鎖に繋がれて 8
ジーノ帰宅後、ジノザキ二人で喧嘩が始まります。ずーっと喧嘩(エロ風味)。ジーノが邪悪。R18G。人によっては不快な展開かもなので、無理そうな気がする人は1ページ目に入れたあらすじの参考に今回と次回は読み飛ばし推奨。ネチネチネチネチ、延々と二人でずーっと話してます。
追従
長い長いジーノの食事。あれだけアルコールを欲した男が今、赤崎の唾液で渇きを癒す。満足気な吐息を一つ、そうして男が身を起す。
獣のような目と矢じりのような鋭い目の、二人の視線がぶつかった。すると、そのままピタリと、ゼンマイが切れたかのようにジーノの動きが止まった。
「ハッ、ハァ……(王子……?)」
赤崎の自覚がないままに、ジーノは赤崎の真っ直ぐな瞳に射すくめられられていた。点火した獰猛に綻びと陰り。蹂躙を楽しむ獣から次第に何を考えているのかわからない人形のあの顔に変化していく。
高められて放り出された赤崎の体には、まだ当たり前のように快楽が残っていたが、そんな赤崎を無表情に見下ろしながらジーノが言った。
「……ほら、わかったかい?もう懲りたろう?」
「……」
「キミはボクに敵わない。だからもう馬鹿な事を言うのはやめるんだ」
何もかもが無価値。全て切って捨てる。その時の男が見せたものは、そんな、欲も希望も持たない目だった。
* * *
激しく嬲るようなものではない静かに重い声。ここにいながらどこかに行ってしまう、あの人形のように己の意思を放棄する姿に変化していく。
少しして、ジーノはフラリと立ち上がり、今度はカウチの方に歩みを進めて無造作に自身の体を投げ出した。それを見て赤崎は、体を震わせながらも考えた。今一瞬男の本質の欠片を掴んだのにするりと逃げだされてしまったのだ、と。もしくは、彼は勢いのままに今飛び込もうとして、でも結局不安に包まれ躊躇してしまったのだ、と。
体が燃え出して苦しくてたまらない。ジーノの事なんて放っておいて、今すぐここで自慰に耽ってしまいたいほどに。
そして、怖い。今のジーノの行為は今までで一番恐ろしかった。何物も顧みない男は、もしかすると赤崎自身の体を破壊することすら厭わないかもしれない。そんな正常と常識のスタンスの一線を、ちょっとしたきっかけで超えて行きかねない不穏な空気を感じた。愛すべき男に対する、初めての本能的な恐怖と不信。そんなものが赤崎の身を包んでいた。
それでも、自分は彼に今からもっと無理をさせるのだから、俺もここで引いては駄目なんだと思い直した。全部今更の話だ。
再びジーノを連れ戻そうと思うなら、もっと男の内部を、暴力的な衝動も含めて引き摺り出して、そして全部それを受け止めきらねばならない。それが出来なければ、底から先にあるであるであろうジーノからの真の信頼など絶対に勝ち取れない。連れ戻すのはその信頼の先の先のずっと向こうの話なのだから、こんな程度のことで怯んでられない、と覚悟を新たにする。
「ボクを追い詰めるなんて幻想は捨てなきゃね?ボクはキミの支配者なのだから」
「……そこじゃ狭いッス」
「……?」
「カウチ。狭いでしょ?……だから続きはベッドで。行きましょうよ、王子」
「……キミはホントに……」
「何スか?」
「今のだけでもすっごく怖かっただろう?でもね?あの続きやろうってんならキミが今想像してるよりもずっと酷い目にあうよ?」
「へぇ、そりゃ楽しみですね」
「また変な我を張ってキミは……背伸びしたい気持ちも、悪い遊びに興味津々なのもわかるけど……よしといた方がいいんじゃないかな?ベーベちゃん?ボクは大人だから率先してキミの不幸を楽しもうなんて思わないよ」
「今更やせ我慢かよ。内心ウッハウハなくせして」
「ハ……」
「んだよ」
「もう……ほら、素直に負けを認めて諦めてくれたら、最後のご褒美にボクが一度だけキミのそれ、うんと気持ちよくなるように優しく触ってあげるよ?そのままだと苦しいだろう?付き合ってあげるよ、キミの思い出の為にね?さぁ、こっちにおいで?」
「……」
「ボクはキミが嫌な事も好きな事も全部わかってる。だから匙加減ひとつで泣いちゃうくらい幸せな気分のまま、思いっきり気持ちよくイカせてあげることだって出来る。その方がいいだろう?なんなら……してあげたことなかったもんね?口でしたげよっか?いいんだよ?今日はおねだりしても。さ、それでおしまいにしよう?」
「そういってなんだかんだ言い訳して。怖がっても逃げられませんよ?」
「……怖がってる?フフフ、どっちがだい?ザッキー?」
「それは……」
「それは?」
「スイマセン、どっちもです、王子。俺はあんたに怖くないってちゃんと言ってあげたいけど、本当はやっぱり怖い。でも俺はそれでも逃げないし、怖がってるあんたも逃がさない。だから俺達はもう、二人とも逃げられないんですよ」
「フフフ、ホントなんだか今日のキミは珍しくドラマチックなことを言う」
「いいから早く」
「……舐めて欲しくないのかい?」
男がペロリと唇を舐めて言う。たったそれだけでゾクゾクとその舌先が触れたような快感が身を襲う。その恐るべき挑発力。
「でも……」
「なんだい?遠慮はいらないよ?」
チュ、とそれを匂わせるような形で舌を鳴らすようにキスをやんわりと投げて寄越すジーノの卑猥。それでも赤崎は。
「でもあんたは……本気になればそれよりもっといいこと、出来るんでしょ?」
「……」
「あんたが知ってて、俺の知らない、色んな事。沢山、全部……教えてください王子。あんたのほうこそ」
「……」
「遠慮なんてしなくっていい。本気……です俺。わかってください。お願いします」
つかみどころの無い揺れる表情のジーノが、赤崎の瞳を捉える。赤崎はそのことで揺らめく陽炎のような目の前の男に、手が届きそうなそんな気持ちが湧きあがる。怖い。でも。来てほしい、とそんなジーノの声が聞こえる様な気がした。これは男の助けを呼ぶ声なのか、残虐の罠なのか。不安で不穏で、それでも、それでもと。
「行きましょう?二人で。連れてってください。そしてそこで、あんたのやりたいように自由に、俺を好きにしてくれていい。俺はそれを受け止めるから、あんたを、心の中のめちゃくちゃ全部を、そうやって俺に何もかも全部、教えてください、王子。俺は、あんたを知りたい」
「……どうなっても、知らないよ?」
赤崎が手を伸ばすとジーノが黙ってそれを掴み、ゆっくりとした動作で再び立ち上がる。大丈夫だまだ間に合う、伸ばせばほら、こんな風に、まだこうやって手が届く。そう思った赤崎は快感と恐怖の抜けない体を抱えながらこれでいいんだ、と覚悟を決める。
――絶対に、頑張って王子の傍に行くから、着いていくから、だから、何もない、あなたの中の暗くて寂しい絶望の底に、俺を連れて行ってください、お願いします、王子
* * *
二人が去った月明かりが照らす部屋には、生ぬるく発泡の抜けたピーチカラーの液体が、澄んだグラスの中でポツンと取り残されているばかりだった。
