お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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鎖に繋がれて 7

ジノザキ、やっとおうちに帰ってきます。登場人物は王子、赤崎、持田の3人。一部ジノモチ的描写ございます。けど、じゃれてるだけでお話した通り単なる仲良しなお友達です。
モッチーがザッキーの事気に入って、親切半分、意地悪半分という感じであれこれと。ザッキーのヤキモチはそんなモッチーのあやふやなミスリード?にひっかかった形……のつもりです。

子猫

 歪む表情、あがる息、更に青白く抜けていく顔色。消え入るような苦痛の声をあげながらジーノはその場で小さく蹲る。赤崎はハッとした。そぞろな様子は話が出来る体調になかったからだったんだろうか?そも最初からおかしい様子ではあったのだ確かに。
 ジーノの発言の数々に対する苛立ちを自分自身の曲解であったと理解し、赤崎は思わず男に駆け寄ろうとする。

「お、王子?どうしたんですか?大丈……」

 だが、瞬間、

「痛ッ!」
「心配すんな、あの頭痛は単なる飲み過ぎのせい」

持田に腕をとられて結局ジーノに近づくことは叶わなかった。

 呑気で穏やかな物言いながら、勝手にアレに触ってくれるなと言わんばかりの強引さ。掴まれた二の腕にくっきりと痣が付きそうな痛みと、その拘束力と同じレベルの独占欲に近い威圧。ここに案内されるまでは自分と持田とはジーノを思う戦友同志のような気がしていたのに、今は何故か持田の指先に赤崎に対する剥き出しの悪意と敵意があった。勿論、赤崎の思い違いなどではなかった。

「は……放してください」
「……」
「約束……でしたもんね。スイマセン」
「あれ?今それお前わかってて?随分大胆じゃね?」
「いや……俺咄嗟に、つい……」
「尚悪いだろ。てめぇふざけてんのか?」
「ッ!」

 持田は一旦赤崎の腕をひねりあげ、投げ捨てるように乱暴に解放した。それはとても高圧的な態度で、瞳には不自然なまでの強い怒りの光が灯っていた。

 約束とは自分からはジーノに絶対に近づかないこと。ジーノが招き入れない限り部屋に入ってもいけないこと。これは持田の厳命だった。
 何故なら居場所を失った脆い今のジーノにとってその行為は非常に危険だと持田が判断したからだ。部屋の主である自分自身ですら遵守していた最低限のジーノへの配慮だった。

 ジーノは今、まともな食事も睡眠もほとんど取れないギリギリの状態で、断続的に生じる喪失に対するジーノの強い憤りはわずかに残された体力をも削り、時の流れを感じさせるちょっとした日差しの刺激にすら疲弊し始めていた。そんなジーノ の為に持田が用意したこの部屋の3枚目のカーテンは実に遮光率100%。少しずつそれらしく低刺激の環境を整えたこの疑似的な巣で、ジーノは昨日やっと眠りらしきものを手に入れたばかりだった。

 そしてたった今持田が見たのは、そんな状態にあるジーノの恐怖を赤崎が不用意に煽り、抉り、気付かぬままに更に追い打ちを掛けようしている光景だった。事情を知らないからとはいえその場の勢いだけで考えなしに極端な行為に出てしまうこの性質。持田にしてみれば今すぐ怒鳴りつけて家から叩き出してしまいたいくらいのやり方だ。ジーノという人間の仕組みそのものを理解しない、赤崎のあまりに絶望的な無神経に頭を抱えた。

――果たしてこれで良かったのだろうか

 でも持田は既にこの未熟で稚拙なコマに全部をかけてしまった。この段になって目くじらを立てたところで何もかも遅い事等重々承知のはずではあった。
 あの日大きく破損して戻ってきたジーノはもはや均衡を保っている方がおかしい状態。細やかな環境調整だけで男の崩壊を押しとどめるなど絶望の域に入ったと言っていい。助けようにもジーノの悲嘆に引きずられる自身の無力と悲しみは持田をも苦しめ、今はもう赤崎のもつこの無謀による未来への希望と絶望こそが持田の手にする小さな藁だった。

「嫌……」
「落ち着けよジーノ」
「……え……モッチー?今まで一体どこ行ってたんだい?」
「んなもん、どこでもいいだろ」
「駄目だよ?あんまり出歩いちゃ。来て?ここに……ねぇ、大丈夫だった?」

 この期に及んで自分の足を気遣うジーノの愚かに持田は苦しみを新たにする。自分の荷物は自分のものであるという覚悟が揺らぐ。
 だが、持田の重たい悲嘆の枷を見つけ傷を舐めるジーノは故障中で、逆もまた然りだった。引き摺られるように互いの深手を舐めあう未来は身食いを思わせる穏やかな絶望への一本道。
 だから今持田は人一倍気丈に。態度だけは颯爽と、何でもないような顔をしてジーノのいるベッドの傍へ。

 近付いてくる時間すら待てない、とジーノはベッドに腰掛けながらまるで幼い子供のように両手を開いて男を受け入れようとする。この仕草は自身が必要としていながら、その一方で持田がそれを必要としているであろうという無意識の中の労わりのものでもあった。

 だがしかし、その手を無視して持田は淡々とベッドに浅く腰かける。

「ったく……」
「……」

 絡みつくツタのようにジーノの腕はスルリと持田の服の中へ。極自然なその卑猥。何も見えていない瞳に少しだけ光。Tシャツの中の地肌を弄られピクリと反応する持田はその手をやんわりと押し止める。

「おい、さもしいぞ」
「いいじゃない、触らせて」
「やめろ。駄目だっつってんだろ?」
「だって……Mi manchi da morire(死ぬほど淋しい) ……キミもだろう?こんなの無理。耐えられない」

 しかし、持田はまるでじゃれつく猫をあしらうようにしながらジーノを押しよけ、サイドテーブルに置かれたペットボトルを手に取り口元に運んだ。

「……」

 ジーノがそれを見るなり物欲しげにぽかりと口を開ければ、持田はぶしつけにそれを押し当て口の中に流し込む。言葉の必要ない二人だけの密室のような世界が赤崎の目の前に広がっていた。ここでは組み間違えたアンバランスこそが調和の力、正義だった。カジュアルとイタトラ、組み合わせの違和感。バラバラな不自然こそが完璧をもたらす唯一無二の芸術品のようなものに見えた。

 そのまま大人しく飲むジーノの口からはタラタラと水分が滴り落ち始め、持田の与えるその飲み切れぬ程の急な勢いにとうとう咳き込んでしまう。むせ返るジーノの哀れ、誤嚥を吐き出す気力すらもう不足がちでコンコンと小さく肩が揺れている。

――わかるよ?でもなんでよりによってこいつなんだよ。なぁ、ジーノ?

 持田はわざとらしい乱暴をやった後に、今度は労わる様に自分の袖口で哀れな男を拭う。ジーノは大人しく拭かれるがままになっていた。濡れた口元と首、胸元、腕、そして見るも憚る場所も全て。

(こんな王子……見たことない……この人らの関係って一体……)

 赤崎が見ていたのは、邪険な扱いで蹴られても足にまとわりついて喉を鳴らす、そんな哀れな猫のようなジーノの姿だった。あまりに無防備、そして従順。心打ちとけた信頼関係という言葉がピッタリと当てはまる穏やかな光景だった。

「やだ、これ、水じゃないか」
「バァカ、てめぇが欲しがったんだろうが」

 何もかもまるで心地よい音楽のようにリズミカル。態度、台詞、リアクション。ジーノがポツリとガッカリする言葉を小さく呟けば、欲しかったのはこれだろうと持田はテーブルに置かれてた赤い液体の入ったグラスを差し出した。するとそんなもの要らないと言わんばかりにジーノがキュッと眉をしかめるので、持田は呆れたように床に転がっていたボトルを手に取り、蓋を開けてそのままジーノに手渡した。

「あ……持田さん、それはいくらなんでも」

 赤崎の驚きを尻目にジーノは嬉しそうにそれに直接口を付ける。そして先ほど同様、そのうち口元からタラタラと水滴を垂らし、半量を過ぎる頃にはケホケホと苦しげにむせ込んでいた。当たり前だ。あの赤崎にも見覚えがある700mlサイズのあのボトルはイタリア特産の蒸留酒で、ジーノの家でコーヒーに香り付けするために時々使用していたものだ。実に40度を超える酒を一気飲みなど馬鹿げているにも程がある。

「あーあー、ったく、またかよ。ま、やると思ったけど」

 再び袖口で拭いながらも持田は楽しげに笑っていた。

「ねぇ、喉渇いた」
「もうスパークリングねぇよ。昨日のアレが最後」
「えー?嘘」
「じゃこれ飲めよ」
「やだよそんなヌルい水」
「じゃ氷」
「……取ってきて?」
「お前さっきなんつった?あの気遣いは結局口ばっかか」
「だってうろうろ出来るんなら平気だってことかなーって」
「なわけねぇだろ?ったくてめぇで取ってこい」
「冗談だよ。言ってみただけでしょ?いい、いらない。氷なんて」

 ジーノは渋々といった風情で再び先ほどの酒瓶に口を付ける。あっという間に残りは1/3になっていた。

(あの強い酒の口直しに水や炭酸水ではなくスパークリングワインを?)

 赤崎は当たり前のように繰り広げられている次元の違う豪胆な飲酒の在り方にあきれて物も言えなかった。

 度数の高い酒の摂取によってジーノの頬には少しだけ血色が戻り、しかし瞳の虚ろは少し進んだ。ジーノの奇妙は確かに泥酔も一つの原因だったようだ。こんな乱暴な飲み方をしていればおかしくなるのも当然ではある。改めて床に転がる見慣れぬ酒瓶を眺めて見ればほとんどが開栓済みになっていた。

(まさかこの量……今みたいなピッチでずっと?)

 ジーノは笑って持田に飲みかけの瓶を差し出し飲むかと誘う仕草をする。いらないお前が飲めよと言わんばかりに持田が顎をクイッとさせて返事すれば、少し唇を尖らせて口を開く。

「なーんで?」
「それ嫌い」
「ひっど……」
「あといい加減お前飲み過ぎ」
「だってキミが無理矢理飲め飲めって最初にさぁ?いや、参るよ。フフフ、この前だって油断してたら……さすがにボクも今まであんな変な風に飲んだことなんて」

 ジーノはこみ上げてくる笑いを抑えられないのか、床に転がる空瓶を眺めながらずっとそうして笑っている。

「え?無理矢理?持田さん今王子なんて?」

 疑問をぶつけても持田は相変わらず赤崎には素知らぬ顔をしているだけ。ジーノだけが反応を示し、ニヤニヤと楽しそうに赤崎に話しかけはじめる。

「聞きたいの?どんな風にボクにどうやって飲ませようとしたのか……ビックリだ。フフフ、あんな飲み方しちゃったらボクどうかしちゃう……よ?モッチーって、ちょっとヤバいったらない」
「どうかしちゃう?ヤバいって何が…?王子?」
「フフフ…あのねぇ?モッチーったらねぇ?」
「おいやめろっつってんだろ、この馬鹿」
「わー、怒った?フフフ言いたいなぁー?」
「言いたいのはこの悪い口か?」

 持田は実力行使と言わんばかりにジーノの頬をキュッと指で掴んだ。すると変な顔になってしまったジーノは、うんうんと嫌がりながらも楽しそうに笑っていた。ジーノの語る意味深とキスでもしそうなほど近づく親密過ぎる持田との距離感に赤崎はあらぬ光景を思い浮かべた。まさか、でも。この二人ならありうる。というよりもこれだけしっくりくる二人の関係性の中にそういうものが何もないと考えることのほうが寧ろ不自然に思えた。

 暫くして口を解放されたジーノはそのままご機嫌そうに、赤崎に目もくれずイタリア語でなにかブツブツ言っている。paglia che beve♪paglia che beve♪と情景を思い浮かべて何やら自作の出鱈目な歌を歌っていたわけだが、赤崎にわかるはずもなく、認識したことはこの状態ではとてもお話にならない。そんなことだけだった。