。目を逸らし、目を細め、あの印象的な瞳を長い睫で隠し。そんな時の彼は話していることと全く違うことを考えているような感じで。とても印象的なその仕草もまた美しく、そして俺を不安にさせた。彼の無意識によるちょっとしたその雰囲気が、言葉以上に俺を深く突き刺していた。それが彼の持つ本質的な残酷だった。

 夏のオフ前のことだっただろうか。王子はペット自慢のくだらないテレビ番組を見ながら、“飼い主って馬鹿だね、みんなうちの子が一番だって言いたがる”とデレた飼い主を腐すようなことを言った。そして続けて“そんなことを口にしていいのは、このボクだけだよ。実際に一番のペットを持っている飼い主以外があんな言っても恰好がつかない。”なんて。“ザッキー、そう思わない?”と振り向き心底呆れたように溜息をつく王子。全く、彼は時々物凄く自慢げな顔をしながら本気で馬鹿なことを言ったりしていた。

 彼は知ってか知らでか、何かの拍子にびっくりするくらい素直に好意を表現してしまう。なので俺はいつもそのうっかりとでも言っていいようなあどけない可愛さに戸惑って、咄嗟に噛みついてしまうことばかりしていた。そんな時の彼は必ず驚いたように二、三度パチパチと瞬きをして、そして少し困ったような笑顔をしてみせるのが常だった。それで更に確信してしまう。同じ台詞を口にしているくせに、それが彼のからかいであるのか素の言葉であるのかということを。
 なんの策略もなくこぼれ落ちる彼の優しい言葉とそんな仕草の数々には、いつもほんのりと美しい色がついていた。それは出てきた瞬間、一目でわかるほどキラキラと爽やかで甘い色をしていた。

 彼の日頃のトリッキーな言葉選びや戦略的な行動は本当に知的で狡猾で魅力的。それでも、なんの気なしの彼の言葉と仕草の持つ、あの色と香りときらめきは素敵なものだった。美しすぎる彼の計略と比較しても全く太刀打ちできない程美しかった。素晴らしすぎて敵わないという意味を持つ素敵と言う単語は、彼の為にあるものなのかもしれない。あんなものを常に撒き散らかしながらウロチョロ歩かれたら周りはたまったものではない。俺はいつもそんなことを考えていた。それが彼の持つ本質的な甘味だった。

 誑かしはしないといいながら、肌を重ねる毎に増していく彼の残酷と、たとえようもない甘味。彼は意識的であろうと無意識であろうと、傍に居る者すべてを翻弄せずにはいられない、そんな悪徳を背負った男だったような気がする。近づけば近づくほどに、誰のものにもならないよ?とスルスルと掴もうとした指先からすり抜けていく。そうしながら気が付くとぎょっとするほど傍まで身を寄せてふいっと気軽なキスをしてみせるのだ。
 全くつかみどころのない万華鏡の淡い夢幻のような、王子の魅惑。あんなものが彼独特の稀有なプレイの種明かしであるならば、どれだけ技術的な努力を重ねようと、きっと誰にも真似が出来るわけがない。本当にずるい人だ、あの人は。

    *  *  *

 そう、あんな人間、見たことがない。俺とは生きている次元が根本から違うような王子。そんな存在からほんの一時でも愛玩されたことは奇跡のようなものだったのかもしれない。

 王子を見ているとついそんなことに納得してしまいそうになる自分が嫌だ。だって俺は犬でもなければ、崇拝者でもない。俺はETUで彼と肩を並べてピッチを駆ける予定の、そして近い将来世界の舞台に立つ予定のサッカー選手。相手が王子であろうと、誰であろうと、俺は見上げてうらやましそうに指を咥えているのはゴメンだ。ああいう人間がいることを知ってしまったからには、同じ位置に立ってやらないと気が済まない。対等な立場になって同じ目線で話が出来るようにならねば嘘だ。
 俺はこうして何度も何度も自分に立ち返り、心を奮い立たせ。そうしてやっぱり気が付くと美しく眩しいものを見つけたかのように彼を仰ぎ見てしまっていた。そしてまた犬に収まることに甘んじそうになってしまっている自分にどうしようもない嫌悪感を感じて。焦燥と怠惰、彼といる楽しいはずの時間は最後にはずっとそういう繰り返しになってしまっていた。王子という存在は俺にとってあまりにも遠過ぎた。

 悲しくて泣いてばかりいる。

 でも俺は自分を信じることをやめないし、信じきるように今日も自主トレのためにクラブハウスに向かう。破綻した俺達の最初に見た同じ夢が俺自身の選手としての成長。俺はもう彼を裏切るような真似はしない。もうあの目が俺を二度と見ることはなくとも。