鎖に繋がれて 8
ジーノ帰宅後、ジノザキ二人で喧嘩が始まります。ずーっと喧嘩(エロ風味)。ジーノが邪悪。R18G。人によっては不快な展開かもなので、無理そうな気がする人は1ページ目に入れたあらすじの参考に今回と次回は読み飛ばし推奨。ネチネチネチネチ、延々と二人でずーっと話してます。
溢水
「王子」
持田がやっていたようにゆっくりと体を引き寄せると、ジーノはされるがままにおずおずとその身を赤崎に預けた。風呂上がりのはずの肌が冷たい。ぐったりとした力の入らない体はまるで人形のそれであり、酔って何もかも忘れてしまいたい、そんなジーノ自身の意思も今はもう丸々全部透けて見えさえする。
「たった一人でこんなになるまで頑張っちゃって……ねぇ、王子。大変だったッスよね?」
「……」
「説明出来ないの、わかります。あんたみたいに明晰な人が、こんなわけのわからないぶん投げ方するくらいなんだから、よっぽどなんだろうなって。ねぇ、きっともう、自分でもどこから手を付けていいのかわからないんでしょう?辛いの、沢山、沢山、心に詰め込み過ぎちゃって。上手に言えなくてもいいんです。端っこから少しずつで構わないから。俺に、吐き出してみてくれませんか?」
「……」
「力になりたいんだ、王子。大丈夫、俺馬鹿だから。きっと聞いてもあんたの話なんて理解出来ないし?それにきっと覚えてられなくてすぐ忘れちゃいますよ多分。だから、そうやって少しずつ……そう、前言ってたサボテンに話すみたいな感じで俺に……一人で抱えてた心の中のごちゃごちゃ口に出して全部、そうやって綺麗にして……一回空っぽになってみましょうよ。終わらせることなんていつでも出来る。そんなのどうせ勝手にきちゃうもんなんだから。だから今は、楽になることだけ考えて、終わるだの捨てるだのなんだのっていうのは俺みたいなのが用済みになった段階で、あらためて、ね?王子。だから、今はなんでもいいから、俺と一緒に」
「出来ない。ザッキー、それは」
「……そんなこと言わないで、駄目元で。そりゃ俺なんてアテにならないかもしんないけど。この際、モノは試しで、王子。俺があんたのことすっごく好きなことは知ってるでしょう?口だけは堅いッスから絶対誰にも漏らしません、あんたが不利になるようなことなんて何一つ。それだけは必ず約束する。だから」
「違う。そうじゃないんだ」
「王子……」
「やらないんじゃない、出来ないんだよザッキー、ボクは」
「そんなこと……出来ますよ。大丈夫、サッカーを失うことよりも辛いことなんてないでしょう?ほら、どうでもいい捨てる予定の相手なら、ね?寧ろ好き勝手に利用すればいい。八つ当たりでも何でも、まずはもっと我儘になってストレスも全部発散して、そうすればきっと元通りに」
「元通りって何が?キミに何がわかる?そんなの全部、嘘じゃないか!キミはボクを知らないからそんなこと言えるんだ」
「……」
「ボクは!とっくにサッカーを失ってる!ずっと、ずっと前からだ。それらしい真似事を……やっているに過ぎないだけで……碌に……もう、もう、いいんだ。元に戻るって言うなら、今がそうだ。もう疲れた。全部おしまいにする、何もかも」
「王子、何言ってんですか?真似事であんなプレイ出来るわけがないでしょう?碌にとか、世の中のみんなが一体どれだけあんたのプレイに魅せられてきたと思ってるんだ?もう自分に言い訳をするの、やめたほうがいいよ王子」
「違う。違う。無意味なことなんだよ。最初から何もかも全部」
「そうですか、じゃ、今はそれでもいいですよ。では、結果よりも過程が大事だって言ってたことは?あれはどう考えるんですか?あんた俺に言ってたでしょう?やる前から諦めたらなんにもならないって。どんな時でも前を向くことが何よりも一番重要だって」
「俺に、言ったでしょう?俺の持ってるそういう部分がすごくいいって。ずっとサブで腐ってた時も、すっげぇミスして落ち込んでた時も、全然上手くなんなくてやけくそになりかけてた時も、あんたいっつも……俺が雑草みたいに頑丈だから面白いって、軽く笑って……キミは絶対自分を諦めない、何より大事なことをちゃんとわかってるんだねって……今は出来なくても、この先に繋げて、きっと次は絶対に……って……そういう風に、キミはやれる、出来る、大丈夫って……あんた、いっつも、何回も、何回も、信じてるって俺に……言ってくれてたじゃないですか。だから俺は今までこうして……」
「都合のいい事だけを記憶しているのかい?そんなところもキミらしいよ。ボクは結果が全てだとも言っていたよね?何を重要とするかなんて、その時の気分でかわる。大した話じゃないことを、後生大事に宝物のように大事にする癖がキミにあるだけさ」
「あんたはいつもいつも。そうやってゴチャゴチャ視点を持ちすぎるから本当に大事な自分の気持ちを、本当に言いたいことを見失うんだ!」
肩を掴み、強引にジーノを自分の方に向ける。よろけて足が床に触れ、文句ありげに見上げたジーノのその唇に、赤崎は顔を寄せて口付けをする。掴んだ腕こそ乱暴だったが、赤崎のその、羽毛のようにソフトで優しいキスのやり方は全部ジーノに教えられたもの。赤崎は辛く悲しい時にいつも自分がそうされてきたように、沢山沢山、星降る程の口付けをジーノに落としていく。ジーノはキスが大好きだったけれど、赤崎は乞われどもいつも恥ずかしがって、まともに男の願いを叶えることはなかった。するとしても、ベッドの中で快感の渦に攻め立てられて、求められて、求められて、そうされてやっと、ほんの少しのお返しをするだけで。こんな風に自らの意思で、ジーノに浴びる程のキスをするのは、あまり数のあることではなかった。
「ぅ……」
普段からは考えられない赤崎の突然の行動に、ジーノは思わず吐息を漏らす。そのまま人形のように動けず抵抗も出来ないジーノの体を覆うように、髪に、目に、耳に、頬に、赤崎はあらゆる場所にキスを降らす。
「そうですよね。俺はあんたをいつも苦しめる。俺は自分本位で、あんたのこと全然わかんなくて、あんたがどれだけ苦かろうと、譲らず、我を押し通すばかりで。でも申し訳ないけど、俺、真っ直ぐしか進めないから。どれだけあんたが逃げても、きっといつまでもこうやって追いかけ続けますよ?しつこいのはわかってんだろ?大人しく引き下がるなんて、そもそも無理な話なんだ。いつも俺はそれを忘れて、利口になったつもりで、アホ面下げて立ち止まるばっかで。あんたのほうが俺の事よくわかってる」
「ザッキー、やめて」
「だから。もう俺は、あんたがどんだけ嫌がっても……絶対……出来ないって言おうがなんだろうが関係なくやらす」
「お願い、もう……」
「無理にでも向き合ってもらう。すいません、今はもうちゃんとわかった上でやりますから。あんたはこうして俺の傍にいると俺の為に何でもやってしまうのでしょう?どんなに苦しくても逃げ出せないんだ。でも、大丈夫。もう、あんたの言った通りこれが最後だから。あんたもそう考えて今回だけ我慢してください」
「自信過剰だ。キミが一体なんの強制力をボクに持ってると?どうしてそんな勘違い」
「現に今、あんたは俺の体を振り払うことすら出来ていないじゃないか。あんたは他人が強引に詰め寄れば絶対排除出来ない。説得して相手が自分の意志で動きださなきゃ、自分ではなんも出来ねぇ。上手に誤魔化してるけど、あんたはそういうタイプなんだ」
話しながら休まず繰り返される赤崎の甘いキスに体を震わせる。慣れ親しみ、わかり過ぎる程になじんだ美しい赤崎の体が、その熱い熱い体温が、ジーノの冷えきった肌を包む。排除なんて簡単だとでも言いたげに、ジーノは力の入らない両腕で身を離そうと試みる。けれどその身は無意識に、更なる触れ合いを求めて相手の体を包み込んでしまう。
「それに俺、あんたがどんだけ天邪鬼で、どんだけ俺の事好きかってことも、もう十分理解した。誤魔化せねぇよ?もう」
「一体何を言って?勘違いも甚だしいね、そんなのキミの錯覚だ。キミは知らないんだよ!ボクを!」
「誤魔化せない。あんたの価値観、なんかちょっとおかしいんだ。今回のことで少しわかった」
「キミはボクに騙されてるんだよ。なんにもわかっちゃいない!本当に単純で騙されやすくて、とても愚かで扱いやすくて……いっそ退屈するくらいだったんだ、キミとの遊びなんて」
「惹かれるんだろ」
「まさか!言ったろ?随分と退屈だったよ。でも、こんな遊びももう終わりだ。ボクは飽きたんだよ!どうしようもなくね!だから離してよ、ザッキーこれ以上無茶するならボクも本気で」
「そんな言葉ちっとも効かねぇよ?どんだけあんたに抱かれてきたと思ってるンだ?その腕が、その唇が俺にいつもそれを……俺は気付いたんだ。あんたの愛し方っていうものが一体どういうもんだったのかってことを。そんな減らず口で騙せるのは、もう、あんた自身だけだ」
「!」
「ほら、そんな力じゃ、全然俺から逃げ出せねぇよ?」
「ボクにそんな口を……」
「好きなんだろ?」
「そんなわけ!」
「あるだろ?」
「身の程ってものを、知らないのかい?」
「んだよそれ。ゴチャゴチャうるせぇよ」
「本気で馬鹿だね、キミは」
「いいから、王子。腹くくったから、俺あんたのこと全部受け止める。だから、そんな怖がらなくていいから、なんも考えないで……飛び込んできてくださいよ」
「キミは馬鹿だ、本気で言ってるのかい?なんにもわかってないくせに!知らないくせに!」
「本気です」
「わかってないんだ!」
「じゃあ教えろよ!どうせなんも大したこと出来ねぇくせに!いっつも口ばっかじゃねぇかあんた!」
「なッ」
「あんた自分で把握している以上におかしくなっちまってんだよ!あっちこっちガッタガタなんだ!諦めろ!もう逃げ道なんてねぇぞ!?」
「正気の沙汰じゃない、おかしいのはキミの方だ狂ってる!」
「俺は本気だっつてんだろ?王子!」
「本気で?」
「あぁ!本気だよ!」
「本気でボクを知りたいって?」
「ああ!」
「ボクが何を思ってきたかを、何がしたかったかを、それを全部知りたいって!」
「そうだよ!」
「本気でそう言うのかいキミは!後悔するよ!身の程知らずな乳臭い坊やが!!」
そう答えると、目の前にいる生気のない人形が、それはそれは美しい、心火を燃やす激情の獣になった。ジーノは赤崎に噛みつくようなキスを返すと、そのままの勢いで椅子から転げ落ち、あっという間に獲物を固い床に組み伏せてしまう。
さっきまであれほど弱々しかったのが嘘のように、痛いくらいに力強く赤崎を押さえつける腕。目の中には、溢れんばかりの怒りと欲求の光が宿っていた。そうして、全てを食いつくす猛獣のような貪欲が赤崎の全身に襲い掛かる。
「はっ!あぅ」
「本当に馬鹿で愚かなザッキー。ボクをこんなに怒らせてしまって。本当のボクはひどく乱暴なんだよ?そんなものを今更キミは知って、一体どうするつもりなんだい?」
過敏過ぎるキミには到底耐えられやしないさ、と言い捨てるその熱さ、その激情の瞳の色が、赤崎の目にはこの上なく美しいものに感じられた。
「人が折角親切に今までキミを。本当にキミは、愚者そのものだよ!自ら全部台無しにしてくれだなんてね!」
もっと激しく、もっと食い入るように見て欲しい。震え固まりながらも、赤崎はそう強く思った。
