お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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鎖に繋がれて 4

プレシーズンマッチ直後から4月下旬くらいまで一気に。登場人物は王子、赤崎、持田、達海、名前だけ椿、有里、夏木って感じです。幻11と夢うつつは同じ時系列をザキ視点とジノ視点で追ってます。この次のUP分も重複した時間の別視点(ジノモチ気味な角度からのジノ視点とモチ視点)になります。

ジーノ、夢うつつ3

 タッツミーはやっぱりこわい人だ。

 ボクを見抜く目を持っている。キッカケはナッツの復帰。ボクは彼に対してそんなに不自然だっただろうか?以前と同じように軽口も叩くように心掛けていたし、ナッツ本人ですらこれまで一度もボクの奇妙に気付きもしなかったというのに。

 確かに些末でマヌケな監督もごめんだけど、現段階の監督がタッツミーでなければ別になんでもなかった話だ。そりゃあ正直ずっと会いたかったよ?彼にはね?そうさ、ETUにようやくまともな監督が来たと思ってちゃんとボクは喜んでいたのに、ここまで苦しめられる羽目になるなんて考えてもみなかった。いや、嘘だ。彼がここに来た瞬間から、ボクはこうなることがわかっていた。だってボクはポンコツだから。沖縄に逃げ出して、ナカナカ東京に戻ってこれなかった。それにシーズンが始まってすぐに、ボクはモッチーのところに情けなく逃げ込んで。それでも最初からわかっていた。なにをどうしようと、遅かれ早かれ彼がボクに詰め寄ることになるのは最初から決まっていたことなのだから!だって、彼はタッツミーなんだから!

 どうしよう、タッツミーが来るんだ。どうすればいいと思う?ねぇ、返事をしてよ。ザッキー、どこ行ったの?

   *  *  *

 回復トレーニング、オフと試合から2日経って。その時間で一応心の整理をつけれたと思う。練習後、タッツミーがようやくボクに声をかけて部屋に来るように言った。ありがとう、この前の試合後のボロボロのボクを見逃してくれて。大丈夫、もう逃げないよ。ううん、違う。本当は全然大丈夫じゃないんだ。逃げ出す力も残ってないだけなんだ。

 結局なるようになってるよね?ねぇ、そう思わない?なんで返事をしない?苦手なんだ独りが。だって怖いよ。怖いんだ。

   *  *  *

 部屋に入ってぶしつけに、なにか言いたいことはあるかと言われた。なにもないと答えたけれど、では、オレから話をさせるつもりなのかと問い返された。何も言えなかった。本当はボクがしっかりと自分に向き合い、あなたに向き合い、万全を尽くしてサッカーに臨むべき問題だったんだよね?卑怯で弱い。醜い醜い自分自身の現実。

不真面目なプレイスタイルなのはわざとだろ、と最初の言葉。
わざとじゃないよそういう性格なんだ、と答えた。逃げたかった。

体が思うように動かなくなることを隠すために誤魔化しているのだろうと。
気紛れでやる気がなくなるのも性格なんだ、と答えた。逃げたかった。

体が動かなくなる原因は、故障や接触プレイに強い恐怖を持っているせいなのかと。
見当違いもいいところ、ああいうのはポリシーに合わないんだ、と答えた。逃げたかった。

 わかっている。彼はなにもかももう見えていて、ボクの誤魔化しの言葉など何一つ通用しない。でも、やめてほしい。気が付かないで?この症状が始まった一番最初のきっかけが、キミが選手の命を絶ったあの瞬間であったこと、これだけは本当に…絶対に絶対に…。それを知った時のあなたの顔をみたら、きっとボクはもう、その瞬間に完全に壊れてしまうよ?だってボクはキミが言ったボクの未来の約束を。楽しみだと笑ってくれたボクの未来へのキミの気持ちをこんなにも裏切ってしまったことに、ねぇ、気づかないで?何から何まで偽物のまま大人になってしまったボクを見つけないで。

 キミは素知らぬフリをしながら、人知れず深い傷をまた負うのだろう?あの日キミが一緒に遊ぼうと誘ったこのボクが、やっぱり今ここでキミを独りにする。

 移籍前にすでにキミに刻み込まれていた痛々しい孤独の深手。その上に沢山更に深い傷を重ねてキミは帰ってきて、尚ボクはキミを押しつぶす役割を果たすことになるのかい?
 キミは精一杯やってきたんだ。悪いのはキミのその情熱に無神経に胡坐をかいたあいつらのほうなんだよ。一緒に行けない奴らが悪いんだ。彼らには彼らの思いがあって?なんでそんなことをキミが理解しなきゃいけない?受け入れなきゃいけない?悪いのは奴らで、そして同じことをキミにしでかす、馬鹿でマヌケなボクのほうなんだよ。そうじゃない。胸を痛めながら笑ってみせるのは間違ってる。キミは馬鹿を断罪すべきなんだ。キミを裏切り続けているのはボク達の方なんだ!罵倒すべきだ、怒るべきだ!でないと、ボクが耐えられない。でも本当にそうなのに、そう思うのに、キミに叱責されても卑怯なボクは耐えられない!

 ボクを、ボクの弱さを受け入れないで、タッツミー。コッシーの傷をしょい込むようにボクの馬鹿と裏切りまで抱え込むことはないんだ。ボクはああいうのとは違うんだから。コッシーはちゃんと、そう、やり方は間違ってしまったところもあるかもしれないけれど真摯にキミのところについていこうと頑張っていたよ。キミを恨み、キミに焦がれ、そうやって彼は彼なりにこのチームを支えてキミが来る日までやってきた。ボクは単に馬鹿なだけなんだタッツミー。ほら、全然違うだろう?キミはとても繊細なのに忍耐強いよね?ボクは違う。どんな軽い傷でも飛び上がるほど痛いんだ、弱虫だから痛がりなんだよ。やめて、お願い、裏切った挙句にキミのお荷物になるなんて!ボクはそんなこと、とてもとても耐えられやしないのだから!でも怖いんだタッツミー、ボクの狡さと弱さを拒絶されては、それもまたボクには耐えられやしない!

 どっちも嫌なんだ、ボクをこのままそっとしておいてよタッツミー!

   *  *  *

 何をどうしゃべったのかも覚えていない。グルグルと世界の全てが回るような眩暈の中、暗い目をしたタッツミーの顔だけが印象的で。彼は気付いてしまったろうか?今のボクでは、もうそれを確認することすらできない。ああ、このチームには、再び足を踏み入れることすら無理だろう。頭が痛い。耳鳴りがする。眩暈が止まらない。地面の感触がしない。今、ボクはどんな顔をしている?タッツミーの中の孤独は、あの深い傷は、今、どんなになってる?

 居場所が…ボクの居場所、ボクの。10年前のあの時と同じ、地面がなくなる感覚が。タッツミーを見失ってしまったあの瞬間と同じように、足元に真っ暗で大きな穴があく感覚が。ボクはまたそこに落ちていくのかな?役に立ちたかった。タッツミー。帰って来てくれたキミの役に。嬉しかったんだ今こそボクはと。だってずっとボクはホントはそのためだけにこの世界にこうしてのめり込むようにして、毎日毎日、無駄なあがきをしてきたのだから。
 なのに。結局ボクは木偶の坊で。役に立つどころか、ねぇ?タッツミー。最初から、最初からいなかったほうがよかったんだろうか、こんな世界。でも、居たかったんだ。馬鹿だから。

   怖い、怖い、ザッキーどうしよう?
   体の震えが止まらない
   ザッキー…助けて、助けて…

 呼んでも、呼んでも、キミが来ない。キミを作り出すことが出来ない。ボクの為のボクのザッキー。ねぇ、ボクのザッキー、ままごと遊びはもうおしまい?

 やきそばパンを買ってくれるザッキーが、添い寝してくれる、ボクを抱きしめてくれるザッキーがどこにも見えない。幻も、いない。作れない。ボクの傍になにも…もう、なにもない…。それだけのことをわかっててやらかした。美辞麗句を並べ立てて、誤魔化して、欲望のままにボクは生きて。ボクはいつもいつも、結局こうして自分のことしか考えないからきっとしょうがないことなんだろうね?

 でもここにキミがいなくて心から良かったと思う。本当だ。淋しいけれどホッとしているんだよ?キミがいなくて良かったって、そう思える自分で良かったと本当に…
 ボクはずっと怖かったんだ、この日がくるのが。人を傷つける自分の醜さと対峙して、もう二度とまともにピッチに立てなくなる、この日がくるのが本当に本当に怖かった。でももうとまらないね、本当の意味で自分の全てが失われていく。自分という存在の意味のなさを痛感して、今度こそおしまいだ。

 あの日物理的にも壊れてしまったボクが多少なりとも機能するようになるまで一体何年を要したことだろう。ボクは今何歳?今がピークの年齢のボクが万が一回復を果たしたとしても次はもうタイムオーバーとなっていることだろう。すっかり、なにも見えなくなっていく。この期に及んで、ボクはやっぱり手近な何かを掴んで一緒に転げ落ちようとしてしまう。でも来る前にちゃんと自分の力でキミの手を放すことができた。フフ、しかも2か月も前にだ。ボクはちゃんとできた…偉いよね?凄いや。大満足だよ。

   本当によかった…引き裂かれていくボクの生贄にならなくて
   偉いだろう?
   ままごと遊びでボクはちゃんと最後まで時間稼ぎをすることができたよ?

   愛しているよ心から
   キミはきっとみんなが驚くような素晴らしい選手になる
   とてもとてもボクはそのことが楽しみなんだ

 ジーノはその日、誰にもなにも告げずに忽然と姿を消した。

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 リーグ戦 第9節 対戦:アルビレオス新潟(アウェー) ●0-1

 ルイジ吉田 / 違和感により今季初の欠場
 赤崎遼   / イエローカード1枚目