鎖に繋がれて 8
ジーノ帰宅後、ジノザキ二人で喧嘩が始まります。ずーっと喧嘩(エロ風味)。ジーノが邪悪。R18G。人によっては不快な展開かもなので、無理そうな気がする人は1ページ目に入れたあらすじの参考に今回と次回は読み飛ばし推奨。ネチネチネチネチ、延々と二人でずーっと話してます。
追飲
「熟睡してたね。随分疲れてたんじゃない?」
少し強張った自身の体からジーノは赤崎の腕を優しく引き剥がし、少し肩を竦めてこう言った。
「いや……スイマセン俺」
「別に謝る必要ないさ。ボクはその隙にシャワー浴びてきちゃった。体がベタベタで気持ち悪かったし、着替えるついでにね」
笑顔を浮かて日常会話。そんなジーノに寧ろ不自然を感じた赤崎は、何をどう切り出していいのかもわからない。今日は沢山のジーノを見た。その中でもこの姿は最も王子然としたものでありながら、今はもう、赤崎の目には空々しさしか感じられない。
するとジーノが、ボク達いつまでここでこうしてればいいのかな?と言うので、赤崎は咄嗟にまたスイマセンと謝るしかなく、
「とりあえず、あの……」
と、赤崎は顔だけの仕草でジーノにリビングに行こうと促した。ジーノは澄ました表情を浮かべて赤崎に、お先にどうぞ、と左手で進行方向を指し示す。前を歩かされるのは居心地が悪い。そう思いながら赤崎はジーノの指示に従った。
とことん、気が済むまで話をしよう。そんな風に覚悟を決めておきながら、持田の家で見た虚ろと、二人の眠りで見せた優しさと、そして今見る不自然な日常の間で大きく振れるジーノのスタンスに、赤崎の頭は混乱を深めていくばかりになっていた。話をするといっても、何を、どこから、どうやって切り出せばよいのだろうか?
* * *
無言のまま所在なさ気に赤崎がカウチに座ったが、待っていてもジーノは一向にやってこなかった。
そのかわりポッと新たな明かりが灯り、カップボードを開く音が聞こえてきたので、ジーノがリビング隣のオープンキッチンに立ち寄っていることを知った。
「ねぇ、聞いていいかな。ボク、なんでここにいるの?」
素知らぬ風情でジーノが問う。
「俺が持田さんちに行って、二人でここにタクシーで連れてきました」
「ふ~ん、そう?なんかゴメンね?」
「ごめんって、何がですか?」
「大変だったんじゃない?結構。よく覚えてないんだけどね」
「いえ、大したことは」
いつのまに用意していたのだろう?キッチンのワークトップには氷で満たされた愛用のシャンパンクーラーが鎮座していて、男は優美な手つきでボトルを一本取り出し、布巾で丁寧に水滴を拭う。続けてセラーを開けている。新たにもう一本冷やそうとしていることが見て取れたので赤崎は、この人はまだ更に飲むつもりなのだろうか?と訝らざるを得なかった。
そして男はようやく、ゆっくりとこちらに向かう。片手には背が高くて細長い、非常にデリケートなフォルムのシャンパングラス。もう片手には、あの見慣れたラベルのシャンパーニュ。一時期よく飲んでいたロゼの辛口のそれは、かつてジーノが最近のお気に入りなんだと言っていた一品だった。
”この大げさすぎる金のデザインが好みじゃないけれど”
”ねぇ見てよ、ほら、綺麗だねぇ?この注いだ感じの色が好きなんだ”
”クリスタルって名前にピッタリ。澄んでて、シャープで”
”口当たりは刺激的でちょっと辛いくらいなのに暫くするとフワッて。何とも言えず、甘くて、いい匂いで”
”似てる……”
”え?何と似てるって?……なんの話?ボク今なんか言った?”
確かに女性的になりすぎない、あのロゼというよりも黄金に近い琥珀の色は、手にしたいつものあのフルート型のグラスに美しく、それを持つジーノの白く長い指先の繊細一つに対しても大変よく似合っているものだった。
(テレビであれの値段知って吃驚したっけ……なんでもない宅飲みでチョコチョコ普通に出てくる酒が5万もするとか、ホント生活レベルが違う)
ジーノはグラスとボトルを手に赤崎から少し離れたダイニングテーブルにゆったり近付いた。立ったまま優雅な仕草で開栓し、コトリとコルクを脇に置いては飴色の液体をグラスに注ぐ。けれど通常、注ぎ入れる量から水流の速さまで飲み物の種類に合わせて神経を配る男なのに、その手つきが今おぼつかない。案の定、ボトルがふらつくがままにシャンパーニュの撥ねた琥珀がテーブルを濡らした。男はそんな子細など気にも留めない様子で、座りもせずにスレスレまで注がれたグラスの中身を、まるでビールのように一息に飲み干した。赤崎はぎょっとして思わず口を挟む。
「そんな!よくないッスよ、そんな飲み方」
「ん?あぁ、下品で失礼?ちょっと喉乾いちゃってて我慢出来なかった」
「下品とかそういう意味じゃなくて、こんなのあんたらしくないでしょう?」
「ボクらしく?何がだい?」
「わかってますよね?今オンシーズンなんですよ?やめてください、これ以上そんな風に飲み続けてたらあんた……」
「いいんだよ別に。構わない」
「構いますよ!」
「構わないんだよ。何やったってね?ボクはこれからずっとオフなんだから」
馬鹿にするようなジーノの言い方にカチンときた赤崎は、感情のままに刺々しく言い返した。
「後藤さん、そんな話なんて蹴るって言ってましたよ」
するとジーノは片眉を不愉快そうに持ち上げた。
「彼……キミにレターのことを?」
最初に比べれば随分正気に戻っているかのようだったが、やはりまだ酔ってはいるようだ。自ら“ずっとオフ”だと迂闊に口にしたにもかかわらず、その自身のお粗末さにすら無頓着。
「あの人、案外おしゃべりなんだね。社会人失格。全く……ルール違反だよ、そういうの」
そういいながら、ジーノはその場に立ったまま2杯目を無造作にグラスに注いでいた。いつもの状態ならレターの話など口にするどころか絶対シラを切り通すだろうに、今はこうして柄にもなく不用意な発言を繰り返す。酔ってまともな話が出来ないのは困ったが、おかげで少しガードが甘くなっている。赤崎は自分のやり方次第で普段よりはまだなんとかなるかもしれない、とそう思った。
