お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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鎖に繋がれて 3

キャンプが終わってから開幕までの練習風景。練習なんで選手みんないますが、しゃべっているのはほぼジノザキ二人だけです。前回UPしたバレンタインデー物は一応時系列的には「逢魔時」の手前あたりになります。ちなみに「幻9」と「幻10」の間に東京V戦が挟まっています。

焦燥

 ある日、遅刻してきた男がダラダラとダルそうにしているので赤崎がなんとなく話しかけると、ジーノは

「なんだか寝不足で」

と言って生あくびを一つ噛み殺した。昨日は午前練、今日は午後練。平日ながらたっぷりとプライベートタイムが挟まっていた。赤崎は少し機嫌を悪くしてしまった。寒そうに竦めた首につけている、あのネックウォーマーの陰にキスマークの一つでもついていそうな気がしたのだ。

「どうしたの?」
「別に」

 赤崎が無愛想に返事をするのも気にかけずに眠いジーノはうーんと伸びひとつしてからこう呟いた。

「さて、今日もお仕事お仕事」

しかしその途端、言葉とは裏腹に心底ダルいとでもいうように大きな溜息をついて、

「でも疲れたぁ」

とジーノは堂々とベンチに座り込もうとした。その様子に気付いた達海は男のお尻をぺチンと叩いて、

「ほれ、お仕事お仕事!」

とけしかけた。うえぇ~、とでも言いたげな表情のジーノの姿も含めて全部、それは傍から見ていてなんとものん気な光景だった。

 実はこの怠惰な男の怠惰にはそれなりの理由があった。心身ともに不安定な中でも毎日ずっと自主的な負荷トレで自身に追い込みをかけ続けていたのだ。もうクタクタになるほど頑張って、苦手な栄養補助剤を使ってまで。だが、性急過ぎるほど必死で体作りに努めていたにもかかわらず、残念ながら仕上がりは思うように進んでいなかった。努力しようにも集中力は勝手に乱れ続け、とても効率的とは言えないやり方に陥ってしまっていたからだ。
 不摂生過ぎるオフのツケがまわってスタミナも筋肉も有りえないほど落ちていた。こんなことは初めてだった。ウエイトが落ちた分、今までにない軽さはあったが当然正面から当たれば呆気なく飛ばされてしまう。躱し続けるにもとても90分間動ききれるわけがなかった。

 ジーノは今すぐ達海の指示通りに動ける自分になりたかった。指示されるタスク。その戦略的な意図は自分が最も楽しめるイメージにも似て、短時間なら維持できる今の体のこのキレを、なんとか少しでも伸ばしていきたかった。だがもう開幕戦まで残された日数などもう数えるほど。これではとても無理だ。使い物にならない。そんな、強い強い、焦燥の中にあった。

 嘘が上手なジーノなので、ヤル気が合ったりなかったりするその態度に、周りはいつものとおり

「ったく、遊び過ぎだ!開幕までに夜につかってるそのスタミナ、ちゃんと昼にも残しとく練習しとけよ?」

などという揶揄を続け、ジーノはジーノで、

「フフフ、失礼だなぁ、ボクは毎日この上ないほど真面目な生活をしてるよ?」

などとふざけた調子で返事をする。なので、寧ろ逆にジーノの言い分を、その言葉を、誰一人信じる者などいなかった。不必要な画策なく自身の必死さの隠避が成立する現状は、今のジーノにはとてもありがたいものだったりした。

    *  *  *

 グダグダだったのは最初だけで後半尻上がりに調子を上げたジーノは今日もいつも通り恐ろしいほどキレたプレイを周りに見せつけていた。

「タッツミー、ボク、今日ちょっとシュート打ちたい。いい?」
「ん~…」

 ジーノがにこやかに笑って手を振ると、達海はあやふやに手を振り返した。

「というわけだからよろしく~」

 ジーノはコート半分を使用する15分ハーフの練習試合の最中にもかかわらず、まさにシュート練を行っていた。パスがないとわかっていても集中したジーノのフェイクはとても高度で、頑張ってマークに付くもかなりの確率で躱されてしまう。コースは切れてもシュートそのものを完全に阻止することはナカナカ難しく、食らいつても結局何本か決定的なシーンで打たれる羽目になった。その強引なまでのシュートはどれも枠を捉えるものだったが、ジーノは納得いかないのか途中からテクテクと歩きながら考え込むような素振りを見せ、最後にはヤル気のない態度で呆然とピッチに佇んだ。

 5分間のインターバル。達海はジーノを呼び止め叱るでなくなにやら細かい指示を与えていた。その拍子にパッとジーノの顔が明るくなって、後半の15分はもう相手チームが可哀そうなほど散々な目に合される結果となった。まるで友達のように仲良くじゃれて見える二人だったが、やはり達海はプレイヤーの意図を読む力を持つ、紛れもない有能な指導者であった。

「やー、参った。今日はちょっとはしゃぎ過ぎちゃって」

 練習終了後クラブハウスに戻る途中、赤崎の横を来た時と同じようにダラダラとダルそうに歩いているジーノはなんとも満足そうに笑っていた。

    *  *  *

 実はこの日の早朝、ジーノに一通のメールが届いていた。怪我をして離脱中の夏木からだ。

 たわいない日常の報告の中に、開幕には間に合いそうにないという簡単な一文があった。間に合わなくなってしまった具体的な理由を知るジーノは馬鹿な真似をしたからだとキツイ返信をしてはみたものの、再発による復帰時期の遅延は強い絶望を呼びジーノの体を更に凍り付かせた。それでも、今日は今シーズン開幕への不安を解消すべく無理矢理テンションを上げて練習に参加していたのだった。

 誰にも、何も言えない。耐え難き不安と焦燥。見えない未来。途切れ途切れの集中力。そんな世界の中にいるジーノに達海が声をかける。逃げ出したくとも何かにすがりたいジーノは恐怖の中で恐ろしい魔物の接触を受け入れる。今、自身の成長には達海による救いが必要不可欠で、しかしかかわりを増やせば増やすほど負担は上昇した。無茶をすれば板挟みによって内部に何が起こるかなど考えるまでもなく、なのに至極当然のこの結末を予想しながらも身動きが取れないほどにジーノの疲弊はピークを迎え始めていたのだった。完全に悪循環だった。