鎖を解いて 2 【2部完】
準備 「じゃ、王子」 「うん、またあとで」 朝食を済ませて、赤崎は午後練の準備 …
準備
「じゃ、王子」
「うん、またあとで」
朝食を済ませて、赤崎は午後練の準備に一旦自宅に帰って行った。玄関先、ジーノは眩しそうに、でもにこやかにそれを見送る。
* * *
「またあとで、か……」
ジーノは、その、懐かしい一言に思わず自身で身震いする。もう二度とこんな瞬間迎えることなどありはしないと、もう何か月も、そしてついさっきまでそう考えていたからだ。
昔、ジーノはこの瞬間をもう何度も繰り返し過ごしてきた。
この家を立ち去る赤崎。
取り残される自分。
そこはかとない不安。
日中なのに日が暮れたように暗くなる空間。
一人ぽっちの静けさ。
それがあまりにも苦しくて、辛くて辛くて、いつしか立ち去る赤崎を見送ることも、返事をすることもやめてしまった。眠りから覚めると慌ててリビングでコーヒー片手にカウチに座り、努めてその瞬間を意識しないよう必死に心の中にある目と耳を閉じて、耐えられそうもないことを一生懸命耐えようとした。手に持つ雑誌はただのフェイク。じっと、赤崎のくれたマグカップの模様にだけ意識を集中していた。小さな王冠。自分は王子。王子だと。そんな威厳を保つ努力だけ。それこそ必死に考えて。
でも、今の感覚は全く別のものだった。
開くドア。赤崎は必ずここで一旦振り向いて、照れくさそうに右手をすっと顔まで上げて、じゃ、と挨拶をする。いつもの姿、いつもの表情。
立ち去る赤崎。
笑顔で見送る自分。
そこはかとない高揚感。
何も変わらない暖かい空間。
この静けさは二人居眠る、あの穏やかな時間と同じ。
全てが視界から消え去っても、未だ残る赤崎の存在。
「うん、ザッキー、またあとで」
この身が離れても何ら変わらず繋がっている。ジーノには今そんな不思議な実感があり、その上で更に再会の瞬間を夢見る、期待のような喜びが胸に広がっていた。
「さて、準備しますか」
ジーノはそういうと、鼻歌を歌いながら楽しげにくるりと振り向き、スタスタと廊下を歩き始めた。その足取りは鼻歌同様とてもリズミカルで軽いものだった。