鎖に繋がれて 3
キャンプが終わってから開幕までの練習風景。練習なんで選手みんないますが、しゃべっているのはほぼジノザキ二人だけです。前回UPしたバレンタインデー物は一応時系列的には「逢魔時」の手前あたりになります。ちなみに「幻9」と「幻10」の間に東京V戦が挟まっています。
幻とのつきあい方8
ああ、またこの夢。
今回は雪の結晶ではなく、しとしとと細かい透明な雨が降っていた。足元には水たまりがあちこちに。落ちる雨が波紋になって、沢山のリングが次々に出来ては消えていく。
前にここに来た時、王子に自分のこの溢れる思いを伝えようとしたことを思い出していた。そう、あの時王子はそれを受け取ることを拒否した。空から落ちる破片も、どこからともなく響いた「やめて!」という声も、両方とも拒絶だ。けれど勝手な俺は勝手に腹を立てることをやめられなかった。今日の彼の態度。腹が立った。
「ックソ!」
でっかい声を張りあげて、どこにいるかもわからない王子に話しかける。
「最近何やっても俺に文句ばっかりで!わかってるよ!俺がまだまだだってことはわざわざ何回も言われなくても!」
声が反響してあっという間にもとの静寂。王子、返事をしてくれない。どこにいっちゃったんだろう、俺の王子。ここはとても寂しくて心細い。
「見てろよ!絶対、負けねぇかんな!!おい!返事しろよ!王子!」
俺はきょろきょろと猫のぬいぐるみを探す。膝を折って手探りで水たまりの中も探す。浅い水たまり、深い水たまり。こんなに沢山あってはとても探しきれない。姿を変えられるならでっかい大仏くらいのサイズになって、どこからでも見えるようになってくれよと愚痴をこぼす。
王子が練習に合流すればぬいぐるみも見つかると思っていたのに、あてが外れたことに悲しくなる。甘い再会など勝手な思い込みで、ここはとっても寒くてやりきれない。服にもスパイクにも水が染み込んで中までぐしょぐしょだ。
とても冷たいよ、クソ王子。空調管理くらいちゃんと。どうせなら温泉でも。馬鹿なことばかりブツブツ呟いてみる。でもそれもまた結局独り言にか過ぎず、寂しくて胸がきゅうっと締め付けられる。
ここが寒ければ寒い程、王子の部屋のあの広いふかふかのベッドの中が思い出された。あそこで今すぐ、何時間も何時間も二人でゆっくり抱き合って過ごしたい。足と、腕と、指も舌も体のなにもかも全部、どの部分がどちらのものなのかわからなくなるほど絡ませたままの状態で。離れられないくらい一緒になって。王子の優しいトーンのあの歌が聴きたい。
もう優しい王子がいない。どこにもいない。この夢の中では、彼が触れてくれない自分の全身が、雨と風と寒さに晒され擦り傷を負ってしまったかのようにピリピリチクチク痛んでいた。王子を探す。見つからない。もう諦めるしかないのかな。
そう考えた途端、王子の甘いキスの体感のような、あの甘い歌の響きのような感触がふわりと体に舞い降りた。優しくってうっとりする、あの全身がすっかり王子に包み込まれて溶けていく感触。そう、これはあのすごく官能的な王子の…
泣いているの?どうしたの?
どこにいるの?ザッキー、二人一緒にまた笑いあいたい
ボクにとってはキミとのあの時間がなによりも
なのにキミに会えない…どうしよう…
ボクが迷子で見当たらないんだよ
困っちゃったな、どうしよう…
ああ、これは本物の王子の声!驚いて大きな声で彼を呼ぶ。いけない、彼を驚かせてはまた俺はこの世界から…。
* * *
目が覚めた俺は夢の中と同じように泣いていた。
枕に丸い大きなシミができていて冷たくて。これが夢の中の水たまりの元だったのかと溜息をつく。そして自分に都合のいい夢を見てしまった自分にも溜息をついた。
本当に全く夢みたいな夢。優しい王子の声。ご都合な夢で虚しい独りよがりをやり始めた自分にガッカリしたけれど。それだけでなく、迷子の王子もまた泣いていたので、そのことが俺をとてもつらくさせた。俺は自分が勝手に作り出した幻の可哀そうな王子を、なんとか幸せにしてやりたいと思っていた。
