お花結び

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鎖に繋がれて 2

冬のオフ~キャンプのジーノサイドのお話で前の「鎖に繋がれて1」と対になります。ジーノ捏造設定てんこ盛りでこの先ドンドン厨臭くなるっていうか恰好悪さが増していく予定でして本当に恐縮です。登場人物は王子、赤崎、後藤、椿、達海、オリキャラで主治医とかジーノ母とか。次の「浜辺にて」はこの2の中のキャンプ合流直前のジーノの生活の話ですがジノモチのケがあるのでニガテな人は読み飛ばし推奨。 

傍に居て

 練習時間中、ジーノは気が付けば達海と椿を視線で追っていた。全然違う個性、全然違うプレイスタイル。なのに何かを感じていた。でも思考回路が故障したままのジーノだったので、いつものように冷静な解析ができないでいた。腑に落ちない。自分は何を感じているのか。モヤモヤが引っ掛かり、気持ちが悪かった。

 ふと気が付くと赤崎の視線が自分に向いていた。最近それが不愉快だった。自分に隷属する道具は自分が用事のある時だけ自分を見てくれればいい。ジーノはそんな気持ちの中で、少し掴みかけてた椿への思いが霧散していくことを見送った。不安定な傲慢の王子は、赤崎の気配を全身に感じていなければそこに立っていることすら出来ない程ひ弱だったが、赤崎にはそんな心理的依存を持つ頼りない自分からは目を逸らしていてほしかった。傲慢な王子は傲慢だというのがふさわしいほどセルフィッシュで、とても自分勝手だった。

    *  *  *

 赤崎がすぐ傍に居るので、ジーノは椿に近付くことが出来た。ジーノは椿に興味があったが、赤崎がいなければ一緒にプレイすることも話すことすら不可能だったりしたのだ。赤崎の気配に寄り掛かりながら、そっと椿の髪に触れてみる。サラサラで少し思ったより硬かった。

(あの子の髪はもっと短くて…ツンツンしてる感じがするけど意外に柔らかくて…)

 ジーノは椿の感触が自分の思い浮かべるものと違うのが少々残念だった。また、緊張しながらもちょっとも避ける様な素振りを見せないのが物足りなかった。だが、それでも素直で指どおりの良い髪質が気持ち良かった。

 触れていると少しずつ椿の本質が見えてくるような気がした。自分を卑下するちっぽけな小動物。椿は自分を知らない。もっと感じたかった。自分を知らない椿の本質。怯える素振りで逃げない豪胆。膜が張っているかのように曇った先に見てくる、これは猛々しい闘争本能?もう少し見たい。もうちょっと。ジーノが椿の髪を玩びながら久しぶりに集中していく中、遠慮がちに椿が小さく声を掛ける。

「あ…あの、王子…」
「ん?」
「休憩、終わりみたいッス」
「…あぁ…」

 我に返り慌てて周りを見渡す。赤崎は横でまだ給水していた。その姿にホッとしてジーノは、赤崎のボトルを取り上げては一口水分を口に含みこう言った。

「じゃ、行こっか」
「あんたなんでいつもわざわざ俺のを取り上げて飲むんだよ!地面にいくらでも転がってるッショ?」
「ハハ」

 ジーノはこうして赤崎の声を堪能しながら、ピッチに戻っていったのだった。

    *  *  *

 また別の日の休憩中、ジーノはまた気軽な風情で若手の輪の中に紛れ込んでいた。以前は滅多にない光景だったが、最初恐縮していたメンバーも今ではすっかり慣れっこになりつつあったりしていた。

「どうしたの?バッキー」

 浮かない顔をしている椿に気が付いて、ジーノがそんな優しげな声を掛ける。実のところジーノは言葉とは裏腹に少々不愉快な気持ちでいた。少しずつ晴れ始めていたと思っていた椿の周りにある膜のようなものが今日はとても分厚く感じられ、精彩を欠くプレイは全く面白味が欠けていた。こんなつまらないものは飼い犬にしておくのも鬱陶しい、そんな傲慢な心の動きだった。

「俺、7番なんて元々びっくりだったんですけど、ETUの7番ってただ7番ってだけじゃないこととかも全然知らなくて。そんな重大な意味があるなんて、俺…」

 ずっと返事をしはぐっていた椿がようやく訥々とジーノに話をしはじめた。ジーノは心の中で大きな溜息をついた。赤崎がなにやらETUの7番というのは、などと事情を説明していた。だがジーノはそんなものはすっかり上の空で聞き流し、椿にこう切り返した。

「バッキー、やなの?その番号」
「あ…あの、嫌っていうか…荷が重いっていうか…」
「重たい…かぁ…」

 ジーノは椿の胸元にある番号に触れた。懐かしい、7番。ボクの憧れの。ジーノは達海のことを思い浮かべ、この番号が自分と共にピッチを駆ける世界を夢想しはじめた。

「7番、いい番号じゃない」
「よすぎるのが問題なんですッ!」

 憧れの、7番。ずっとずっと長い事それを探し追い続けてきた人生だった。ジーノは今欲しかったそれが見つかったかのように、何の考えもなしにポツリとこう言った。

「…じゃ、交換しよう?7番にどんな意味があったってボクは全然に気にならないし」
「え!?」

 自分でいいながらジーノは自分で驚いていた。子どものような錯覚の世界を楽しむ自分の発言。憧れの選手のサイン入りユニホームを手に入れれば自分が強くなれる様な気がするような、そんな愚かなあどけなさ。馬鹿げた、それでも情けないほどに可愛らしいちっぽけな夢。そんなものを自分の中に秘めながら暮らしてきていたなんて、この瞬間まで自分で気が付いていなかった。今ここにいるのは、大人のふりして思いっきり背伸びする、そんな小っちゃなジーノだった。そんな未成熟のままの自分に向き合う瞬間も傲慢な王子にとっては楽しい出来事だった。冷静なジーノにはいたたまれないものであったとしても。

「番号なんてただの番号さ。でも気になるならさ?」

 頂戴よ、とおねだりするような顔でユニホームの裾を掴めば、椿は慌ててジーノの手を上から掴んでこう言った。

「え!そ、そんな!駄目ですよ!」
「どうして?」
「俺が王子の10番を譲り受けるなんてとんでもないッ!」

 この遊びは面白い。そして椿の反応もまた可愛いらしく楽しかった。傲慢王子は調子に乗ってもう一声。

「そんなことないよ。言ったろう?番号なんてただの番号なんだし。レジェンドの意を持つ7番と単なる10番なら、まだ10番の方が気楽でしょ?」
「気楽じゃないですよ、全然ッ!」
「そう?」
「当たり前ですッ!」
「変な子だね」
「へ…変なのは王子のほうですよ!このチームで10番をつけられる男は王子しかいませんッ!俺なんか無理ッス!」
「大丈夫だよ、キミなら」

 おかしくて仕方がなかった。大好きな選手のグッズをおねだりしているかのような自分。心の半分が不全になっているジーノには、目の前の椿がまるであの日河川敷で出会った達海のようにさえ見え始めていた。タッツ、ずっと探してた、ボク寂しかったよ?とそんな風に心でつぶやく。たった今、自分で作り出した錯誤の刻は、甘く切なく楽しいものだった。

「何無責任なこと言ってンスか!あんた!」

 赤崎の強い言葉に思わずドキリとして我に返る。その瞬間子どものジーノは泡のようにパチンとはじけて消えてしまったので、悪ふざけを叱られた子どものように少し悲しい気持ちになった。

「あんた10番にこだわり持ってたはずだろ?今更あんたが7番もらって一体どうするつもりだよ!」
「…何?どうするって…どうもしやしないよ」

 憂鬱な気持ち。言い訳っぽいことをし始める自分。惨めだった。しょぼくれた自分を見られたくなくて、無理して無表情を心がける。少しだけ左手を握りしめて堪えた。そんなきつい言い方しなくてもいいじゃないか、ちょっとふざけてみただけだよと、胸がキュッとしてとてもつらかった。

「ん?何がいいたいの?」

 口調はあくまでも丁寧にのんびりやんわりといった感じで。逆切れに近い感情が自分の中に渦巻いて辟易。そうだよ、わかっていたよ、今ボク馬鹿なことしたよね。そんな風に大人げないほど不貞腐れた様な態度をとってしまう。

 理路整然と正論をぶつけてくると思っていた赤崎が何故かそのまま黙り込んでしまったのでジーノは不安になった。しくじったろうか?惨めなボクを知ってキミはあきれた?そう思った。急にバランスを崩す心。赤崎が行ってしまう?自分は赤崎が傍に居ないと何もできない木偶の坊なのに、やめて、行かないでと叫びだしてしまいそうになる。握りこんだ左手にはじっとりと嫌な汗が滲み始めていた。

 そんな中、練習開始の号令が響く。それを耳にしたジーノは反射的に優雅な王子の仮面をかぶった。

「番号の交換だなんてほんの冗談だよ」

まだ誤魔化せる範疇かも。そんな淡い期待を胸に、急激に態度を軟化させてニッコリとした笑顔で肩を竦めた。まだ間に合う、はず。心の半分が死んだように眠っている。込み入ったことが考えられない状態のジーノは表層に浮かぶ形にならないあやふやな思考を行動指針に、憐れなほど狼狽しながら言葉を紡いだ。

「ボクは10番が好き。7番を身に付けるなんてとてもじゃないけどボクには…」

 何を言い出してるんだろう自分は、と思考が言葉を追いかける。また言葉を話す自分と考える自分がずれ始めていた。ジーノはまた自分で話している言葉を耳で聞いて初めてその意味を咀嚼せねばならない羽目になった。自分は今“ボクには7番はふさわしくない”と言いかけたようだ、と分析し、立ち去ろうとしている赤崎が気にかかって慌てているから心の不安と自分の卑屈が零れたのだろうと推察した。一拍も二拍もずれたタイミング。ちぐはぐな自分。

「そ!そうですよね?王子は10番が似合います、誰よりも!」
「…そう?別にそんなことは…」

 でも幸い椿は不自然なジーノの状態に全く気が付くこともなく、上手に曲解しなんとか話の流れが違う方向に進み始めているようだった。

「いえ、似合いますよ?王子。王子は10番ですよやっぱり。ぴったりだと思います。見ているとなんか安心するし」
「…ねぇ、それを言うならバッキー。ボクだって同じように…7番ってキミにぴったりって感じがしているんだけど」
「え?俺なんかッ!」

 やっぱり背を向けて歩き出す赤崎に気持ちが奪われて、ジーノはもはやなにがなんだかよくわからない状況に陥っていた。

「そうだよ?すごく素敵だ。とてもよく似合ってる」
「いや、素敵とか全然!」
「素直に聞いてよバッキーったら。ボクはキミの7番、とても好きだよ?ぴったりだと思う」

 これは本当。椿には7番が良く似合う。でも今はもうそんなことはどうでもよかった。勝手に口をついて出る反射的な言葉。そこには何の思惑も策略も乗ってはいなかった。いや乗せるなど不可能なほど思考は遅れをとり始めていた。

「キミが違う番号になっちゃったらボク寂しいよ」
「でも…」
「番号は自分からは見えないんだし、気にすることないよ。ね?」
「……」

 空虚な言葉。たわいない、心の入っていない投げかけ。無意味でフワフワ空を舞う台詞。今不全な心が追うのは可愛い飼い犬。自分には赤崎が必要、どうしても。傍に居ないなんて許さない。そんなものだった。でもその思いが口をついて出ることはなかった。遅れる思考は現実に干渉する力を持たなかったから。

「いいかい?キミは7番を着て、そしてピッチを自由に駆け廻ってプレイするんだ。ボクは10番を付けてキミのそういう姿をずっと見続ける。ずっと…ずっとね?どうかな?そういうの」

 赤崎が必要。自分は椿の7番を、達海の7番の幻影を、キミ無しでは見つめることすら怖くて出来ない。それを思うと少し足が竦んで上手く歩が前に進んでいかない。そんな風に赤崎の背をみつめるのに、その背は少しずつ小さくなっていく。赤崎が少しずつ足を速めるせいで、徐々にジーノと距離が離れてしまうからだった。どうにかなってしまいそうだった。

「王子…」
「キミがピッチ上で10番の存在に安心するのと同じように、ボクは7番を見て安心できるんだよ。さっき言ったろう?自分の番号は自分で見えないんだよ。ボクにはボクを安心させてくれる10番がいない。だからボクには7番が必要なんだ」
「あ…」
「バッキー、そんなボクの気持ち理解してくれたら…とても嬉しいんだけど…駄目かな?」

 椿はジーノの言葉に元気を取り戻し始めていたが、言葉をかけ続けていたジーノはフワフワと地面が揺らいでとてもまともに立っていられない感覚の中にいた。

   ねぇザッキー、聞いて欲しい
   ボクがプレイを続けるためにはキミという踏み台が必要だ
   どれだけキミが不快でも、そうやって逃げ出そうと走り出しても
   傲慢なボクはキミを絶対手放さない

 早く来い!と遠くから檄が飛ぶ。そんな掛け声のせいなのか、赤崎は逃げ出すように全力疾走でその場から走り出してしまった。ジーノは同様に縺れる足を悟られないよう、ことさらゆっくりと声のする方向に歩いていく。離れていく赤崎の背を絡みつく視線で執拗に追いながら。