お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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鎖に繋がれて 9

ガチンコ対決前半戦。少々度を超えた行為をジーノがやらかし、ザッキーがやらかされます。R18G。ようやくこのシリーズも終盤です。長々としたお話ですが、もう少しお付き合いいただければと思います。

決意~赤崎の場合

 今日の”夜”は異質。

「ところでザッキー、聞いてくれる?ボクは今日、キミの手厳しい飼い主だから、うんとキミをしつけてあげるから。大丈夫かな?もうそんなにボクを怖がって?」

 暗闇、奇妙なテンションのジーノの声色。果てしない遠さ、それともこれはどうしようもなく食い込んでくるようなある種の近さなんだろうか?そんな耳障りなのかも、心地よいのかも判別のつかない不思議なトーン。ああ、これは。と赤崎は思う。そう、赤崎はこの感覚を知っていた。突然のあの、二人の夜がいきなり始まったあの日の。

 でもあの時と今とは全てが違う。

 何の覚悟も自覚もないままに騙し討ちのように組み敷かれたあの日とは、つまり、求められる喜びに何かを成し遂げた様な充足を感じたあの日とは明らかに違う。
 今日は自分がジーノを、強引なこの力で深く抉り暴く。ボロボロの心をこじ開けて踏み込もうとしている。こんなに嫌がって必死にそれを隠そうとしている男に、無理を強いて。そんなことを再認識する。

 夏の不調、突然の粗暴、減る口数、チームメイトへ暴言や赤崎への無視。自分が枷で、二人の関係が切れさえすれば解決する問題だなんて、尊大で欺瞞に満ちた答えを見出し。全てが解決したはずの、別れの後の年が明けたあのハイテンションとプレイのムラは明らかに異常なそれだったのに、愛する人の混迷など後回しに、捨てられた自分の辛さに夢中になった。
 今日見た人形のように生気を失ったその姿は、まさに深手から膿が吹き出し壊死が始まっているそれだった。ジーノには大きな外科的治療が必要だったにもかかわらず、赤崎との数少ない診察の機会に涼やかな男の繕いだけを医者のその目に映して出して、自身のその深刻な病巣をひた隠した。煙に巻かれる自分の稚拙さに赤崎は強い自責の念を抱くのは当然で、だから今、やれば死んでしまうかもしれない男の病巣にあえて強引に手を入れる。

 キミは何もわかっちゃいない、と男は言う。

 実際そうだった。赤崎はジーノの口から語られない男の秘密があの虚ろに濁りきった心にいくつも沈んでいることを棚から知った。特に若きジーノの記した冷徹なまでの自己分析記録は、途中からイタリア語のそれに変化したため内容のそのほとんどが解読出来なかったとはいえ、その綿密さ執拗さから、男が如何に苛烈な環境に生きていたのかを赤裸々に知らせた。ジーノの蝶のように優美でセンシブルなプレイの数々が、重い石を背負いながら行われているものだなんて、一体誰がそれを信じよう?

 ジーノは人知れず重大な症状を抱えながら、それでも表面上は貴公子の姿を保ったままに気紛れの顔だけ残して姿を消した。

 あの日の、廊下での出来事を知らずにいたなら?
 持田とのあの夜の出会いがなかったら?
 彼の示唆を自分が察知できなかったら?
 いや、そもそもこの手に男から託されたあの鍵がなかったら?

 一体どうなっていただろうかと考える。多分、今でも呑気な苛立ちだけを抱え、己の淋しさにだけ酔いながら毎日過ごしていたことだろう。ボロボロの男をそのままに。

 反吐が出る思いだった。

 あまりに秘密裏なジーノと持田の二人の関係性を考えれば、あのまま動けなくなってしまったジーノをあの家から円滑に病院に送り出せるとも思えない。兎も角目立つ二人なので、救急車は勿論、一般診察で受付にいるだけでも人目を引き、この病名の不明瞭なジーノの状態について、あることないこと、さぞかしマスコミは面白おかしく騒ぎ立てることだろう。悪意の飛び交うゴシップ記事は病んだジーノの心を更に引っ掻き、本当の再起不能にまで追い詰めてしまうかもしれない。

 どこから手遅れの段階に入る?最悪を想定してみてゾッとする。今この現状は極めて悪いものではあるが、それでも細い糸を繋いでいる。
 赤崎は暗闇の中の、些細な希望の光を見ていた。本来の赤崎の有り方、スタンスそのものが男の心理を救っていた。

 ジーノの本当の望みとは?願いとは?それはいつでも別れだった。それはいつでも自分の納得のいく結論とはならなかった。どれだけ思考を重ねても、これはありえないという答えばかりが心に浮かぶ。

 ストイックなまでに語られない男の傷跡。そして男の失った人生の中の彼自身の持ちえた様々なモノ。最愛のサッカーをも手放さざるを得ない状態に追い込まれた男に対して、自分はどうすればそれを癒し、取り戻してやれるのだろう?搾取せずに、貪らずに、どうやって?何が出来る?彼はそれを望まない。もうそれを望むだけの力がない。

 本気の本気で、赤崎は必死に考える。出来なくてもやるんだ、是が非でもと、今こそと、その全神経を集中させて一生懸命真摯な思いでそのことだけを考えていた。失敗することが許されないことを、失敗覚悟で挑みにかかる。破綻しか見えない結末を眺めてハイリスクノーリターンを口にした男が今、この希望の見えない強引な賭けにすら優しく乗ってくれていた。そのことに赤崎は光を見ていた。ただ一人それを見ようとしていた。