お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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鎖に繋がれて 5

今回は失踪した頃のザッキー視点のお話。作中の時期は2007年5月頭の頃。ようやく作中の季節と現実の季節がちょうどいい感じに。よかった!でも春先に相応しくないグズグズな展開になっていくのであんまり気分はよくない感じです。登場人物は王子、赤崎、達海、後藤、椿(ほんの一言だけ)

オープンセサミ1

 そう、この俺の自宅の引き出しに長いことしまいっぱなしだったカードキーに詰まっていたのは、ちっぽけで、それでも思い出すだけで胸が締め付けられるように甘い二人だけのとある記憶だった。
 その頃の王子は時々ちょっと変な悪戯なんかもする奇妙な先輩で、そしてやっぱり彼らしい優しさの溢れるこまめで親切な気のいい男だった。そして当時、俺はそんな王子の人となりや技術にドンドン魅せられ、尊敬し、それらを少しでも吸収したくて毎日がむしゃらに張り切るばかりの、そんな負けん気の強い愚かなほど単純な後輩だった。

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 当時の王子のレッスンはあの人が勝手に始めた報酬制。言われたノルマを一つこなすごとにあの人はさも楽しそうに俺に様々なご褒美を用意した。いらないいらないと恐縮する俺が必死で言っても、

「それじゃボクがつまらないよ。なんにもプレゼントが出来ないなんて」

と、あの人は駄々を捏ねては子供みたいに唇を尖らせた。

 ある日、俺はどうしてもそのことが気が重くて我慢ならなかったので、

「なんかする度にイチイチ高価なもの貰ってたら寧ろモチベーションが下がるンス。あんたがつまらなかろうがなんだろうが、俺はもう絶対受け取らねぇッス。二度と。邪魔なんで」

と本気で王子を説得しようとした時、案の定何度も何度も押し問答を繰り返す羽目になった。俺達は時々こうして不思議と物凄く強情ッぱりになって、お互いどうしても譲れない時はこんなことになってしまったりした。でも、わかっていた。俺達は二人そういう時間を過ごすことも楽しんでいたんだ。
 そう、俺はわかっていた。そんな時間を過ごせていたのはあの人のおかげだったということを。王子は俺相手なら本気で我を通そうと思えばいつでもそれをやれる力を持っている人だ。長い押し問答の時間が成立すること、それは俺の本気を感じることであの人が陰ながら自分を譲歩するために努力をし続けてくれていた結果生じたものだったんだと思う。あの人は本当に贈り物が大好きで、それでもそのことに恐縮する俺の気持ちを一生懸命理解しようと努めてくれていた。

「じゃあ、あと一回だけ。最後にモチベーションがうんと上がるようなものをあげる。それじゃ駄目かい?」

 ある日王子は珍しく自分に折り合いをつけ、こんな風に俺に頼み込むように提案した。

「キミが今一番欲しいものを用意しよう。さ、言ってごらん?」

 俺が今一番欲しいもの?そりゃ勿論誰にも負けない、勝つためのサッカーの技術であり、スタミナであり、メンタルであり、そして。だからそのために今一番必要なものって言ったら、そりゃ…つまり…。

 その結果俺がした要求といえば、ちょっと申し訳なかったなと後から勿論反省したくらい全く大人げないものだった。何はどうあれこれ以上王子から高価なプレゼントを受け取りたくない一心の俺が、これが最後だと王子にねだったもの。それがこの今俺が手にしているカードキーだった。
 俺には俺が最短で育つために必要なのは王子とのあの日々の時間だと考えていて、だからあの多忙な王子のプライベートな時間を全部寄越せ、とそんな図々しく且つ馬鹿馬鹿しいことを欲してしまったのだ。
 でも俺は別にそれを本気で寄越せなんて思って言ったわけじゃない。だって、そんなものどれだけ欲しがろうと得られるものなんかじゃないことは最初からわかっていたのだから。日頃の会話から王子が如何にプライベートを大切にする人間かなんてとっくに知っていたし、さすがの王子もこれは絶対にプレゼント出来ないに違いない、そう考えていた。半分本気半分冗談。要するにある意味これは嫌がらせでもあったのだ。
 嫌がらせという点だけで言えば、別に1億円でも、ジェット機でも、なんでもかまわなかった。あの人が到底贈れないようなものをねだってしまえば、王子のプレゼントの応酬も今回限りでおしまいだ。そんな底意地の悪い考えもあっての要求だった。ざまあみろ!さすがに王子もこんなもの用意なんて出来ないだろう?俺の勝ちだ!自分の中の卑屈さを感じながらも、そういうあり得ないものを提示出来たことについて我ながら大満足だった。

 だから次のノルマを達成した直後、しれっとした顔をして王子がカードを投げてよこした時、俺は唖然として腰が抜けそうだった。

 俺が一つ忘れていたことがあった。それは王子がどうしようもないくらい負けず嫌いな人だったということ。ジェット機ねだらなくてよかった、そんなもの用意されたらたまったもんじゃ、などとありえない馬鹿げたことを頭の隅で考えたりもしていた。だって王子にしてみれば金だけで解決できるジェット機のほうが寧ろ気楽に用意出来たんじゃないかなんて、そんな気がして。そういうところの彼の性分を俺は十分わかっていたから。そうなんだよ、俺はわかってんだよ!だから王子、負けたくないからって簡単に投げて寄越すとか無理すんなよ、重たすぎるだろ!そんな風に俺が慌てるのは当たり前の話だった。

「じょ…冗談だろ?」
「冗談って?さ、残念だけど贈り物はこれが最後…フフ、ボクの人生で用意した中で一番豪奢なプレゼントだ。全くそんなものを寄越せだなんてキミって本気で図々しい」
「いや…だ…だってあんたがまさか…」
「何?」

 ツンとすました王子の顔が本当に憎らしかった。ざまあみろとでも言わんばかりの顔に見えた。あまりのことに俺が動揺するのを面白がっているんじゃないかなんて、腹が立った。

「…そんなくだらない意地、張るのよせよ…それに…」
「意地って何が?」
「…誰が本気で欲しがるかよ、こんなもん!」
「なッ!ちょっとそんな言い方ってないだろう!?…一体キミはこれをなんだと」
「当たり前だ!こんなもんはこんなもんだろ!俺が喜んで受け取るとでも?俺があんたが嫌がるようなもんを要求しようって思って言ったことくらいわかってんだろ?負けず嫌いが!」
「えぇ?そんなつもりで?またまたー、本気で欲しかったんだろう?憧れの、ボクの、お城の、魔法の鍵。フフフ」
「んなわけねぇだろ!あんたが女連れ込んでるところにノコノコ遊びに行って、どうも、俺のことは別に気にしなくていいんでごゆっくり~♪とかやると本気で思ってんのかよ!馬鹿か!!」
「何言ってんの?ああ、なんだ、キミそんなこと気にして?大丈夫。鉢合わせのことなら別に心配ないよ、だって…」
「あんたが気にしなくても俺が気にするんだよ!決まってんだろ!俺には他人の濡れ場覗いて盛り上がる趣味なんてない!」
「だからそれはありえないよ、だってあの家に来るのっていったら…」
「…んだよ!」
「……」
「それは?なんだよどうした!?黙ってないでなんか言えよ!王子!」
「いや?…別に…」
「別にって…返事になってねぇよ…」

 すまし顔を続けていた王子は急にムッとした顔をした。しまった、へそを曲げた。こうなるとこの人は益々厄介なんだ。でも後悔しても遅かった。そして案の定…

「そんなこと、どうでもいい」
「どうでもよくなんか…」
「ねぇ…ボクがどうでもいいと言うことはね?どうでもいいことなんだよ、ザッキー」

 俺を消沈させるには、たったそれだけの王子の冷たい台詞と氷のような視線だけで十分だった。急に体感温度が下がった気がして一緒になって俺のトーンまで下がってしまい、ヤバい、これはヤバいと更に動揺した。 

「それよりも今回の話の中で重大な部分は…わかるよね?」
「…え?」
「キミが今したことだよ。今、キミはボクに… こ ん な も の いらない…って」
「あ…いや…」
「誰もが喉から手が出る程欲しがるものをだよ?キミはゴミみたいに…こんなもの扱いして…突き返したって…こと…だよね?」

 なんというプレッシャー。俺はすっかり気圧されてぐうの音も出ない。

「…これはキミがボクに指示して『わざわざ』用意させたものだよ?…本当に…その意味…わかってて言ってんだよね?」
「……」

 それまで散々対等に話をさせておきながら王子ときたら時々大人げないんだ。俺が調子に乗って地雷を踏んだらあの人は突然自分自身のもつ本来の強引な力を発揮して、こんなに簡単に俺を黙らせちゃったりなんかする。

 当時俺は王子のそういう気分屋なところが物凄く怖かったりもしたけれど。でも、あれは俺が悪かった。本気で王子に悪いことをしてしまったことを全然わかってなかった自分のせい。あの日王子の思わず口ごもってしまった、何故バッティングはありえなかったのかというあの家についての特別な事情。突き返されてへそを曲げてしまった本当の意味。王子は誰からも隠していた彼の素顔をあの頃から俺に少しずつ見せてくれていた。もうかなり昔から。本当に出会って間もないあんな最初の時期から。そんな気がする。
 俺がそのことにちゃんと気付くことが出来ていれば、王子はあれほど苦しまずに済んでいたのかもしれない。考えても仕方のないそんなことを、馬鹿な俺は今でもたまに。ごく、たまにだけれど考え込んでしまったりするのだった。