お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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鎖に繋がれて 8

ジーノ帰宅後、ジノザキ二人で喧嘩が始まります。ずーっと喧嘩(エロ風味)。ジーノが邪悪。R18G。人によっては不快な展開かもなので、無理そうな気がする人は1ページ目に入れたあらすじの参考に今回と次回は読み飛ばし推奨。ネチネチネチネチ、延々と二人でずーっと話してます。

痛飲

「ルール違反はあんたでしょ。何急に行方くらましてンスか」

 考えても仕方がないと、赤崎は単刀直入に核心の話を持ち出した。

「しかも突然辞めるとか言い出して。勝手過ぎますよ」
「……ま、そうかもね。でもキミが文句言う筋合いはないと思うよ?ボクが契約してるのはチームであってキミじゃないんだから」
「契約はないけど俺には話してくれてもいいでしょ?なんでこんな急に」
「別に話す義理もないよ」
「義理とかそういう問題じゃない!」
「じゃ話す必要性を感じない、でいい?これならボクの主観だから文句ないよね」
「そんな言い回しの話してんじゃないし、どっちでも俺には関係ない。俺には必要性がある。王子、俺はどうあってもキチンと言ってもらうつもりだからな?」

 ジーノはそれを聞いてうんざりとした顔をした。そして2杯目も乱暴に呷り、炭酸がきつかったのか少し苦し気な表情を浮かべつつも、すかさず3杯目を注ぎ入れている。澄ました態度でいながらも、トクトクと無造作に注がれる酒はシュワシュワと泡立ち、先程同様テーブルにまで薄く零れ広がっていく。

「……解除の話なら、それはボクが馬鹿だからだよ。そう、馬鹿なんだ」

 ジーノは首にかけていたタオルでそれを適当に拭きつつ、少し落ち着いた口ぶりで赤崎にこう言った。

「仕方ないよね?だからやめた。そういうことだよ」
「……何言ってンスか?馬鹿だからとか、そんなの、ちっとも説明になってないでしょう?」
「何故?本当の理由をちゃんと言ってるのにそんな風に言われたら不愉快だね。これ以上ボクには説明しようがないし、一体どうしろって言うんだよ」

 赤崎の方には一切目もくれず、続けて3杯目を口にする。半分残して唇をチロリと舐めたジーノは、人心地ついたのか椅子を引出しゆっくりと腰掛けた。つまり、赤崎のいるカウチのところには来る気がないらしい。
 座る時少し足元がふらついていたのは酒のせいか体調のせいか。顔色もドンドン青褪めていく。まだまだ酒が残った状態で更にこれではさすがに内臓がやられてしまう。怒らせてでも何でも、飲むのをやめさせないと。

「俺と話すの、そんなに怖いンスか?」

 凛としたその赤崎の一言を受けて、飲み干そうとしていたジーノの手が、つ、と止まる。それを確認して赤崎は続ける。

「あんたが不愉快だろうがなんだろうがどうでもいい。けどとりあえず酒、一回終わりにしてくださいよ。離れたとこに座ったり酒に逃げても無駄だ」
「……」
「言っておくけど王子。ちゃんと話してくれるまで、俺は一歩も譲らねぇからな」
「何?今日のザッキー、随分男らしいね」

 そう言いながら、ジーノは手を止めたのは赤崎の言うことを聞き入れたわけではないんだよ、とでも言いたいのか無言でボトルを手に取り、減った分をグラスに継ぎ足した。継ぎ足しなど論外。そんな、嘗て赤崎に言っていた自らの言葉すら、もはや忘れて、子供のような無意味で小さな反逆をしてみせる。

「王子」
「……」

 赤崎の気持ちを汲む気はサラサラないような尊大な態度。けれど少し細身になったように見える体とこれだけ飲んでいるのに血色のない肌のせいで、ジーノのあの強烈な存在感がまるで感じられず、とても弱々しい生き物のように見えた。
 いつも人を見透かすように見つめる目が、人に見透かされまいとするように彷徨い逸らす、茫洋とした視線になってしまっている。その態度、その仕草全てが、赤崎の言葉を真実に変えていく。

 ジーノは逃げている。そう、爪先ひとつの接点も、まともに向き合う気配もない。心とその身と同じように、二人は遠く、擦れ違いばかりだ。赤崎は追う。逃げるジーノよりも速い速度で。いつもならやる前に諦めざるを得ないような、そんな無謀を今は必死で、無我夢中で。追いつける、目前の獲物は致命傷でろくに動く力がないはず。
 いつものあのプライドの高さや気丈さすら一つも感じられないひ弱なばかりのジーノの姿に、赤崎は戸惑いながらも更に詰め寄る。

「茶化して逃げようとしても駄目だ。何があったんですか?」
「……」
「ちゃんと話してくださいよ」
「……」
「王子!」
「……もう……説明した」

 何が何でもとは思いつつも、こんな子供じみた返事を返すジーノのあまりに痛々しいその姿に、まるで自分が虐めている様な気さえしてやはり心はジクリと痛んだ。でもやめない。捕まえてやる、とそう思った。

「説明になってない」
「……そういう態度、すごくイライラする。何かい?キミはボクと議論をしたいということかい?」
「……」
「やりたいならキミは議論というルールにもっと媚び無いと。そんな揚げ足取るだけのやり方じゃ議論もどきとしてすら成立しないよ?」

 ジーノは何かうまい事を言い返そうとしているようだったが、その言葉には知性も威厳もなんら存在していなかった。この人はもう、ガタガタだ。そんなことだけこの身に切々と。赤崎はそのことに深い悲しみをおぼえた。
 だから、男を労わる優しい言葉を掛けたかった。けれど赤崎の方も何も思いつかず、少し返答をするタイミングを逸してしまう。するとジーノはこんな風に言葉を重ねた。

「まぁ、いいけどね?こんなキミとのイライラの時間もこれが最後だし」

 皮肉を気取ったその顔が、すっと遠いモノを見る目に変化する。風に揺れる男の長い黒髪のように、ジーノの姿はヒラヒラ振れる。

「全く……もう何か月も前に終わらせたはずだったのに、キミ本当にしつこいから参るよ。でももう」
「もう、何ですか?」
「もう懲りたから。ここ、明日にでも引き払うよ。二度とこんな目に合わない様にね?なんだか億劫で延び延びになってたけど、本当はこの前モッチーに荷物頼んだんだって、それ以外は全部処分する予定で……」
「……冗談だろ?あんた一体何処行くつもりだよ」

 ジーノは、そんな事教えるわけがないだろう?といった表情で黙ってもう一度グラスに口を付けている。

「逃げても無駄だっつってんだろ?」
「逃げるんじゃないよ。お、わ、り。わかるだろう?ここはもういらないんだ。キミもジムもプールもなにもかももうボクには必要ない。いらない。全部。一つの物語が終わって、新しいお話が始まる。そういうことだよ」
「必要……あるだろ?」
「ないね。ボクはもう目が覚めたし気持ちも冷めた。キミも早いとこ彼女でも作って平和な生活に戻るのが一番いいと思うよ?あとあれだね、貧乏で憐れなキミの為にここ、丸ごと置いてってあげてもいいかな?ともこの前まで思ってたんだけど……。なんか今日ムカついたからやめることにする。まあ、でも……持ち出せる分くらいは持ってっていいよ?せっかくだしね?ああ、そうだ。御執心だったあのテレビでも持っていくかい?あれくらいならなんとかキミの車でも運べるんじゃないかな?」

 溜息をつく赤崎にジーノが言葉を止めた。

「……なんだい?」
「終わりとか、何が平和で、何が一番いいとか……あんたにそんなこと決められる筋合いねぇよ」

 ジーノは簡単に言い返されて、キュ、と眉を顰めてそのまま黙り込んだ。

「なんも終わってねぇ」

 水のように呷っていたはずのお気に入りの琥珀を、今はまるで苦い薬のように少しずつ手持無沙汰に舐めている。その追い詰められているような憐れな男の姿を、赤崎はじっと黙って見つめていた。

 3杯目。無理矢理な嚥下に苦痛すら滲ませながら4杯目を空にして。

「……いいんだよ、もう」

 5杯目のそれを注いだ後、熟考のジーノが発した言葉はこんなものだった。

 そして、その瞬間突然蘇る、あの大きな身振り、手振り。上体を起こして赤崎の居るカウチの方に向きなおる。組み替えた足は大胆に、広げた腕の片方は軽くグラスを掲げ、竦めた首の角度はいつもと同じに高慢でいながら上品で。けれど、威圧的なあの眼力は持たず、持田の家で見た虚ろな瞳と同じものが赤崎の姿を追うように彷徨うばかりだった。

「ザッキー、今までありがとう。色々ごめんね?本当に、本当に悪かったと思ってる」

 王子然とした男の言葉は、やはりその視線同様取り留めもなく、果たして自身がその意を咀嚼できているのかすら怪しいものだった。この人は戦法を変えようにも本当にもうこんなにガタガタで、何も出来ずに無為に話を畳みにかかることくらいしかやれてない。赤崎はそんな男の現状だけを理解した。考えに考えて行ったはずのこの惨めな男のその必死さが今、赤崎の心を締め上げる。

 王子、もういいから。と、言って抱き締めてしまいたくなる。でも赤崎は思い直す。自分は男の疲弊を好機と捉えてでも、絶対にやり遂げねばならないことがあるから。
 手加減は無用。そう、赤崎はどんな姿をしていようと、相手があのジーノという男であることを忘れはしなかった。捕獲し、説得し、どうやってもこのかけがえのない男をチームに連れ戻さねばならない。

「適当に謝りやがって、やけくそになんなよ。真面目にやってください?王子?」

 だから赤崎は、こうして更にジーノを追い詰める。この時、男は赤崎の反撃に対しての反射的な怒りすら見せていた。もう己を繕う力すら残されていないのだ。

「そんなので……強引に店仕舞いしようたって無理だ。いくら酔っててもわかんだろ?それくらい。俺は本気なんだ」

 怒りに乱れた自分の心情に気が付いて、ジーノが小さい深呼吸。仕切り直しと言わんばかりに、再び優しげな表情を試みている。

「フフフ、そんな抵抗してみせなくても大丈夫だよ?……みんな終わりってなれば少しは未練がましい気持ちになるものだけれど……そんなのその時だけで、すぐ忘れる。あっけなく心なんて切り替わっていく。意外と人間ってタフっていうか、思ったより丈夫な生き物だから」
「無理だ」
「無理じゃないさ、結構簡単だよ」

 まるで余裕のない男が、いつものように子供をあやすように赤崎に笑う。その陳腐さに、赤崎は我慢がならなかった。何故今この人はこんなことを口にするのか。その言葉の浅さをわかっていながら?それとも、もうそれすらわからずに?

「……あんた、なんもわかってねぇ」
「フフフ、残念。キミのことならなんでもわかるよ。それこそ手に取るように、なーんでもね?」
「違う。俺のことじゃねぇよ、あんたには無理だって言ってるんだ。あんた、そんな簡単にサッカーから離れられるわけない。絶対忘れられない、切り替われない。タフじゃないし、丈夫でもない。もし本気でそれを言うなら、あんたは本物の馬鹿だ」

 その時のジーノの表情。それはこれまで赤崎が見たこともない、心が揺れて崩れていくような危うさを含んでいた。叫び、そのまま息絶えてしまうのではないかという錯覚すら。でも、そうはならなかった。

「キミは……本当に意地悪だね。今はそんな話をしてるわけじゃ……すり替えないでくれないかい?」
「そんなつもりねぇよ」
「……知ってるよ。だから意地悪なんだ」
「よくわかんねぇ」
「もう、これ以上」
「王子?」
「……そういうの、ホントやめてくれないかな、頼むよ……」

 空になりつつあった背の高いグラスを、ジーノは力なくテーブルの上に乗せた。こんな風にジーノが頼み事をすることも初めてのこと。

   実質、これは敗北宣言だろうか?この高慢な人が?

 それでも、そう思っても、赤崎はやめなかった。今日はもう、ジーノがリビングに戻る様に言ったその時からとことんやると。自分も相手もこの先どうなろうと構わない。目的の為には手段も問わない。そんな風に決意していたから。絶対に逃がさない。そう思った。

「サッカーしかないあんたがサッカーやれないなんて、そんなの、すっごく辛いでしょう?あんた今、無茶なことやってる。投げやりになって出鱈目やろうとしてる。それはあんたが自分自身で一番わかってることじゃないンスか?」
「……ボクは、サッカーが全てなキミとは違うし、別にその事に関してキミと話し合おうなんて思ってない」
「同じだろ?俺と!つかあんたは俺以上にサッカーの事を」
「何を言ってる?サッカーなんかより楽しい事なんて、そりゃあもう沢山ボクには」
「誤魔化すなよ。あんたサッカーだけじゃねぇか!他に大事なもんなんてないだろ?」
「あるよ、色々と、数えきれないくらい」
「なんもねぇよ!あんたには!どんなに辛くても苦しくても、あんたは絶対離れらんねぇ。そんなこと出来るわけがない。だってあんた、あんなに打ち込んでた。真剣に、真面目に、必死に。俺は知ってる。傍で見てきたんだから、ずっとこの目で、あんたのそんな姿を俺は!」
「……」

 男はそれきり黙ってしまった。聞いているのか聞いていないのか、無表情にぼんやりしている。目を伏せ、身を捩り、まるで考えること自体やめてしまったかのような痛々しい姿だった。

「黙ってないでなんか言ってくださいよ」

 言い過ぎた。少しだけ繋がっていたような気がした二人の接点が、今ふつりと切れた音がした。王子然としたその姿が、みるみる人形に変わっていく。ああ、そうだこの人はついさっきまでずっとこの姿を自分に晒していたではないか。

 体を強張らせて、いつの間にか足を隣の椅子の上に掛けて体操座りのような姿勢になっている。言葉を詰まらせ、小さく、小さく、背を向け隠れるようにすっかり竦むジーノを見て、赤崎は心配で思わず立ち上がった。

 近づく赤崎のその気配を察知したのか、ジーノの体はピクリと震え、顔を伏せてさらに小さく体を縮めた。まるで本当に怒られている子供のような男の姿に、持田の言ったあの言葉を思い出す。

”あいつがいいって言わない限り、ぜってーあいつに近付くなよ?”

“ほら、こうして頭撫でてりゃご機嫌だから。な?単純なんだよこいつ”

 どっちだ?俺はどうすればいい?逡巡の後、赤崎は意を決したようにジーノの傍まで駆けつけて、持田がやったように頭にそっと手を置いた。
 ジーノの背後。赤崎がその少し濡れた髪に触れた瞬間、少し俯き避ける素振りを見せたが、ジーノは跳ね除けることもせずに大人しく赤崎の手を受け入れた。赤崎は胸を撫で下ろす。よかった、こっちが正解だったかと。

 暫くそうして黙って撫でていると、少しずつ緊張しきったジーノの体から力が抜けていくのが感じられた。まともにしゃべっているかのように思えていたけれど、やはりジーノの様子は変なままなのだ。それも当然。あの家で見た酷い状態から、まだ半日も経っていなかった。