鎖に繋がれて 1
2007年1月いよいよ達海監督就任。閉塞感満載だったETUに新しい風が吹き込み、それと共にジノザキ二人の関係性にも大きな変化が訪れます。公私共に大混乱!みたいな。そんな感じ。話の中で心理学系専門用語やイタリア語がちらつきますが勿論ナンチャッテで出鱈目です。王子、赤崎、椿、達海(気配だけ)など。
ジーノ、到着
「ってーな!!ファウルだろ!今の!」
「はっ、テメエのフィジカルが弱えんだよ、バアカ」
「ルールも知らねぇのか、このハゲ!」
久しぶりに王子に再会出来た俺は張り切っていた。昨日の様子からも王子はやっぱり達海監督のことを気に入ったみたいだ。絶対気が合うって俺も思ってたから、案の定でとても嬉しい。このETUは確実にいい方向に変わっていくだろう。とてもワクワクした。
年明けの王子は昨年同様最初は個別メニュー。1年前、彼は2月ぐらいまで俺のことを無視していたことを思い出す。今も無視されてる。でも今年は違う展開にしていくつもりだ。俺はあの時のように王子を待たない。今年こそはレギュラーを勝ち取り、自分から彼に近付いて無視できない存在に絶対になるつもり。後輩も入ってきて俺はもうちっぽけなルーキーなんかの立場ではない。もうすぐ3年目を迎えチームを主力として支える立場になり始めてもおかしくはない。王子が2年もかけて手塩にかけて育ててくれた俺だから、開幕までに絶対チームに必須な男に成長してやる、そう意気込んでいた。
* * *
「で、キミは?」
「赤崎ですよ!」
正直驚いた。昨年末あれほど俺を無視していた王子が、監督の挑発で3対3をやるというのに自ら俺をメンバーに選んだからだ。表立ってこうして直々に選手として交流をするのは初めてのことだ。わざわざ名前を忘れたフリをしたり屈折した態度は見られたけれど、今までとは全く違う彼の大きな変化に俺は戸惑いと喜びを同時に感じていた。
「ではそろそろキミ達の役割を教えるよ。ボクの引き立て役。王子の犬になってもらう」
喜びもつかの間、心が一気にざわついた。俺は彼の飼い犬になぜか戻れたようだけど、隣にいるルーキーもまた彼の飼い犬になったからだ。本当に大きく王子は変化したけれど、しすぎぎて俺には彼の中でなにが起っているのかさっぱりわからない部分が沢山生じていた。
それでもやっぱり夢のような時間だった。王子が俺に次々に指示を出し、驚くほどのキレ味で椿にボールを供給し続ける。それはまぎれもなく、俺が何度もスタジアムで、そしてテレビの前で張り付くように見つめていたETUの貴公子そのままの姿だった。
「あんなに走りまわってくれるとさ、パス出すほうも楽しいよ」
王子が笑っている。去年のハリネズミのようだった姿がまるで別人のようになんて綺麗で優雅なんだろうか。でも、見惚れる暇もなく俺達2人は本当に彼の飼い犬のように走りまわされる。息が上がる。でも彼が呼ぶ度、俺を見る度、体が勝手に動いてちっとも怠ける暇もない。そんな王子の指示の数々。でも感じたこともない、この陶酔!これが王子と一緒にプレイをするということなのか?
「ハッハー!絶好調!見てたかい?タッツミー!キミ達ご苦労!まあまあよかったよ!」
呼吸が苦しくて返事も出来ないけれど、“絶好調”を口にする王子の姿を目の当たりにして俺はゾクゾクとした快感に身を包んだ。かねてから一番見たかった姿。しかもそれを見たのは、今、初めて俺と一緒にプレイらしいプレイをした時のことなのだ。だから俺は尚更王子の満足が嬉しく、最高に幸せだった。入団してこの方、彼がこんなに楽しそうにプレイしている姿を見たことがない。あらためて、今年確実にETUは変わる、と強く感じた。
今年こそスタジアムの歓声の中で
あんたと思いっきりプレイがしたい
一分一秒でも早く、そして一分一秒でも長く
俺は今季こそはレギュラーに定着してやる
だから、待ってろよ?王子
俺は2月下旬に開催されるプレシーズンマッチに向けて、決意を新たに練習に打ち込んでいくことにしたのだった。
