鎖に繋がれて 9
ガチンコ対決前半戦。少々度を超えた行為をジーノがやらかし、ザッキーがやらかされます。R18G。ようやくこのシリーズも終盤です。長々としたお話ですが、もう少しお付き合いいただければと思います。
拘束
「とっても綺麗だよ、ザッキー」
ジーノの言葉が咀嚼できない状態の中で、赤崎は時々我に返る瞬間を迎える。気が付くと不自然な形で拘束されている感じがした。
「あ……王子?……何して……?」
「フフ、待ってて?もうちょっとで出来るからね?」
屹立した先端からぬらぬらとダラしなく欲情の期待の証が滴り落ち始めている。イクとかイカないとか、もうそんなこともどうでもいいと思える程、延々と、この物足りないような、痛烈なようなとめどない官能に泥酔していく。
それでも、身を離されれば男が傍にいないのではないか、このまま消えてしまうのではないのかと急に不安が強まったりもする。これもまたジーノの思惑通りの赤崎の抱える甘い毒の一つだった。官能に飛んだままではつまらないだけだ。快と不快を同時にきっちりと感じてもらわねば意味がない。そんな気持ちで、沈黙と声掛けと、離反と接触を、戦略的な意味を込めて不規則に繰り返していた。自由自在に翻弄されて、赤崎はもうただただ無力なままに。
「さぁ、出来た。ちょっとそのまま動かないでね?後で見せてあげる為だから」
暫くしてシャッター音が何回も部屋に響いたのだが、赤崎はその音の意味を理解できないでいた。いやその音色ですら愛撫として貪り、ジーノの成す官能に陶酔した。
「ん、痛ぅ……」
体勢が苦しい。力を入れるとキリキリと締め付けられるような痛みがあちこちに走る。拘束が体に無理を強いる。目隠しをされたままなので確認も出来ない。一体自分がどうなっているのかわからない。
「ね、王子、……何?俺に、何……した?あぁ……苦し……」
「プラスチックカフだよ?やっぱりこのチープさ、キミにぴったり。カラーは色々あったけど黒にしたよ?思った通りキミの綺麗な肌にすごくよく似合ってる」
質問しても、もう赤崎の頭にはジーノの返事の内容そのものが断片的にしか入ってこない。ただ、その拘束の苦痛が、ゾクゾクと不用意な快楽を生んでいるだけ。
「プ……プラ?……カ、カフ?って、な…なんスか?」
「知らない?結束バンドとかとも言うけど。荷造りとかコード束ねたりするやつ。これはそういうのじゃなくてちゃんと遊び専用のだから安心してね。さすがに最初からハードなのはって思ってさ?知り合いに教えてもらったんだ売ってる店」
「これ、なんか……痛い……アチコチ、王子、これ、嫌だ、なんか、あッ……」
「凄い鳥肌だね。喜んでくれて嬉しいよ。ちなみに手足用だけじゃない、色んなとこに付けるタイプのがあったんだ。ああいう店って色々刺激されちゃってホント大変でって、ああ、キミは行ったことないからねぇ、残念、わかんないか」
「食い込ん……、きつ……」
「あんまり暴れないでね?専用っていってもやっぱりそれなりに危ないから。本当は徐々に遊びに慣れてきてから一つ一つ増やしていくつもりだったんだけど、もういいよね、手順なんか今更。特別サービスに箱にあるもの全部つけちゃった」
「痛い……王子、ねぇ、これ……痛い……」
「姿勢を保ってたら大丈夫だよ?そんなにきつく締めてないからね。ほら、こうしてなるたけ腕は後ろの方にしておかなきゃ、そうそう、そのまま」
ジーノの誘導でどうすれば痛くないのかを把握する。腕は後ろに、そのまま壁を背に寄り掛かるようにして。足は大きく左右に割り膝を曲げて立てる。つまりは、胸を突き出すように晒しながら、尻を付けたまましゃがみ込むように陰部を露わに。目隠しをしていても、自分がどれだけ破廉恥な恰好を強要されているのか痛いほどわかった。
「ねぇ、ヤンチャするとすっごい痕残るから。十分気を付けてね?エッジもソフトだけど、それでもペンチじゃないと切れないし、絶対自力じゃ外せないから。暴れたら痛いし多分血も出るよ?血管の太いとこ傷ついちゃったら出血止まんなくてホント危ないかも。まあ、そういうのもボク嫌いじゃないし、キミも好きならご存分にどうぞ。ただし、お医者さんに事情話せる勇気があるならね」
暗闇、正面に立ち、屹立の淫らを見下ろしている男の幻が浮かんでいる。もうそれを想像するだけで露出が物欲しげに涎を垂らし、ピクピクと喜びを示す反応を続けている。
「金属の手錠は見た目はいいんだけどボクの体に当たる時の冷たさが不快で使わない主義なんだ」
「その点、レザー製はいいね。典型的なボンテージの卑猥さがある上に、傷もつきにくいから見える場所もOKだし。全部プラスチックカフにしようと思ったけど手首だけはそれにしたよ?さすがに目立つからね。でもいい感じ。よく似合ってる」
「実は手首のヤツと御揃いの、首輪や陰部を飾る系のタイプのヤツも売ってたんだ。でも首輪には鎖がつきものでそうするとそれも冷たいし、デコレートだけの実用性のないのはイマイチねぇ?撮影目的ならなんだけどさ」
「着衣系の拘束具も売ってるけど本格的な奴は採寸が必要だったりして残念だけど用意出来なかった。いつかは、なんて思ってもいたんだけどね」
ペラペラとまるで独り言。初めての拘束のタブーに酔っている、赤崎の耳には届かない。赤崎の性趣向はとても健全で、こういう世界にはあまりにも無知だった。全く想像がついていかない恐ろしい現実。だがそれ故、赤崎の持つ貪欲な知的好奇心と弛まぬ向上心を大いに刺激し、屈折した形で本領を発揮し始めてしまっていたのだ。赤崎は心も体もとても素直で伸びやかで、信頼する相手からならどんなことでも吸収する。その優良な資質を今、ジーノは大いに悪意を以って利用していた。
大きく開いた赤崎の片足を持ち上げながら、ジーノが再び足先を舐め上げる。赤崎はねっとりとした艶めかしさに思わず反射的に足を動かした。
「ぐっ…!?」
「ああ、駄目駄目、せっかくボクが持ってあげてるのに。足伸ばしたら首締まっちゃうよ?」
後ろ手に縛られ、上半身の自由が奪われていたことはすぐにわかった。けれど、首に回された柔らかい布の感触も拘束の一部だったとは気が付かなかった。
赤崎の腕は背中の位置でクロスし、手首足首がそれぞれ逆になる形で繋がっていた。右手は左足首に、左手は右足首に。手と足を繋ぐ余裕の長さは多く見積もっても50cm程。正直日頃の鍛錬のおかげで鞭のような柔軟な体を持つ赤崎からしてもかなり苦しい姿勢だ。
背後にクロスさせられている腕を無理に元に戻そうとすれば引っ張られて足が開き、足を閉じようとすれば反対に腕が締め上げられる。赤崎がわかっていたのはそれだけだった。特に足を拘束しているプラスチックカフの輪は強く引けば引く程際限なく締め付ける様になっていたので、その内側にあるギザギザの突起が擦れることによってミミズのような擦り傷の痕を次々に肌に刻んだ。
見えない目で赤崎が観察をすれば、首にくるり、喉仏を包むように回る一本の布の感触。目隠し布のような滑らかな、とても心地よい肌触り。先端が左右に垂れて、平たい胸板に淡い官能を呼んでいる。
足を伸ばして苦しかったのは左側の首筋、痛みが走ったのは右太腿の内側。つまり。左胸に垂れた布先が右太腿の拘束の輪へ、右胸に垂れた布先は反対の左太腿の拘束の輪へ、後ろ手の腕と同様、クロスした形で繋がっている。足を伸ばせば首と太腿が同時に絞まる仕組み。膝を曲げて足を体に寄せていなければ弛まない。長さに余裕がなかったことを考えれば、布の長さは2mにも満たないものだという事までわかった。
「そうそう。いい子。まだ要領つかめてないだろうし、ちゃんとボクの言うこと聞くんだよ?じゃないとホント、危ないからね?」
「うぅ……はぁ!」
そう言いながらジーノは持った両足のくるぶしから先端にかけて片方ずつ丹念に舌先で味わう。赤崎の背中にはクッションがあてがわれていた。ジーノのちょっとした配慮だった。それでも、壁にもたれた姿勢とはいえ拘束を意識しながらの愛撫はまさに受難と言えるもので、積極的なジーノの行為で体が反射し、その度に体のあらゆる場所に快感と苦痛が駆け巡った。
「……あぁ!ん…はぁ!」
「痛くって苦しくって、そんで、すっごく気持ちいいよね?ほんと、みっともない恰好してさぁ。素直ないい子なのに、こんなに倒錯的なことが大好きだなんて困った子だよね。ピッチでのあの鋭いキミとは大違いだ。この落差がまたいい感じで……うん、すごくいい。誰も知らないキミの秘密。性的な事や女の子にも興味ないってすまし顔で、それでいてこんなに本当は淫らで、自分が汚れれば汚れる程、そうやって感じちゃう。真性だよ、キミ」
ジーノの凝視の先には赤崎の雄特有の欲情の証と、それと近接するひくついた秘所。足を広げ膝を曲げたその姿勢のおかげで、息を吹きかけて届くくらいのまさにすぐそこという近い距離にあった。それでもその二つを目で犯しながらも、ジーノは一切触れることなく執拗に足先を舐め続けていた。クチュクチュと唾液の音を立てながら、時々土踏まずの部分に歯を立てる。足の甲に足の裏、指の間に内外のくるぶし。練習のしすぎで内出血とタコの層のある足の甲、つまりインステップのミートポイントは特にジーノのお気に入り。そのかさつく固い箇所を毎回執拗な程念入りに舐りつくすのが癖だった。
「んん!王子……!はぁ……ッん……!」
「ホント、エロティックだよ?ザッキー。凄くそそられちゃう。怖くて、苦痛で、いつにも増して、ほら、出す声がこんなに甘くて、可愛くて」
「や!ッ……ん!!」
「フフフ、可愛いって言われるのも嫌なんだよね?ホント可愛い。ほら、言われる度にこんなに体が反応しちゃって……嫌な事されるの、好き?もっと、もっとって、ほら、こんなにキミのが……フフフ、たまんない」
嬲りの言葉などもうとっくの昔にわからない。そんな赤崎の状態をわかっていながらジーノは自身の嬲りの行為そのものに興奮し夢中になり始めていた。
赤崎の体は今、拘束されながらジーノの愛とそのぬくもりも受けないままベッドに放り出されいて、心細いその体を、男の手先の冷たい感触と、足に時折触れる男の服の無機質な感触と、舌先のねっとりと熱い感触だけが包み込んでいる。
物理的な、なんの熱情もない真っ黒で空虚な世界。そこは露悪的ですらあるドロドロの性の世界だった。今、赤崎の傍に居るのは最愛の人であるジーノではなく、性欲という赤崎の中の動物性を玩ぶだけの悪魔のような生き物でしかなかった。穢し堕落させることが目的であるジーノの翻意を、赤崎は確かに丸ごと残さず受け取っていたのだった。
気持ちの全てが当たり前のように足先に集中していく。赤崎はまるで自分が足になってしまったような気した。ジーノの舌先の生む快楽と、自身が生み出す拘束の苦痛が体中に広がっていく。まるで自分の足以外が全部闇に溶けてしまったかのような錯覚に陥り、赤崎は自分が今何をしているのか、今何処にいるのかさえわからくなっていった。ギリギリとした締め付けによって生じる擦り傷の熱、フラフラと空を彷徨う屹立の心細ささえ身を溶かすドロドロの官能。
「今更なんだけど、考えてみたらこんな酔った状態で遊ぶのなんてボク初めてでさ。ちょっとヤバいかなぁ?キミがいくらお利口しててもボクの方が手先狂ったりしたらとか。ねぇ、ザッキー?大変なことになっちゃうかもしれないよねぇ?死なない様に気を付けてよ?キミも。ああ、でも、無理か、体自由にならないもんね。フフフ、駄目そうだよね」
ジーノはスキンシップが大好きで前戯も執拗なことが多かった。だから、こんなにまで体を離し、温かみのない、局所的な、相手を追い詰めていくだけの冷たい愛撫をしたことは今まで一度もなかった。
「死なないでよ?っていいながらも……寧ろ死んじゃう!とか、死なせて!って叫び出しちゃうくらいにはしてあげたいんだけどね?実は。フ……フフ、変なの、ボク屈折してる」
ああ、いけない、キミなんてどうでもいいんだった、とハタと気が付くような軽い口ぶりの言葉が続く。そうしながらジーノは、カタ、コト、と箱の中の何かをまた探し出そうとしていた。
「!?」
「大丈夫、怖がらないで?いきなり使いはしないから」
