お花結び

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鎖に繋がれて 5

今回は失踪した頃のザッキー視点のお話。作中の時期は2007年5月頭の頃。ようやく作中の季節と現実の季節がちょうどいい感じに。よかった!でも春先に相応しくないグズグズな展開になっていくのであんまり気分はよくない感じです。登場人物は王子、赤崎、達海、後藤、椿(ほんの一言だけ)

魔法の鍵、解けた魔法

 王子のくれた鍵は本物の魔法の鍵だった。

 渡された鍵で施錠が解除される奇跡が起きた時、俺は大いなる感動に包まれると同時に王子を信じきれなかった自分を心から恥じることになった。俺は言われないと何もわからない大馬鹿者で、王子はそんな俺にいつも何も言わない大馬鹿者で。全くなんてことだと感じた。この鍵は偽物。それが暗黙の了解。今の今までそれが真実なのだと9割近く確信していた。だってあの時暫くしてから、王子はからかうような笑顔でこんな返事をしたのだから。

「ふーん…」
「なんスか」
「キミはあの子のように…ドアが開かないよー、会えなくて淋しいよーって…ボクを思って泣いてはくれないってことか」

 何故あの人はギリギリの言葉をわざと選ぶのか。さも作戦が失敗したかのように偽装して。でも単に言葉通りの意味を理解すればいいだけの話だったのだ。

「泣くか!馬鹿!」
「えー?可愛くないなぁ」
「その手には乗らねぇよ!残念だろうけどなッ!」
「…フフフ…ホント、残念だよ」

 あの人は沢山フェイクを加え、肝心なことはいつもキチンとした形で俺に伝えようとはしない。ただ笑って、黙って、誤魔化して。俺はわからないままに沢山王子を愚弄し侮辱し続けていたというのに、どうしていつもそうだったんだろう?どうでもいいことには我を張るくせに、肝心な時に限って王子はそれを放置し俺を置き去りにしてしまう。王子は魔法の鍵だと言った。信じなかったのは俺だった。彼の言葉を信じない俺に、王子は怒ることもなくただ黙って笑い返しただけだった。残念と、そんなあやふやな一言を返しただけ。

 俺は何よりもそれが一番辛かった。俺はあの人を嘘にする。あの人はそれを許容する。俺達はわかりあえない。俺は馬鹿だからあの人を理解しない。あの人は俺に自分のことを教える意思がない。だから辛かった。馬鹿な俺の無神経さが。抉られながらも痛い素振りすら見せないあの人のその有り方が。俺達はいつまでもいつまでも交わることがない。俺のせいで。俺のせいだ。それを知る度、身を捩るほどに不愉快になった。そんな二人のあまりに生々しい絶望的な関係性を思い知らされる度に辛かった。

 だから開かないはずのドアが開いたその瞬間、急に俺の心に嵐が起こって何故自分が今ここに来たのもすっかり忘れて大きな声であの人の名を呼んだ。

「王子ッ!!」

 今こそ俺にあの人のあの時の、そしてその後の思いが聞きたくて、王子の心に本当に触れたくて。そんな気持ちで、ありったけの声を張り上げざるを得なかったのだ。

 でも、そこにあったのは暗い暗い、心細いまでの淋しい空間。すえた空気が、もう何か月も人の出入りがなかったことを物語っているばかりだった。

 俺は沢山ルール違反をした。そのことだけはよくわかった。

 ひと気のないツンと褪めた風景が楽しかったあの日々の世界は儚い夢物語に過ぎなかったことを告げていた。あれは王子が俺に見せてくれた優しいだけのただの幻。本当は、現実は、この場所は、こんな空虚で何もない世界だったというのだろうか。ただ、俺の中には今不思議と驚きはなかった。この茫漠たるイメージは見たことがないながらも時折虚ろに光る王子の瞳の中に薄らと感じたことがあったからだ。だから驚きというよりも不安の想像が確定を迎えただけの話だった。
 多分、誰も覗いたり踏み入れたりしたことはないのだろう。この世界を。この陰惨を。これは王子のひたすら押し隠してきた彼自身の本質。彼の舞台裏であった場所。

 だからもう一度心の底から湧き上がる、激流のような王子を欲する心のままに俺は絶望の底に落ちていく悲鳴のような声をあげた。

「なんで!なんであんたはいつもこうなんだ!いい加減にしろよ王子!嘘ばっかり!あんたは嘘ばかりだ!」

 王子の嘘。そんなの違う。彼はとっくに種明かしの準備をしていた。ただそれを俺が拒絶し、彼は夢を見させ続ける決心をしただけだったのだ。偽鍵にしたのは俺。王子の気持ちを踏みにじった俺。いつもいつも俺が彼を嘘付きにさせた。俺が欲したのはミステリアスな王子。あの人は俺の思う通りの王子を単に演じ続けていただけだ。彼はルイジ吉田という一人の人間だったのに俺はそんなことを知りたくはなかった。憧れてしかるべき麗しの貴公子。凡人には知りえない非日常の世界を生きる人種。それだけを俺は彼に求めるばかりだった。そしてあの人は夢を見させるのがとても上手な人だった。

「…いい加減に…しろ…俺が…俺がだ…王子…なんで…こういう…いつも…俺は…そうだ、俺は全部わかってたんだ…知ってて俺は!」

 あまりにも俺達二人は噛み合ってなかったんだという、そういうことばかり痛切に感じる瞬間だった。そして、今でもこうして絶望的なほど食い違い続けている。