鎖に繋がれて 4.5ある兄弟猫の怯懦
3月下旬~4月下旬のジノモチ視点のお話。ザッキーを切ってフラフラなジーノがひょんなことから退院後の持田の家に転がり込みます。(同居です。やってません。この先もやりません)転がり込んだことさえ押さえとけばこれも読み飛ばしてもほぼ大丈夫にしたつもりです。
ややこしいですが、幻11(ザキ視点での夢)と、持田の日々(モチ視点)と、休憩・傷猫子猫・夢うつつ・遭難(ジノ視点)は、ほぼ同じ時期のことを違う角度から書いてます。
兄弟猫の休憩
それはある日の出来事。馴染み深い匂いの中にある一室で目を覚ましたボクはそのままベッドにうつ伏せの状態でぼんやりとカーテンのない窓の向こうを眺めていた。誰もいない。音もない。でも、差し込む光は少しずつ形を変え、そのことだけがこの部屋の中の時の流れの存在を知らしめていた。
「……」
モッチーって相変わらず窓にはカーテンつけないんだな。でも、どうしてボクは今ここにこうしているんだろう?そんなことを考えていた。
眠っているのか起きているのかも自分でよくわからないまま、じれったい動きでドンドン部屋の奥まで伸びていく日の光を眺める。もう少しであのフローリングの木目のところまで届くね?あそこに投げ捨てられている雑誌のところまで行くにはどれくらいかかるかな?そんな、およそどうでもいいことを考えながら、ボクはいつの間にかそれを見届けることなく再びウトウトと浅い眠りについていったのだった。
* * *
「おーい」
髪を掴まれ頭を揺さぶられる形で乱暴に起こされたボクは憮然とした表情で彼を見返した。
「もう、モッチー、そういうのやめてよ痛い」
「なぁ、お前これ食う?」
「…今…何時?」
質問に返事もせず彼が投げつけたのはステック状のビスケットのような栄養バランス食だった。ゆっくりと身を起こしながら訝るように箱を手に取り、恨みがましい目で黄色い箱の裏や表をしげしげと眺めた。
「ボクがこういう類のもの、嫌いなの知ってるくせに…」
「いきなり来たってなんもねーんだもん。文句言うならてめぇが買いに出ろよ」
「全くそうすべきだね」
茶化すように笑う努力をしてみたけれど、必死で口角を上げてもうまくいかなかった。
「無理して苦手なもの食べたってさ、逆にストレス溜まってがよくないってこの前ザッ…」
とボクはそこまで言いかけて、何故か急にキュッと眉を寄せて箱をスルリと手から落としてしまった。気が遠くなる。ボクはそのまま再び時が止まったゼンマイ仕掛けの人形のようにぼんやりと虚空を眺めるしか出来なくなった。
「またかよ、このポンコツ。なんだっつうんだ、情けねぇ面しやがって」
彼は何かを言っていたようだったけれど、聞き取ることが出来なかった。
「……」
あ、これはわかる。今彼は動けなくなってしまったボクを労わるようにゆっくりと横たえてる。ボクがされるがままになっていると、彼は布団をそっと掛けてボクの頭を撫でていた。
ボクは何かを言いたいのだけれど、ただパクパク唇が動くだけで、口から零れたのはただの吐息のようなそれでしかなかった。
「いいから大人しく寝てろ。ドラ猫」
目を開けたまま夢を見ているかのような気分だった。なんだかフワフワするんだよ、モッチー。心の中でそう呟くと、彼は半開きになっているボクの両眼をそっと彼の指先で閉じてくれた。意識があるような、ないような世界の中で、彼がボクの髪を触る。いつものように目にかかる髪をそっと指先でどけて、でもほら、すぐにサラサラとボクの目を隠すように戻ってきちゃう。クセ毛なキミはボクの髪のこんな動きがとても面白いと言っては笑っていたね。面白いかい?変な趣味だよ。
静かに立ち去っていく気配を感じたと思ったら、やっぱり小さくパタリとドアが閉まる音がした。ありがとう、モッチー。ボクを独りにしてくれて。そしてボクの傍にいてくれて。こんな感覚になれるのはなんだか随分久しぶり。ボクはドアの向こうの優しい友の気配を体で感じながら、特に抵抗することもなく極自然に眠りについたのだった。
