お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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鎖に繋がれて 3

キャンプが終わってから開幕までの練習風景。練習なんで選手みんないますが、しゃべっているのはほぼジノザキ二人だけです。前回UPしたバレンタインデー物は一応時系列的には「逢魔時」の手前あたりになります。ちなみに「幻9」と「幻10」の間に東京V戦が挟まっています。

逢魔時~ごっこ遊び

 突然のキスの予感にいつもの如く凍り付くようにその身を強張らせていた赤崎だったが、ふっと我に返ってジーノを振り払うように大声を上げた。

「ッめろよ!」
「…ッた」

 軽く突き飛ばされた形で離れていくジーノの表情もまた赤崎の視線を拘束するのに十分な力を持っていた。ただしその美しさは、いつものように艶やかで強引なそれではなく、たった一晩で咲いては散る怪しくも儚げな月下美人のようなものに思えた。

「な…何すんだよいきなり!」

 パサリとロッカーの壁に肩に当たってジーノが片眉をひそめながらびっくりした、とでも言うように驚いた顔をしている。そして蒼白な顔色に浮かんだ色づく美しい唇の赤さが赤崎に激しい動悸を呼んだ。初めてジーノに筋肉を褒められたときも、初めて手淫された時も、未だかつてあらゆる彼からの接触でこれほどまで赤崎を驚かせたことはなかった。二人はこれまで様々な性的な行為を重ねてきてはいたが、赤崎がこんな気持ちになったのは初めてだった。体の芯がしびれる欲情。まさにそういった異様な刺激だった。そう、違和感だ。誰だこれは?

 戸惑う赤崎をよそに、素知らぬ風情でジーノは囁く。小さく小さく、まるで独り言のような声で。

「何するんだってそれはこっちの…ボク今なんか変な事した?」
「しただろ!こんなとこであんたいきなり!」
「ポンポン怒鳴らないで」

 赤崎はハッとした。ジーノの話す声には張りが一切なく、聞き取るのも難しいくらいにひそやかだった。ほんの些細な風でさえ散ってしまう花のようにあまりに繊細すぎて不安定で、また、その唇も真っ赤に染まって見えたのが嘘のように血色を失い真っ白になっていた。そのことで、ジーノに何か異変が起きているのではと体調的な心配をしていたところだったことを思い出す。

「充分変な事だろ?何考えてんだよ今更こんな…」

 トーンを落とそうとしたことで、声が震えた。しゃがんでいる自分の膝も笑っているかのように力が入らない。そのまま床にへたり込んでしまいそうだった。

「…何?変って…もっとゆっくり、ちゃんとしゃべってもらわないと今ボクちょっと…頭がボーっと…何したって?」
「何って、あんた俺に今…以前ならともかく俺らはもうそんな」

 細い声で話すジーノの声を聞く自分までなんだか声を潜めてしどろもどろな話し方になってしまう。赤崎は、なにやってんだ落ち着け!と思いつつ冷静を装って立ち上がった。ふらつくのを懸命に誤魔化しながら。

「なんだよその顔。キスしようとしたんだろ?なんのつもりだよ」
「…したの?キミがキスを?ボクに?…」
「してねぇよ!しようとしたのはあんただろ!」
「なに嘘を…」
「嘘じゃねぇよ!」

 なにをいいだすの?とでも言わんばかりのジーノの間の抜けた受け答えに、赤崎はどうも調子がくるってしまう。あまりにも平然と白々しいことを言い放つジーノに、まるで本当にさっきの情景を錯覚にすら思い始めている自分を振りほどくように声を荒げた。

「あんたがいきなり!だから今俺はなんのつもりだって聞いたんだろ!?」
「… したの?ボクが?」
「当たり前だ!」
「ホント?」
「ホントに決まッ!」

 どうも様子がおかしい。ぼんやりと虚空を見つめながらジーノは腕を軽く組み、自身の唇を長い左手の人差指でゆっくりと撫でて考え込むような素振りを見せた。ほんの少し開いた口元からちらりと除く舌先は赤く濡れ、まるで自分の指先の側面を利用しながら一生懸命先ほどの幻のキスを思い出そうとしているかのようだった。その卑猥な情景に赤崎は言葉を失う。なんだろう、これは?明らかに変だ。誘惑を試みるときの飼い主はその強烈な拘束力を持つその視線によって赤崎を凍り付かせてきた。だというのに、まるで酩酊しているかのようにうっとりとした表情を浮かべる目の前の男の視線は全く自分をみておらず、何しろその印象があまりにも弱弱しかった。それでも根こそぎ取り込まれる。体が動かない。

「……」

 立ちすくむ赤崎の目の前にはロッカーにへたり込んで項垂れるジーノの頭。考え込む姿に危うさを見た赤崎はただただジーノの発する言葉を聞き逃すまいと耳を傾けるばかりだった。返事のない沈黙の時間、その耳はただただ室内の秒針のカチカチとした無機質な音と、激しく打つ自身の心音を拾い続けていた。

    *  *  *

「なんのつもり…って?」

 待ちに待って、やっと聞こえたのがそんな一言。

 だが、その直後のちょっとした沈黙の後に来たのは先ほどと同じ魔の時間だった。前髪に見え隠れする虚ろ色した伏し目がちの瞳が目の前に佇む男の体を舐めるようにゆっくりと足元から這い上がり赤崎の瞳に到着する頃には、ジーノの顔には魔物のような微笑が浮かんでいた。

「なんだと思う?」

 情欲に潤んだ目だった。飲み込まれてしまう、と思わず身構えた赤崎だったが、二人の視線は今互いを見ているはずなのにジーノの焦点は目の前の男を通り過ぎて、やはり虚空を見つめていた。目の前の男はすぐそこにいるはずなのに気配が薄く、なんともざわざわとした違和感を感じる。気持ちが悪かった。まるで現実味がない世界に放り込まれてしまったような、居心地の悪さがあった。

「それを俺が聞いて…」

 落ち着かない違和感の世界の中で、やっとのことで小さく返事をする。目の前にいる誘惑の王子は、赤崎の知っている男とはまるで別人のように本当に幻のように存在感がない。まるでジーノという形を留めておくことすら難しいかのように。

「よくわからないんだけど…恋人ごっこ…しようとしたのかな?どう思う?ザッキー」
「!?」
「だってキミが言ったんじゃない。恋人ごっこしよって…違う?」

 ジーノはまるで自分の言葉で自分に暗示をかけるかのようにそう呟いた。

「フフ、驚いた。全く良いアイディアだよ、ザッキー」

 その瞬間、幻のように儚げだった目の前の男が、ふわりとグラビア写真の中から抜け出てきたモデルのような笑顔を浮かべた。優しげに相手を労わるような、それでいて男らしくて力強い頼もしさすら感じさせる高貴な姿。後輩をかわいがる目とも違う。体を欲する飼い主としての高圧的な目とも違う。今まで一度も見たことのない視線。それはまさに世の中の女性達が思い浮かべる、典型的な理想の彼氏像だった。赤崎は理解した。これが女性向けのジーノのハンティングスタイルだということを。ジーノの作り物のように美しい笑顔を通して、僕らにはロマンスなど不要だというジーノの言うところのロマンスが今、ふいに赤崎を霞めたのだということを知った。

「いいよ?しよう?恋人ごっこ。そしたらずっと一緒に居られる…嬉しい?多分そうすればきっとボクももう少し…」