お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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鎖に繋がれて 8

ジーノ帰宅後、ジノザキ二人で喧嘩が始まります。ずーっと喧嘩(エロ風味)。ジーノが邪悪。R18G。人によっては不快な展開かもなので、無理そうな気がする人は1ページ目に入れたあらすじの参考に今回と次回は読み飛ばし推奨。ネチネチネチネチ、延々と二人でずーっと話してます。

封印

 寝室に行くと、ドアを開けた途端ジーノが言った。

「ここ……なんかキミの匂いがするね」

 赤崎は後ろからついて部屋に入ったので、この時ジーノがどんな顔をしていたのかも、その言葉をどういう気持ちで言ったのかもわからなった。だから極普通に返事をした。

「あんたがいない間、ずっと俺、ここであんたの帰り待ってたんで」
「ふーん、そうなんだ……」

なんで部屋に入れたのか、何故それが可能だったのか。やはり肝心なその部分に関するジーノの問いと叱責が丸ごとザックリ欠如していた。口に出すのも憚られる。そのことがジーノにとってあの鍵を渡すという行為が如何に重たいモノであったのかを如実に物語っていたので、安易に偽鍵扱いをした罪の過去が赤崎の脳裏をかすめ、今更ながらズシリと心が重くなった。さっきマンションをくれてやると言ったこと。ああ、この家はこの人にとってとっくに”二人の家”になっていたのだと。そんなことに思い至る。

「部屋さ、荒れてたでしょう?もうこのまま帰らないな、とか思わなかった?」
「勿論」
「頭が悪いと予測のセンスすらアレになっちゃうもんなんだね。なんかお気の毒」

 ボクが今こうしてここにいるのは奇跡に近いと言うので、あんたがここにいる事が今の現実だから結局そんなの奇跡でも何でもない、と言い返した。すると彼は、予測と願望の区別がつかないというのは全く以ってキミらしい、と笑った。

 そんな風に入り口、立ち話。これからベッドを共にする二人にしては、なんだか酷く刺々しくもぎこちないやり取りが暫く続いた。

    *  *  * 

「ま、取敢えずキミさ……先にベッドに横になっててくれる?」

 いつものジーノなら。通常二人がこうして一緒に部屋のドアを開けた時は、そのまま入り口で一度赤崎を抱き締め、優しいキスをして。互いに見つめ合い、微笑み合って。毎回失せることのない赤崎の戸惑いをそうしてふわりと和らげては歩き進むベッドへの行程を後押ししてくれていた。何をするためにこの家に呼ばれたのか。そのことをとっくに心と体で理解したあの頃の日々も、ジーノのそんな強引の中の密やかな寄り添いが、赤崎の心をいつも無自覚なままにひっそりと潤していた。

 それが今日はこんな風に。まるで道具か何かのように先に準備しておけと放り出す。さっきも、そして、今も。先を歩かされる。何度も。

 迎え入れるか、導くか。そんな当たり前の二人の儀式がないままの、いつもと違う夜の始まり。啖呵を切ってしまった以上、赤崎は違和感を感じながらも素直にそれに従わざるを得ない。

 意識もしたこともない、二人の間で繰り返され続けた様々な秘めたルールがまた一つ。赤崎は今、喪失することで改めて細やかなジーノの考慮と配慮を認識する。嘗て、自分はこんなにも幸せを受けていたのだ、この人から。本当に今更ながらそんなことを思い知らされてしまう。求められ、自分は頷くだけで良かった。大丈夫だと言われ、受け止めてもらうことが当たり前だった。
 理解しなかった自分の傲慢が責め苦の鬼となって、ジーノと自分を締め上げているのが感じられた。先に行けと、たったそれだけのことが自分の足をこれほどまで躊躇させるだなんて。率先することが、これほどまで困難なものだったなんて。赤崎は、ジーノの背負っていた見えない荷物を一つ知る。

 一人そぞろな心でベッドの上へ。心細さにジーノの姿を目で追うと男は、つい、と別方向へ。リビングの時同様なかなか自分の元に寄ってこようとはしなかった。遠い壁面、シンプルな飾り棚。そこに置かれていた一つの美しい細工の入った箱を手に取りじっと眺めている。

 暫くして、ふと、男の視線が赤崎を捉える。

「フフ、これ?もう何度も捨てようと思ってはいたんだけど……こうして役に立つ日が来るなんて思ってなかったよ。……いや、思っていたからまだ残ってたのかな?よくわからない」
「何ですか?それ」
「……キミの為の遊び道具」

 笑っているのにその顔はとても苦しそうで。遊び道具という響きがこの場で出てくる意味にゾッとする。だが、それよりも気になったのが、このジーノの苦しそうな目だった。

 赤崎の方をチラリと横目で見たジーノは、その心配そうな男の気持ちを察してか、

「駄目だよザッキー。ボクは今、キミのそんな顔見たくない」

と言い、見つめ返すジーノの目が言葉通り更に苦しいものに変化していった。

 ジーノはそうして箱を開け、中から細くて長い真紅の布を取り出した。小さい声で、ちょっと我慢してね?と言いながら近づき、それで優しく赤崎の目を覆う。
 ジーノの苦しそうな目を先程見てしまったことで、赤崎は恐怖よりも自責が高まり、抵抗する気を失った。何を言われても、何をされても、問題じゃない。今、一番辛いのはジーノだと言った、あの日の後藤の言葉が思い返される。
 苦悶の表情が視界から消える。ジーノの呼び寄せた暗闇の中、赤崎はとっくに済ませた覚悟を新たにする。

 男は赤崎のことを身の程知らずだと言う。確かにその通りだと思う。自分は今、ここから先、受け止めに失敗して更に苦しむ羽目になるかもしれないジーノの立場すら考慮せずに、今、こうして身の程知らずの傲慢を貫いている。だから。せめて1mmでも、意識的に男を苦しめる無理強いの、その分だけでも近付きたい。どうあってもこの手を届かせて、自分とジーノがズタズタになっても、それでもサッカーの世界に引き摺り戻したいと、強く思った。そうでないとこの人はもうこの先、と。持田のあの暗い目が、赤崎の心にやむにやまれぬ切迫感を生む。託された思いが、ジーノを思う心が、赤崎を強くする。

「思った通り、とってもよく似合う」

 今、赤崎が感じられるのはジーノの体に深く響く声だけとなり、見えないことで更に男が発する言葉にどんな感情が込められているのかわかりにくくなった。
 目隠しを結ぶのに髪に触れたジーノの手の気配も消え、暗闇の中の赤崎は孤独と不安の空気に包まれる。

「……王子?」

 ジーノに黙られ、赤崎はこの先どうしていいのかわからなくなった。何をされてしまうんだろう?いや、何をされるというよりも、寧ろ何もされず彼がこのままここから立ち去ろうとしているとしたら?ドンドン落ち着かない気持ちになった。
 固い床で行われた行為の余韻はとっくに冷えてしまっている。見えない不安が次々に違う不安を呼ぶ。気が気じゃなくて、名を呼び、おずおずと手を伸ばして空を掴むようにジーノを探す。
 すると、その手を優しく握り返してきた冷たい手の感触があって、赤崎はホッと胸を撫で下ろした。

「探すのに結構苦心したんだ。こういうのって大抵白か黒で、でもキミには絶対この強い赤が似合うって思ったから。本当に、想像してた通りだよザッキー、素敵だ」
「……」
「ねぇ、ザッキー。もう一度だけ尋ねるけど」
「……何ですか?王子」
「今、すっごく怖いでしょう?ボクの本当を知るのが。心細くて震えているのがまるで手に取る様にわかるよ」
「……」
「やっぱりやめておけば、とか。どう?少しくらいはそう思ってるんじゃない?その気持ちはとても正しい。それでもどん詰まりまで突き進んで……酷い目にあって、如何に自分が無価値な存在なのかってことを思い知りたいって言うのかい?ここから先、キミは何も手に入れられない。ハイリスクでノーリターン。何も得るものなどないよ?リターンがあるとすれば、嫌なモノばかりだ、絶望とか、失望とか、悔恨とか、そういう類の。ボクにとってキミがなんだったのかだなんて。そんな、本当はやる前からわかっていることだ。キミは薄々気が付いてるからこそ、ねぇ、そうでしょう?ザッキー?」
「なんの躊躇ッスか?それともこれ、もう始まってんのか?王子」
「フフ、本気だよ?聞くのはこれが最後。今なら尻尾を巻いて逃げ出していいってことだよ。どうする?まだギリギリ間に合う」
「答えるまでもねぇっつってんだろ?」
「後悔するよ?絶対に」
「しない」
「キミの世界は美しい信頼と情熱から出来ているけれど、この世の中は明るく人を照らす優しいだけの世界じゃない。キミは想像力が足りない。幼い心で暗いモノに触れたら痛いだけ。もしかしたら、これまでのキミのスタンスを根底から崩す致命傷にさえなるかもしれない」
「馬鹿にすんな」
「だってキミは馬鹿だろう?」
「うるせぇよ」
「ま、今のは最後の”王子”からの形ばかりの甘言。キミはそれを突っぱねたわけだから……もうボクも気にする必要はないってことだね」
「……ご存分に」

 ご存分に。そんな赤崎の一言によって、見えないはずのジーノの中から舌なめずりをするような愉悦の感情がゆらゆらと湧いて出た様な気がした。怪しい怪しい、二人の遊び。人に言えないタブーの行為。今こそそれがスタートする。予感ではない。それは明快な事実なんだろうと、赤崎はそんな風に感じた。

 それでも、もう、今は自分だけが”朝”を迎えようなど、最早これっぽっちも思わなかった。男がそれを晒すと言ってくれるのだから、もうそのことだけで全てが報われる気がした。知りたい。真実がなんであろうと。心からそう思った。