お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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鎖に繋がれて 9

ガチンコ対決前半戦。少々度を超えた行為をジーノがやらかし、ザッキーがやらかされます。R18G。ようやくこのシリーズも終盤です。長々としたお話ですが、もう少しお付き合いいただければと思います。

均衡

「あのね?ボクが美しい物を好むのは知ってると思うけど、それには理由があるんだ」
「理由?」
「わかる?理由」
「……わかりません」

 耳鳴りのするような静けさ。色のない世界。赤崎は今、ジーノの声だけが感じられる、ジーノだけがいる世界の中に。

「なんていうのかな?性癖?好きなんだ、物を壊すのが」
「壊す?」
「うん。とても美しくて強いのにとても脆そうなもの程いいんだ。手に入れて、可愛がって、油断させてメチャメチャにする。キミは本当に純粋で、未熟で、澄んだ水のように綺麗で。だからキミがチームに合流したその日から、キミはとても上質なボクのターゲットになった」
「何言ってるんだ?あんたは最初の頃、名前すら全然覚えてくれなくて俺は」
「嫌だなぁ、本当だよ。ボクは今、キミの望み通り正直な話をしてあげてるんだよ?つまりボクにはそういう強い破壊衝動があって……あの頃は日常の中で何かを壊したくて壊したくて、餓えていて……いつもそのことばかり考えて暮らしてた。だから、キミは凄く印象的だったんだよ?本当に」
「話を作ってるんだ、王子。何がしたくて?悪ぶって?それとも気にかけてたって言えば俺が喜ぶとでも?」
「ハ……、なんてお気楽な子なんだキミは。なんでもそうやって自分の都合良いように、一体どんな頭してる?湧いてるんじゃないの?」
「……ッ」
「キミが喜ぶから?そんなわけないだろう?ボクが親切にキミを喜ばせ続けていたのはその方が梯子外す時に残酷な目にあわせることが出来るからだよ。キミに話しかけるずっと前から、キミを壊すために、その為だけのおもちゃをこうして……周到に用意して、ボクは……ずっとそんな風に、変質的な目でキミをメチャメチャにする日だけ夢見て。ね?知らなかっただろう?」

 赤崎は知らなかった。本当にそうだったんだろうかと違和感の中、彼がやりたかったというその行為を身に受ければ、それが理解出来るのだろうかと考えた。どんなことでも知って、理解して、手が届く距離までどうあっても近付かねばならない。あの秘密に触れ、ケア出来る程の近距離まで。

「ずっと我慢してた。時々……我慢しきれずに乱暴したこともあったけど。キミはとてもボクに丁度いい獲物でありながら、やっぱり同時に可愛い後輩でもあったから。だから、当然躊躇くらいはしたさ。常識に立ち返って後悔して、反省して、でもそういう綺麗事をイチイチ、のうのうとほざいてる自分も全部辛かった。ボクは病んでるくせにまともな顔して嘘ついて、そして目の前でキミが騙され呑気な顔して笑ってる」
「王子、それは……」
「わからないよね?キミはボクを理解出来ない」

 その通りだ、と赤崎は思う。ジーノは赤崎の全てを知っていると言い、そのことが紛れもなく赤崎の心を支え続けてきた。無理解な人間ばかりを傍に置いて、その孤独の中でジーノは何を思っていたのか考える。知って欲しかったろうか。しかし男はそれにむけて一切の要求をすることがなかった。病んでいると言った。恥じていたんだろうか。人との触合いを諦めていたんだろうか。今、諦めながらそれを口にしているんだろうか。
 理解出来ない、と男ははっきりと断言した。不可能は男の中の推論ではなく、強い意味を持つ結論だったのだ。赤崎はこの時、ジーノのあまりに深い絶望の孤独に触れる。今、どんな思いでこれをやる?赤崎は自分の無理強いに従っている男の心中を測っていた。

「そしてキミ自身のことも理解出来てない。何一つだ。だってもうキミはボクに呆気なく支配されて、そして既に壊れ初めてしまっている事にすら、自分で全く気付かない馬鹿なんだから」

 繋いだ手、その指先にジーノの舌が這う。

「……んっ!」
「重ねて言うけど、ボクはね?キミを見て、すぐに準備をして、壊す為だけにキミに近付いたんだよ?」

 硬直する赤崎の一本一本の指の股の部分をジーノは舌先で丹念に刺激する。時には深く指を咥えこみ、口内で吸うようにしながら、出したり入れたり、ゆっくりとキャンディアイスを楽しむかのように犯していく。その度に、クチュ、クチュ、と音が室内に響き、それと同時にゾクゾクとしたものが駆け上がる。赤崎は何故かいつも以上に意識が音の卑猥に集中してしまう。口淫を匂わせた先程のジーノの仕草で頭が一杯になっていく。

「うぅ……」

 淫靡な音が耳に響くのは、視覚を奪われたことで触覚と聴覚が過敏になり始めていたせいだった。感覚を一つ封殺することで他を高める。それはジーノがまさに狙ってやっていたことで、赤崎はまんまといつもとはまた違う快楽の波を呼び覚まされて、知らぬ間に翻弄されつつあった。

「はぁ!…ん…うぅ……」

 ジーノの呼び水で淫靡の官能が走る。声が漏れる。

 しかし、赤崎の体はいつものようにジーノに抱き締められていないので、舐られる指先だけのこの不思議な快楽とは裏腹に、ぽっかりとした空虚の中に放り出されている様な心許なさがあった。自分のこの体の震えが、快感なのか不安なのか、どちらのものなのか、今の赤崎には判断することが出来なかった。

「キミは安易で、愚かで、気性が真っ直ぐで。あっという間に簡単にボクの手元に転がり落ちてきた。その辺はホント、つまんなかったなぁ」
「……んッ…」
「壊す為に手塩にかける。そんなボクの趣味の部分をキミが一種の愛情と勘違いしたのも致し方ない。だって、このボクが全部そうなるように仕向けた上に、キミという人間が恐ろしく単純だったからね?ハハハ、現実はキミの思っているのとはかけ離れてる。今日はキミの意気込みに免じて目一杯思い知らせてあげるね?本当を知るのが楽しみだって言うんだから、キミ自身が」

 ジーノの声も震えている。苦悩?官能?それもまたわからない。

 思い知らせるという言葉と同時に、男の手が離れていく。赤崎はまた不安になる。しかし部屋の空気が張り詰めた静けさとなって、赤崎の体をまるで拘束するかのように押さえつけていているので、ベッドの上から動けない。
 小刻みの震えが止まらず、重く体を横たえたままで、赤崎は男を求めて軽く両腕を空に舞わせるくらいのことしか出来なかった。ひっそりと、か細い声で彼を乞う。鼻っ柱が強いはずの自分のなんとも情けない懇願。これこそジーノの言う、支配の名にふさわしい恐怖と従属だった。

「どこッスか?見えないから……」

 俺らしくない。なんでこれくらいのことでこんなに不安で心細いんだ?何かがおかしいと感じながらも、赤崎は何も出来ない。

「からかうのもいい加減にしろよ。抱きたいんだろ?早くすればいい」

 気丈なのは口だけ。きっと全部筒抜けだ。そんなこともわかっていながらついて出る無意味な言葉。怖くて、不安で、動けないまま、か弱く震えてジーノを呼ぶ声を止められない。ドアが開く音は聞こえなかったはず。まだ傍にいるはず。どうして何も言ってくれない?

「……いるんでしょう?なんで?王子?……いますよね?なんか言ってください」

 結局こうなる。イニシアチブがジーノにあれば、根競べなど無意味な話。

「ぅ……王子……王子……いるんだろ?なんで何もしゃべらない?」

 こうして赤崎が弱音を吐き始めても、ジーノは沈黙を続けていた。

 長い、長い、そんな孤独の夜の時間の後に、突然クスリと小さい笑い声が鳴り響く。

「王子!いたんですか?なんで?いるならちゃんと返事くらい!」
「怖いのにキミ、随分長い事、我慢出来たね?ナカナカ偉いよ。目隠し、途中で外すかと思った」

 ジーノの低い落ち着いたトーンの声が赤崎の耳に響いて、緊張で強張った体の力が抜けた。良かった。居てくれた。そんな安堵だった。

「王子なんでこんな……俺がどんなに今……」
「うん、そうだよね。うんと怖くて、そしてちょっとホッとした感じ?そんなちっぽけな布きれ一枚なんだけど結構威力あるもんだね。なんかはまっちゃいそう。今度また誰かに試してみようかな?」
「なんで?こんな事したってなんの意味も……」
「キミにとってはね?そういう無意味っていうか、害しかないのがいいんじゃないか。大いにボクにとっては有益だ」
「!」
「それにしてもキミお留守番してる間、そんな風に過ごしてたのかな?随分と愁傷っていうか……フフ、すっごく女々しい。数少ないファンが泣くねぇ?」
「なッ」
「ゴメンゴメン、大丈夫、いい感じだよザッキー?満足してるんだ。多分キミなら、すぐにドンドン体感していけると思うよ?大事に大事に、手塩にかけてきたつもりだから。本当に思うように素敵に育ってくれて……どんなに……どんな悲痛な顔するんだろう?って今からもう、ホント、ゾクゾクする」
「体感って……ゾクゾクとか……一体何言って……悪趣味ぶってもあんたには全然似合わないよ王子……」

 そう言って恐々と手を伸ばしても、やはりそこには何も触れるものがない。そして返事が再び消えて、不安で震える羽目になる。

「フ……フフ……似合わないだって!……面白い……ホント、この子って面白い……ハ、ハハ……アハハハ」

 ひとしきり、笑い声。そして再び、あの沈黙。何も聞こえない、繰り返される孤独の時間。入り口のドアは閉めてあったろうか?開いたままなら音などしない。

「……王子!」

怖い!そんな思い。ここにはジーノしかいないのに、そのジーノが怖い。そしてその怖いジーノにすら触れていられない今がこんなにも怖い。必要以上の恐怖、孤独を感じて赤崎はその辛さを叫びのような呼び声で吐き捨てる。

「何か言ってください!王子!」

 この暗がりで、一人眠れず過ごした日々が長過ぎた。日に日にジーノの匂いが薄れていくこの部屋の中、赤崎はあっという間にあの日常に戻っていく。もう二度と男に会えない、そんな孤独に。永遠にジーノを失う、耐えきれない妄想の中に。今この時が、眠れない夜に見てしまった、そんな儚い夢の世界なんじゃないのかなんて。本当にジーノはここにいないのではないのかなんて。

「どこに……ねぇ、いますよね?いるんでしょう?王子!」

 長い沈黙。体が強張って起き上がることもできないような緊張の中、何度も何度も男を呼ぶ。

「嫌だ!返事を……王子、王子!」

「俺、こんなのは……嫌だ、王子、やめてください……もう……」

 怒り、叫んでいるつもりだった。でも声を張ることすら出来ていなかった。震えて、歯の根が合わない。声が少し掠れている。そうして、自分の声がドンドン沈黙に吸い込まれていく。

「王子……」

 誰にも、どこにも届いていないんじゃないだろうか?この声が。今この自分の存在を感じさせるものが、体が、声が、心が、この世から隔離されてしまって何一つなくなってしまったんじゃないだろうか?そんな錯覚の中に落ちていく。
 妄想なのはわかってる。考え過ぎだ。でも赤崎は次第に身を刺す沈黙に蝕まれ、いよいよ以って耐えられない。いないかも、全部夢だったのかも。だから、長い長い時間躊躇しながらも、もう限界だと、本当に今自分は目隠しなんてされてるんだろうかと、確認をするために手を挙げる。もしかして、単純に自分が目の開け方を忘れてしまっただけなのかもしれない。全部ジーノに会いたいが為に見た夢なんだ。

 その瞬間にやっと声。

「いいのかい?」
「ッ!」

 それはまるで体が貫かれるような衝撃だった。孤独が潤い、全身が歓喜する。まさにそんな、ジーノは今、ここにいるのだ。嘘じゃない。これは、己を支配する者。圧倒的な、これが、これこそが赤崎の思うジーノの声。

「王……子……いた、王子……」
「折角ボクがつけてあげたのに」
「王子?何?つけたって」
「ん?そのキミの目隠しのことだよ?もうなかったことに?そっか、もう、尻尾巻いて……ボクはそれでも……かまわないけどね」
「あ……」

 一人勝手な夢ではなかった。目隠しされた現実に再び実感が湧いてくる。良かった、今男は本当の自分を見せてあげると言い、この不安も含めてジーノが自分に与えたかったものの一つなんだと認識する。彼は今、自分自身の為だけに、この身とこの心を打とうとしてるんだ。

 働かない頭で、ああそうだ、今自分は王子の言いつけを破って目隠しを外そうとしたと思われたんだと、気が付いた。そのことに、怒っている?

 つい先ほどのリビングで二人、怖くても逃げ出せはしないと言ったのは赤崎自身だった。そう、望んだのは自分。彼の巻いたこの目隠しを外してしまえばおそらくもう二度と彼を取り戻すことは出来なくなるのだ。今何故こうして二人ここにいるのか思い出す。これは情事の形をした二人の時間を取り戻す戦いだったのだと。唇を噛んで腕を下ろした。違う。これは、優しく語る自分のよく知るこの男は、自分の本当に見たがったジーノではない。ボクはそれでもかまわない?そんなわけがない。喜ぶべきではない。これは、愛しい人でありながらも、自分の、そしてジーノ自身の敵。

「外さないの?」
「……」

 抑揚の少ない低い声のトーンではジーノの感情が全然読み取れない。でもなんで彼が目隠しをさせたのか、なんでこの状態で沈黙するのかなど、おそらくこちらがどれだけ考えてもあまり意味のない事なんだろう。赤崎はそう考えた。小手先に惑わされずに、冷静になるべきなのだ、もっと、もっと。

 一方、ジーノの方はといえば。

「命拾いしたね。なんだ……自分で外したら、どんな目に合せてやろうかとワクワクしてたのに……ク……ククク……ちょっと残念」

 抑えきれなくてといった風情で、男が笑う。そう、これがさっき少し赤崎が触れた、ジーノの言うところの本当の。
 その一言で、自分が試されていたことを、また一つ知る。自分の覚悟の強さをジーノがまだ測っている。何回も何回も重ねて行われるジーノの確認。外さなくてよかったと、心からそう思った。