お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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鎖に繋がれて 1

2007年1月いよいよ達海監督就任。閉塞感満載だったETUに新しい風が吹き込み、それと共にジノザキ二人の関係性にも大きな変化が訪れます。公私共に大混乱!みたいな。そんな感じ。話の中で心理学系専門用語やイタリア語がちらつきますが勿論ナンチャッテで出鱈目です。王子、赤崎、椿、達海(気配だけ)など。

達海、襲来

 年明け早々、ETUに新監督がやってきた。達海さんだ。

 彼は移籍後一切ここに顔を見せることがなかったので会うのは随分久しぶりだけれど、ずっとここに居たかのようにしっくりと場に収まってしまった。サポーター達の派手な反感もどこ吹く風の飄々としたその姿。ああ、そうそう、いつもこの人はこんな風に、と相変わらずな姿になんだかホッとした。彼の持つこのしなやかな強さの持ち味について、俺は昔から充分知っていたはずだった。にもかかわらず、自分でもわからないうちにすっかり忘れていたらしい。

 かつてのETUの英雄であり問題児でもあった達海猛。俺は彼のことが昔から好きだった。子ども相手に全然偉ぶらず、大きなことを言う俺に向かってまるでチームメイトやライバルのような感じで受け答えをしてくれていた。大人なのか子どもなのかよくわからない、不思議な雰囲気を持つ人物だった。近寄りがたいほどのリスペクトを呼ぶ素晴らしい選手でもあったし、近所の気のいいアンちゃんのような妙な身近さや親近感もあったりした。面倒を見てくれていたのか遊んでいただけだったのか、ワイワイガヤガヤ、しょっちゅうあの人も交えてジュニアのみんなと一緒にボールで遊んでいた覚えがある。めちゃめちゃ楽しかった。

 俺はジュニアにいた頃から思っていた。達海さんって随分変わった人だな、と。けれど、練習が始まってみれば過去の記憶以上に奇妙奇天烈な感じだった。
 後藤さんは去年、絶対にお前達海のこと気に入るから!と王子に対して太鼓判を押していたけれど、こうして実際にやってみると俺も改めてそう実感する。王子は奇妙で愉快なことが大好きだから、この風変わりな新体制についてかなり楽しめるに違いない。なんというかうまく言えないけれど、おそらく達海さんと王子は同じ種族の生き物なんだと、そんな気がする。

 王子のあの不可思議な後ろ姿を見てから始まった例の焦燥と不安はすっかり消えてしまった。年が明けて早々この新体制の起こす気持ち良い風のおかげで、俺の中から瞬く間に払拭された感じだ。毎日が面白いし、終わった直後からもう明日の練習が待ち遠しくて。俺は今、日々ワクワクとする生活を過ごすようになっていた。この気持ち良さ。サッカーにとても集中している証拠だった。

    *  *  *

 俺は入団してからは基本的にサブ組で、練習も含めて王子とボールを交し合うことがほとんどなかった。交代要員としてピッチにあがることもあったけれど、敗戦処理かメンバーを落とした試合かそんな感じが非常に多く、だから王子とガチで最初から試合を組み立てた経験など一度もなかった。
 達海さんは昔からよくパズルのように個性を組み合わせるターンオーバー制のチーム作りの面白さについて話をしていた人だ。きっと俺個人としての固有の実力を認めさせれば必ず願い続けていた日がやってくる。それも近日中に。そう思えるだけで気持ちがワクワクしてくるし、練習もヤル気が出てくる。成長して一時でも早く同じピッチに立つ存在になって、ボールを介してまた彼と触れあおう。俺は王子の傍にいたい。欲張りだから出来れば公私共にとなればいいけれど、まあ贅沢は言わない。同じチームにいる以上、俺自身の実力が認められてしまえば彼自身どうにも避けようもないことだろう。ともかくこのことに関しては俺はちっとも諦める気なんてない。
 早速練習の初日“お前らはレギュラー候補だ”とか言われて高揚したこの感覚。震える程興奮した。俺は今年、この感覚でスタート出来たことを物凄く幸せに感じている。

    *  *  *

   一日でも早く王子に会いたい。そして会わせたい。

 思えば俺は王子ともう2年近く一緒にいる。なのに彼が嘘偽りなく絶好調だと笑っていた記憶が一度もない。なんだかんだ言いながら、不調でもあれだけのパフォーマンスをみせてくれる人だったから変化が結構楽しみだ。閉塞と退屈が嫌いで刺激を好む王子ならきっと、この苦痛を伴う大改革の環境をさらりと明るく笑って大いに楽しんでしまうことだろう。俺の大好きな達海さんと一緒に昔ちょっとだけ体感したことのあるあの世界。俺は日に日に、このチームであれを王子と共に感じたいと熱望し始めていた。ずっとずっと俺の追っていた思いというのは、結局そういうことだったのかもしれない。ずっとずっと、世界に行かねば手に入らないと思っていた、俺の本当に欲しかったもの。

 あの人は案の定今年もオフ明けすぐの練習には顔を出さず、後藤さん達が電話を掛けても全然連絡がつかないらしい。ったくあの馬鹿王子、今頃どこにいるのやら。彼こそ一時でも早く達海さんと会うべき人間だというのに。そう、ここに来て達海さんと会いさえすれば王子はきっと。本来彼自身が持っているはずの自由に飛び回る力を手に入れることが出来るというのに。

 まあ、今はそれでもいい。あの人のことだ。年明け早々30m走を何本も走らされるなんてまっぴらゴメンだろうからね。