お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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鎖に繋がれて 4

プレシーズンマッチ直後から4月下旬くらいまで一気に。登場人物は王子、赤崎、持田、達海、名前だけ椿、有里、夏木って感じです。幻11と夢うつつは同じ時系列をザキ視点とジノ視点で追ってます。この次のUP分も重複した時間の別視点(ジノモチ気味な角度からのジノ視点とモチ視点)になります。

遁走中に思うこと1

 プレシーズンマッチの帰り道。持田と別れて達海とジーノはバスに向かった。さっきのモッチーなんだかおかしな様子だったな、と引っ掛かりを覚えつつも、まあいい後で電話してみよう、とジーノはテクテクと歩いていた。今、隣には達海監督。彼を見ていると久しぶりに楽しい試合だったと自然に笑顔がこぼれる。

   タッツミーは前の監督とは全然違う、なんだかワクワクする

 奇想天外だと愉快になる。ジーノはなんだかんだいいながらこの新しい監督を気に入っていた。GMの言うとおり、大変興味深いタイプで、こうして二人で歩いているだけでもウキウキと心が躍る。
 達海と二人、およそサッカーには関係のないくだらない話をしながら楽しく歩いていると、有里が遠くで怒鳴っているのがぼんやり見えてくる。“いい加減にしなさいよ!あんた達、協調性なさすぎ!”と怒鳴っている。

「なんだ、ボクを迎えに来た顔をして、タッツミーもフラフラしてただけか」
「ん?いやー、お前を迎えに行くついでにフラフラしてただけ」
「それ、意味同じくない?」
「ちょっと違うだろ?」

 10近く年がはなれた男の、まるでいたずらっ子のような幼い笑顔。ジーノもつられて笑う。そして改めて声がする方を見る。

「まるで頭から生えてる角が見えるようだね?怒り過ぎはお肌によくないのに…ホルモンバランスが悪いのかな?」
「昔はあれで随分可愛かったんだけどなぁ?」
「働き過ぎがよくないんだと思う。人間ゆとりが必要だよね?タッツミー?」

 小声で話す二人の会話が聞こえたようで、益々怒鳴り声が大きくなる。そんな彼女の姿を横目で見ながら、二人は素知らぬ顔でバスに乗り込んだ。

 遠くに見えるいつもの席。なんだか少し今日は随分疲れた気がする。ジーノは突然今すぐにでもへたり込みたくてたまらない心境になったが、なるべく平気な顔をしてゆっくりと歩を進める。足が重くてたどり着くのに苦労する。このバスの一番後ろ。自然に自分の特等席になっていたお気に入りの場所。それがこんなにも遠く感じるなんて、と失笑する。

 ジーノは通路を歩きながら何気なく赤崎の気配を感じていた。また見られている。彼の視線はいつもジーノには痛みすら錯覚するほど鋭く突き刺さる。他のメンバーには簡単に笑えるのに、この選手に対しては最近いろんなことがうまくいっていなかった。だからとりわけ、今はやめてほしい、ボクを見ないで、とそう思った。

    *  *  *

 男はやっとのことで席にたどり着いて、見るともなしに放り投げてあった雑誌を広げる。でもその雑誌すら今は重たくて腕を上手く上げていられない。無意識に溜息がひとつこぼれる。ジーノはそのまま体をうんとのばし、雑誌は顔に載せて視界を遮る役割をしてもらうことにした。

   ちょっとごちゃごちゃし過ぎだ…邪魔な侵入性回想がひどい

   ここからクラブハウスまでそんなに距離がないからすぐ着いちゃうな
   ああ、しんどいな、到着してすぐに座席から起き上がれるんだろうか
   でも、なんとかまた自分の車のとこくらいまでは体を移動させないと

 クラブハウス到着時の自分を シミュレートしてみる。荷物を持って、挨拶をして。手順、手順。なのに、その傍からなにもかもがぼやけていく。どうにもうまく制御できず、苦心していると、次第に周りの話し声から言葉の意味が消え、不快な異音に変化しはじめた。すると目を閉じても広がる映像もまた意味が消え、単なる色彩の洪水と化していく。ジーノは、まずいなぁ、と漠然と感じてた。もはや深刻さを思い悩む力もなかった。頭が痛い。

   こんなとこで…
   全くボクときたら呆れるよ

 襲い掛かる音と色の嵐が巻き起こり、その騒擾の波が自分をさらって青褪めた静謐の世界に連れて行く。調子が落ちた時に特に起こりやすい、解離症状の一つの知覚麻痺だった。情報をカットし心を閉じる、いわゆる一種の仮死状態。ともすると戻り方すら忘れてしまう。なのでカーサ以外では深みにはまらないように意識的に抑制するというのがルールだった。けれどここ数か月はそのコントロールがままならない。ロッカールームで二人話したあの日から事態は深刻さを増し、今はもうあまりにも唐突に、しかも強烈に。足掻く間もなく、もがく暇もなく。

   ま、後部座席だと人目につかなくてまだマシかな?

   あぁ、楽だ、頭痛が消えていく
   ずっとこうしていたいくらい

 今回の移動時間はそう長くはなかった。ずっとこのままでいたいと願いながらも、少しでも早く意識が戻ってこれますようにとも願う。同時に湧き上がる矛盾した思い。心の中は常に至る所で綱引きをしていた。でも、その思いすらも束の間で、ジーノの意識はまるで死んでいくように段々遠のいていき始めていった。疲れの癒えない、眠りとも呼べない、そんな夢うつつの時間だった。