お花結び

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鎖に繋がれて 5

今回は失踪した頃のザッキー視点のお話。作中の時期は2007年5月頭の頃。ようやく作中の季節と現実の季節がちょうどいい感じに。よかった!でも春先に相応しくないグズグズな展開になっていくのであんまり気分はよくない感じです。登場人物は王子、赤崎、達海、後藤、椿(ほんの一言だけ)

オープンセサミ2

 ともあれ、あの時の王子の顔の意地悪さったらなかった。

「じゃ、しょうがない。キミが受け取らないって言うんじゃね?ボクからの最後のプレゼントがどうにもお気に召さないっていうわけだから…」

 一つ一つ噛みしめるようにジワジワと王子がそう言って、そしてその言い方が徐々に皮肉な明るさを含ませながら変化していくのを俺はただ茫然と眺めるだけだった。

「つまり、ザッキー、最後っていうのもなしってことだね?」
「…え?なんだよそれ…話飛躍し過ぎだろ…」
「だって。しょうがないよね?キミがおねだりしたもの自分でヤダっていうんだもん。これで終わりだよって約束したものをキミはヤダって。そうでしょ?」

 何とも嬉しそうに笑う王子と、無茶苦茶なへ理屈による論点のすり替えを目の当たりにして、俺はこの戦いが一気にひっくり返ったことに気が付いた。要するに、どうしてもプレゼントを用意したいであろう王子が譲歩をやめて理論そっちのけでごり押しをし始めたのだ。つまり、ごっこ遊びはもうおしまい、という話。
 正直な話、真正面からぶつかれば俺が王子に勝てるわけがない。だってどんな出鱈目な言い分だろうとこの目で睨まれたら俺はすっかり竦んでしまう。そうでなくとも王子を論破できるくらい口が達つ人間なんてきっとこの世に居やしない。

「違ッ!そういう意味じゃ…!」
「違うの?このボクを弄ぶなんて、ホントまいったなぁ、キミって子は。でもボクは優しいから許してあげる。そのかわりこれからは素直になるんだよ?ほら、本当は欲しいんだろう?ちゃんとボクにごめんなさい、お願いしますその欲しくて涎の出そうな鍵をください、って言うんだザッキー。それから嬉しいな、感激ですって泣けばいい」
「いや、そんなんじゃ…」
「いいなよ」
「言うわけ…」

 言うわけないだろ。俺がそう言いかけた時に見せた王子の顔はそりゃあもう鬼も逃げ出す恐ろしさ。プレゼントをもらうだのもらわないだの、今思えば話の内容が内容なだけにとっても陳腐なシチュエーションだったんだけれど。すっかり縮み上がった俺は混乱して。王子の剣幕に俺はいつも簡単に転がされてしまって。

「あ、そ?じゃ、プレゼント廃止は廃止だね?末永くよろしく。フフ、じゃあ次は何あげようかな?」

 強引に黙らされて泣きそうになっている俺に対して、王子がさも愉快そうに、鬼の首を取ったかのような勝ち誇った顔をした。チクショウなんだよこいつ!と思った。だってそれくらい大人げない顔をしてみせたんだ。あの時の王子は。でも、あんたはあまりのことに物凄く傷ついていて、可哀そうなくらいムキになってただけだったんだね。いつもと同じようでいて、全然いつもと違っていたというのに、あの時の俺は全く気が付いてあげられなかったんだ。

 王子のその時の何とも言えない人を馬鹿にしたような高圧的で高慢な態度。今思えば精一杯の虚勢に、俺はなんだか無性にイライラして、はらわたが煮えくり返るような思いになって。迫力の王子の様子にビビり切ってしゅんとしていたはずだったのに、カッとなった俺はさりげなく俺の手から鍵を取り上げようとしている王子の手を振り払って、

「わかったよ!貰っとく!受け取ったんだからこれでプレゼントごっこなしな!」

と怒鳴りつけていたんだ。なんという、やっちゃった感。王子相手だ。無駄なあがきなのはわかっていたけれど、その時の俺は俺の強情を簡単に押し込めるわけにはいかない気分だった。結果、このことが後からこれほど重要な意味を持つ結果となったなんてその時は思いもしなかった。

「いいよ!返しなよ!それはそんな風に受け取ってもらうような陳腐なものじゃないんだ!!猫に小判だよ!」
「駄目だ!」
「なんで!」
「男らしくねぇぞ!一旦渡したものを後から女々しく返せだとか、下品以外の何ものでもねぇって前にあんた自分で言ってただろ!」
「なッ…!」

 結局俺はこのカードキーを受け取ることになった。いらないと言えば欲しがれと言い、欲しがれば渡さないと言い、最後には封筒の開封の仕方が汚いだの水を飲む仕草が胡散臭いだの、おそらく二人ともおよそどうでもいい意地の張り合いの押し問答、子供のように稚拙な口喧嘩の果ての結末だった。最終的に世にも恐ろしい戦利品を手に入れることになった俺は俺でビビりながらも無理矢理笑って見せて、王子も王子で最後に呆れたような顔をして笑った。

 ちなみに報酬制はこれを契機に廃止になったはなったけれど、彼は相変わらずご飯をおごるのも、俺に洋服をくれたりなんかするのもやめたりはしなかった。俺が最後のプレゼントを受け取るか受け取らないか?それすら王子には全く意味のないことで、なにがどうあれ結局王子は最初からプレゼントをやめる気なんてサラサラなかったという話。全部が全部、彼にとっては他愛無い日常の中の単なる遊びに過ぎなかったのだろう。
 それでもその日を境に形が変わった。やめる気のない王子のプレゼントは、自宅でのちょっとした食事であったり、いらなくなった王子の持ち物であったりそんなものになっていった。彼は彼なりに我を通すかわりに、俺もまた同じだけ笑って過ごせるように落としどころを探って行動してくれていたんだろうと思う。意地っ張りな王子の、密やかな、わかりにくくて、そしてとてもわかりやすい溢れんばかりの思いやり。あの頃過ごした二人の時間を思うに、いろんなことがそんな彼の手で居心地よく極自然に形が変わっていったんだ。とても穏やかで優しい幸せな毎日だった。

  *  *  *

 ある日二人でくだらないドラマをなんとなく見ていた時のことだった。テレビに映っていたのは喧嘩別れした女性が寄りを戻したくてある男の家を謝罪の為に訪ねたシーン。でも持っていた合鍵ではドアが開かなくなっていた。鍵を付け替えられていたのだ。メソメソと戸口で女性が泣き崩れカメラは引いてそのままドラマは次回に続いた。
 俺は意地っ張りな女性が勇気を絞ってやってきたのにそんな馬鹿な、と胸を痛めた。なのに、あろうことかこの奇妙なタイミングで王子はフッと鼻で笑ったのだ。その人を小馬鹿にするような態度に俺がなんだ何がおかしいんだと尋ねても別に何でもと言いながら、彼は意味深な笑いを浮かべたまま。俺はその表情の中に王子の中の切った相手に対する男の冷酷を見てしまったような気がした。

「あれですか?なんか王子の実体験、みたいな?」
「え?実体験?…いや…そういう意味じゃないよ」
「じゃ、どういう意味で?」
「…んー、そうだねぇ…どうだろ?わかんないや」
「誤魔化さなくても」
「……」
「王子?」
「なんていうか…取り返しのつかないことってあるよね、って…そんな感じ?物事って上手くいかないようになってるっていうか…惨めになるように出来てるっていうか…上手く言えないけど…」
「どうせそうだろうと思った」
「何が?」
「あんたはこんなヘマやりそうにないですけどね」
「悪いけど言いたいことがよくわからないよ、ザッキー」
「あんたの場合、別れた女を切るのに鍵替える羽目になるどころか鍵渡すとこからありえないって話ですよ」
「え?何?やりそうにないヘマってそっちの話?」
「どうせ俺に寄越したあの鍵だって本物じゃないでしょう?」
「鍵…え?話が混ざってきてない?今の話とそれは全然関係が…」
「わかってましたよ?俺には。あんなの最初からあんたの遊びで、別に俺だって真に受けてるわけじゃない。あんたは人の惨めを笑いたい派かもしれないけど、俺は開かないドアに泣き崩れることなんてないんでご安心を」

 王子は俺の減らず口に一瞬真顔になったものの、何も言わず意味深に笑って見せるだけだった。被害妄想的なひねくれた俺の物言いを瞬時に怒って否定してほしかったのに、その意外で印象的な反応に俺は思わずドキリとした。YESともNOとも返事がないのは、多分どちらの結論も無粋に過ぎないものだったからだ。王子が返事をしなかったのはつまりあの場では飲み込むべき答えであったということ。つまりその意味は確実に…

   “なんだバレてたのか、残念”

 だから俺は彼が咄嗟に濁してくれたであろうその現実に一緒になって蓋をした。だって王子の鍵なんてそんなもの気軽に投げて寄越すものじゃないことくらい最初から。真相は藪の中。でも暗黙の了解。それが俺に対する王子の誠意の答えであり、俺は致命的な一言を口にしない彼の気持ちに感謝すべきなのだと受け止めた。

 時が過ぎ、その真偽を問う瞬間がやってくるなど俺は思いもしなかった。答えは藪の中に置き去りにしたまま、俺は一生この鍵をお守りに暮らそうと勝手に思っていたから。だってあのドラマの女性のように泣き崩れるような体験など絶対にやりたくはなかった。ちっぽけな二人だけの他愛無い遊びの思い出の産物として、絶対に使わないと心に決めていた。でも、あんな音を立てて崩れていくような王子を見てしまったからには俺はこうすることくらいしかもう他になにも思いつかなかった。

 だから今俺は既にわかり切った結末を迎えて泣かないようにと心の準備を。でもどれだけ身構えてもどうしても受けるこれからの衝撃を想像しながら王子の家へ。偽物の鍵を片手に死地に向かうような面持ちでかの場所へ。つまりは。俺は本当にあの人のことを何一つもわかっちゃいなかった。結局そういうことだったわけだ。